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日米宇宙探査シンポジウム
講演1
「はやぶさ探査の主な成果」 川口淳一郎 JAXA宇宙科学研究本部 宇宙航行システム研究系教授
「はやぶさ」は世界で初めて往復の惑星間飛行をするミッションです。(※図1)2003年の5月にM-Vロケット 5 号機によって打ち上げられ、1年後の2004年5月に地球をスウィングバイして加速を行い、2005年9月に小惑星イトカワに到達し、ランデブーしました。「はやぶさ」はイトカワに3ヶ月間滞在しましたが、最初の2ヶ月間で遠隔観測とイトカワの形状のモデル化をほぼ終え、その結果をもとにして、11月20日と26日にのべ3回の接地と1回の着陸を行いました。計画では、12月にイトカワを離れて2007年6月に地球に帰る予定でしたが、探査機に問題が生じたため、帰還を3年間延長し、2010年6月に変更しました。

「はやぶさ」の特徴の一つは、電気推進エンジン(イオンエンジン)を搭載していることです。イオンエンジンはキセノンというガスをプラズマ化して、プラスの電気を帯びたイオンを極板を使って加速するエンジンです。これまでの燃料と酸化剤を燃焼させるような化学推進エンジンと比べて推進力は小さいですが、燃費がよく、燃料の効率がよいことで知られています。イオンエンジンは以前から研究されており、静止衛星の位置を停めるためによく使われていますが、惑星間を飛行するという目的で搭載するのは計画当初「はやぶさ」だけでした。NASAのDS1(Deep Space 1)というミッションで、イオンエンジンによる推進が我々より先に宇宙空間で実証されましたが、「はやぶさ」のイオンエンジンは新型で、マイクロ波によって推進剤のキセノンガスをプラズマ化したり、極板の材料を金属から複合材へ変えるなどして、従来のものに比べ3倍から4倍寿命が長く運転できるよう工夫されています。
その他にも、搭載されている4つのイオンエンジンを、同時に3つ運転し、そのエンジンをうまく組み合わせることによって、性能を劣化せず、出力を絞るという工夫をするなど、「はやぶさ」にはさまざまな技術的チャレンジが盛り込まれています。

そして、自律航行も「はやぶさ」の大きな特徴です。自律的に自分の居る所が分かって、自分が行くべき方向を見定めることができるという機能を持っています。着陸地点への誘導はターゲットマーカーというフラッシュランプのようなものを使いました。(※図2)
これは、光を当てると、光が来た方向に反射するという特殊な布を使っていて、2秒間に1回ずつフラッシュをたき、フラッシュありとなしの画像の差分からターゲットマーカーの位置を検出するという処理を、探査機で行います。「はやぶさ」は、先に投下されたターゲットマーカーの位置を自分で見つけて、イトカワに降下していきました。
上下方向だけの着陸というのは高度計があればそれほど難しいことではありませんが、「はやぶさ」の場合は、探査機が水平方向に毎秒8cm動く、その横向きの速度をどうやってゼロにするかが大きな課題でした。しかしそれも、ターゲットマーカーを使うことによってうまく処理することができました。

「はやぶさ」は2004年の5月19日に地球をスウィングバイしましたが、その17時間前に満月の地球を撮影しました。(※図3)北緯30度くらいから見た満月の地球が、ちょうど月の距離(30万km)から撮影されましたが、これはスウィングバイしないと絶対に撮れない画像です。また、「はやぶさ」がスウィングバイ後に撮影した写真では、地球が半月に見えます。

「はやぶさ」の目標は、1)電気推進機関による、2)ランデブーで、3)往復飛行を行うことで、「はやぶさ」はこの2番目まですでに終わりました。最近の諸外国惑星探査と比較してみると、「はやぶさ」だけがこの3つに挑戦しています。(※図4)
2006年1月に彗星のチリを地球に持ち帰ったアメリカの「スターダスト」は、フライバイといって、彗星をすれ違いざまにチリをキャッチしたわけですが、「はやぶさ」は、イトカワの上空でいったん静止(ランデブー)して、試料を採取します。これは例えば、「電車に乗って東京駅を出発し新宿を通って東京に戻ってくる場合、新宿を通るときに砂粒をキャッチして持ってくるのか、それとも新宿で途中下車をして買い物をしてから戻ってくるか」の違いがあります。20年30年先には、地球を出発した探査機が、太陽系を飛行してまた地球に戻ってくることが可能になると思いますが、それを可能にするのは、高性能な推進機関と、このランデブー技術だと思います。そういう意味で、途中で立ち止まる、ランデブーすることはとても重要な技術ですし、そして何よりも往復飛行することは、先進的なチャレンジだったと思います。

「はやぶさ」がイトカワをカメラで最初に捉えたのは、2005年7月下旬でした。(※図5)イトカワから約35,000kmの距離で、スタートラッカ(星姿勢計)を使って撮影に成功しました。8月中旬までにのべ24枚の撮影をし、これらの画像をもとに、地上からの電波による観測とを複合させて、「はやぶさ」探査機の精密な軌道決定が行われました。このナビゲーション方法を複合航法と呼んでいますが、このような軌道決定は世界初の試みで、「はやぶさ」の航法技術は世界第一線のレベルまできたと思っています。

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図1



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図2



図3



図4



図5



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