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新たな展開を迎える日本の宇宙輸送
日本の宇宙開発は新たな一歩へ
三菱重工業 H-IIBロケット プロジェクトマネージャ
後藤智彦
得意なモノづくり技術を活かして
H-IIBロケット第1段液体水素タンク
H-IIB第1段液体水素タンク


これまでのH-IIAロケットは、すべてJAXAの主導で開発されてきましたが、今回のH-IIBロケットは、JAXAと三菱重工業株式会社の共同開発になっています。基本仕様の作成や燃焼試験、ロケット発射場でのシステム試験などの全体のとりまとめをJAXAが担当し、三菱重工業は自分たちが得意とするモノづくりに直結する設計や製造を担当しています。また、H-IIBは日本で初めてロケットエンジンのクラスタ化を行います。そういう意味で、最先端の技術開発をJAXAが担当し、民間は、直径5.2mのタンク開発に代表される自分たちが得意な製造技術の開発を行うというように、役割分担がはっきりしています。官民共同のロケット開発は日本で初めての取り組みですが、得意分野を生かした効率的な開発が可能となることを期待しています。
豊富な実績で効率性の追求を
移管後初めてのH-IIAロケット打ち上げ(2007年9月14日)
移管後初めてのH-IIA打ち上げ(2007年9月14日)

2007年に三菱重工業は、JAXAからH-IIAの打ち上げ業務を移管され、商業打ち上げ受注業務を開始しました。それ以前から、私たちはJAXAから委託を受けて打ち上げ業務に携わり、H-IIAの打ち上げを11回成功させたという実績があります。また、コストダウンや品質維持・向上といった民間の得意な部分を取り入れることによって、より効率的な運用ができるということで、H-IIAの打ち上げ事業を行うことになりました。
H-IIAは失敗もありましたが、それを乗り越えて、今は打ち上げ成功率93%近くまで達成しており、世界レベルの信頼性を確保していると考えています。現在は、H-IIAの打ち上げサービスしか提供しておりませんが、開発中のH-IIBロケットにおいても、これから打ち上げ成功実績を重ねて信頼性を向上させ、技術的に確立された時点で、打ち上げサービスのロケットのラインナップの1つとして、国内外の市場に売り込んでいきたいと考えています。H-IIBは、2トンから4トン級の静止衛星を2機同時に打ち上げられる能力があります。2機打ち上げても、H-IIAの2倍の打ち上げ費用はかかりませんので、衛星1機あたりのコスト削減にも貢献します。そういう意味からも、H-IIBは商業的にもとてもポテンシャルの高いロケットだと思います。
JAXAとの信頼関係づくりを常に意識
H-IIAとH-IIBロケットを並行して製造
H-IIAとH-IIBを並行して製造


私たちは、常にJAXAとの信頼関係を意識してプロジェクトを進め、情報共有の場を持つようにしています。例えば、基本的に週1回、進捗状況の報告をし、何か現場で問題があった場合も隠さず、お互いが納得した方法で解決します。
JAXAと三菱重工業が共同で開発するのは、このH-IIBが初めてです。これまでは、JAXAが研究、開発するものを、民間に委託されて設計、開発、製造をするという形態でした。今回、H-IIBでは、JAXAが基本仕様は決めていますが、それを実現するためにどのようにつくっていくかは、三菱重工業の裁量に任されています。その意味では、民間の守備範囲が広がり、気持ち的にも違い、責任がかなり重くなりました。ただ、責任分担に違いはあっても、ロケットをつくる現場では、すべてに対して常に全力を尽くしていますので、モノづくりに対する意識は以前と変わりません。
2009年初めには、H-IIBの初号機を種子島宇宙センターに向けて出荷しますので、現在、急ピッチで製造を進めています。H-IIAの製造も並行して行っていますので、工場にはロケットが所狭しと置かれています。製造するロケットの数が増えると、設備の老朽化への対応など設備投資も必要になってきます。日本の宇宙産業をこれからも維持、発展させていくためにも、JAXAには頑張っていただきたいと思います。
全力を尽くして初号機の打ち上げに臨む



三菱重工業では、H-IIBと宇宙ステーション補給機(H-II Transfer Vehicle: HTV)の製造も行っていますが、ロケットとペイロード(ロケットに搭載する荷物)の両方をつくるのは初めてのことです。2010年にはNASAのスペースシャトルが退任する予定ですので、国際宇宙ステーションへ物資を補給するために不可欠なHTVの製造も、とても責任が重いと思っています。JAXAと三菱重工業、そして、H-IIBとHTVもタッグを組み、共に初号機の打ち上げを成功させるため、ベストを尽くしたいと思います。
宇宙開発は、高度な技術で高い信頼性が要求され、費用もたくさん掛かりますが、日本が宇宙に行く手段を独自に持っているということは、自分たちが必要なときに宇宙に行けるという安心感、信頼感があるということです。これは先進国として必要なことだと思います。我が国では2008年に宇宙基本法が成立し、今後の宇宙開発についての議論がいろいろされていると思いますが、ぜひ国家戦略の1つとして宇宙開発を推進してほしいです。例えば、ロケットを高性能にして、もっと重いものを運べるようにするとか、宇宙ステーションなど、宇宙での活動をどんどん発展させていくといった将来路線を国に敷いていただき、それに対して、私たち民間企業がモノづくりで、国の期待に応えます。そういう役割分担が、今後も必要だと思いますので、それを広げるためにも、2009年度に予定しているH-IIBの打ち上げを、ぜひ成功させたいと思います。

後藤智彦(ごとうともひこ)
三菱重工業株式会社 宇宙機器技術部 次長。H-IIBロケット プロジェクトマネージャ
1983年、広島大学大学院工学研究科修了。同年、三菱重工業に入社。ロケットの開発・設計や、国際宇宙ステーション「きぼう」日本実験棟の開発・設計に従事。
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