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2005年9月12日、「はやぶさ」はイトカワから約20kmの所に到達し、ほぼ完全に静止しました。こちらのゲートポジションからイトカワを観測した後、10月には高度を下げ、イトカワから7〜8kmのホームポジションで、観測を続けました。場合によっては、高度2〜3kmまでイトカワに近づき、詳細な観測を行いました。


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図6


11月には、リハーサルを入れて5回降下しました。(※図6)最初は11月4日で、次の9日は航法誘導機能の試験をするために、最初のターゲットマーカーを分離しました。これで、先程申し上げた画像処理による位置検出の機能を確認したわけです。12日は2回目のリハーサルで、この時にミネルバという小型探査ロボットを投下しました。この3回が練習、模擬飛行で、これに続いて、11月20日と26日に設置と試料採取を目指して飛行しました。
3回目の飛行で、ミネルバを分離し機能は確認できていましたが、残念ながら、イトカワ表面にミネルバを到達させることができませんでした。その最大の原因は、やはり誘導制御でした。きちんと軌道をコントロールするという誘導と航法について、私たちは考えあぐねていたのです。目標点から200mも離れた点に降下してしまうことが続いていました。これにはいろいろな原因がありますが、根本的な原因は、姿勢制御装置であるリアクションホイールを3つのうち2つ失っていたことで、これを補うためジェットによる3軸姿勢制御を常時行わなければならない状態にありました。ジェットを噴くたびに、水平方向あるいは上下方向に予定外の加速度が加わるという非常に不利な状態におかれていて、それをどれだけうまく管理するかが一番の課題でした。私たちはその問題を何とか解決したいと考え苦しみ、そして4回目の飛行の前に画期的な進展がありました。イトカワ表面の地形を参照して、その地形に基づいて自分の位置を推定する処理を開発したスタッフがいたのです。非常に短期間のうちにその方法を獲得できたのは、チームの皆が一致団結した努力の結果だと思います。
どれくらいのことを管理しなければならないかというと、地上で蟻が歩く速度、毎秒1cmぐらいでしょうか。ところが、イトカワ上空の探査機と地球は3億kmも離れているため、交信に約40分かかります。何らかの判断をして、もう一度リモートコントロール(遠隔操作)しようとすると、1時間ほどの時間がかかってしまいます。1時間かかると、1秒間に1cm動いているものが36m動いてしまうのです。イトカワの着陸ポイントの領域は40mくらいしかありませんから、蟻の速さくらいの誤差があると到達できなくなってしまうわけです。最後の40分の前までに地上で蟻が歩く速度まで精密に位置と速度を推定しなければならない、というと随分難しく感じますが、実は、簡単に大きな誤差となってしまう状況にあるということは、逆にいうと、誤差がいくらであったかを感度よく推定できることを意味しています。この性質を利用して、実際にどのくらいの速さで動いているか、そのくらい速度がずれているかを推定しなおすツールを、3回目と4回目の飛行の間に完成させました。


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図7



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図8



図9
そして迎えた1回目の着陸飛行。その前にミネルバの投下にも失敗し、これまでなかなかうまくいかなかったので、88万人の署名入りターゲットマーカーを分離することに、大変なプレッシャーを感じていました。これをしくじると大変なことになると内心ドキドキする反面、先程申し上げたツールができ、精度の高い姿勢制御が可能になったので何とかなるかなと思って臨みました。幸いターゲットマーカーの分離と着地はうまくいき、「はやぶさ」は当初計画されていたイトカワへの接地だけでなく、30分間着陸していたことが後で判明しました。
続いて2回目の着陸は11月26日で、この時には接地を行って、試料採取のためのプロジェクタイル(弾丸)を発射する指令を与えるところまでできました。

イトカワ表面への着陸は非常に簡単な方法で、地球方向に探査機のアンテナを向け、その場所から直線的に降りてきます。(※図7)高度が500mぐらいまでの所では、地上を介して情報を参照しながら探査機の軌道を制御していますが、それ以下の所では、交信に40分もかかる地上からのリモートコントロールでは間に合わないため、探査機にすべてを託します。探査機はターゲットマーカーを分離し、それをカメラで捕捉してどこに行けばよいかを確認し、高度を低下させていきます。そして、ある高度まで行くと、自分の高度を表面に対してある一定の高度に保ちながら、表面の傾斜に合わせて探査機の姿勢を変えていきます。これをホバリングと呼んでいますが、その後、探査機は着陸します。これらのシーケンスはすべて探査機が自律的に行っています。

11月9日に分離されたターゲットマーカーを探査機が撮影しました。(※図8)また、小型探査ロボットのミネルバが、探査機から切り離された際に母船を振り返って撮影した画像には、「はやぶさ」の太陽電池パネルの裏が見えています。ミネルバによる画像の取得は、地球から探査機経由でミネルバに指令が送られ、その指令に答えてミネルバが画像をとらえ探査機に送り、その画像を探査機が地球に送り返すというオペレーションで行われました。残念ながら、ミネルバはイトカワに着陸できませんでしたが、ロボットとしての機能は十分確認できたと思います。

着陸候補点は当初2つありました。1つはウーメラ域で、もう1つはミューゼスの海とよばれている場所です。(※図9)「はやぶさ」のサンプル採集装置は長さが1mぐらいしかありませんので、凸凹が1mもあると困ります。設計では、半径36m、直径72mの円の中に 1m以上の凸凹があってはならないということで、場所は慎重に選びましたが、4日の降下リハーサル時にかなり表面に接近して画像を撮影したところ、ウーメラ域は予想以上に大きな岩石が密度濃く存在していることが分かりました。そのため、着陸地点は2回ともミューゼスの海にしました。そのミューゼスの海も幅があまり広くなく、せいぜい40mぐらいしかなかったので、着陸の際の誘導制御には大変苦労しました。



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