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環境に優しい航空機技術の開発 〜クリーンエンジンと超音速機〜
技術は人が育てる
Q. クリーンエンジン技術の開発の課題、または苦労している点は何でしょうか?

山根:新しい技術の知恵を出すのは私たちですが、試験をするための模型を作るのが苦労する点です。自分が設計したものを外注して作ってもらいますが、既存の技術では作れないようなものを新しく作る場合もありますので、こちらの希望通りに作ってもらうのが難しいです。タービン翼の場合は、中を冷却するために、内側にいろいろな突起が出ていて複雑な構造になっていますが、もっと性能を上げようと思うと、さらに複雑化したものを作って試験をします。普通ではやらないような加工をあえてやることもありますが、その場合、実際に模型を作ってくれる方ときちんと相談をしながら、性能が上がるように作ってもらうというのが難しいです。見た目は設計通りでも、自分が考えたものとまったく違うものができあがると、性能が出ない場合もあるので注意が必要です。

環状燃焼器試験設備
環状燃焼器試験設備
牧田:私が担当している燃焼器に関しては、開発と設備の人が一緒になって研究を進めています。開発担当と設備担当が分かれているのではなく、例えば、こういう燃焼器を開発したいとなった場合、燃焼器の設計者が、設備での作業にも関わって試験していきます。試験の現場に行かず、設備も見ないで物だけ渡して試験してもらうという方法では、細かいところまで見えてこないと思います。一方、共同研究をしている民間企業の場合は、開発と設備の運用は分業化されている事が多く、研究開発を行っている技術者が、例えば、「ここの空気流量と燃料流量をこのように変えて試験をしてデータを取ってください」という仕様書を書いて、試験の現場には行けないというシステムをとっているところもあります。その方が効率が良いこともありますが、試験担当の人たちからの情報がすべて上がってくるかは分かりません。一緒に試験をしていると、もし自分が予想した温度と違っていたら、その場で試験を止めて、確認してからもう一度やりましょうと言えますが、仕様書だけだとそういうことはできません。この点でも、私たちと違うシステムを持つ民間の方たちと協調しながら開発を進めていくのは、とても大切なことだと思います。

林 茂 写真

林:今はそれぞれの担当に分かれて各々のエンジン要素の技術を研究しているわけですが、最終的にはそれらを集めて、「クリーンエンジン」という1つのエンジンにしなければなりません。窒素酸化物の排出量が低い燃焼器の技術を開発しても、それが1時間しかもたないようなものではだめですし、タービンなど他のところに悪い影響を与えるようでもいけません。騒音が低く、窒素酸化物や二酸化炭素の排出を低減するというすべての要求を満たすエンジンを作るためには、各々の部署が連携をとり、また共同研究をしている民間の方ときちんと役割分担をしながら、効率よく開発を進めていかなければなりません。ただ、効率よく進めていくためには、もっと人材が必要です。技術開発といっても、要は「人」です。私は燃焼器の開発をしてきましたが、自分が設計をし、外部に依頼してできた物を試験して、データを収集し、解析をして、次にどういう試験をやるかという一連の作業をほとんど1人でやっています。これはこれで全体が見えて面白いですが、1人でやれることには限界があります。分業することによって、それぞれの英知を集め、さらにいい方法論を見つけることもできます。1人1人が研究・開発に関してじっくり考える時間もできるので、より一層、先進的な成果をあげることができると思います。

Q. どういうきっかけで航空機技術の研究をするようになったのですか?

牧田 光正 写真
牧田:子供の頃から飛行機が大好きだったというわけではありませんが、「ものを作る」ということがとにかく好きでした。小さい時から、誰もがやっていないこと、新しいものを作りたいという気持ちがありました。ですから、縁あってこの研究所に入って、燃焼器の開発に関わるようになり、実際にものを作る機会に恵まれたことは、ある意味で自分の夢を達成できたかなと思います。

山根:中学生の頃に、松本零士さんのSF漫画「キャプテンハーロック」に出てくる、宇宙船「アルカディア号」が大好きで、宇宙を速いスピードで飛ぶものに惹かれました。ところが、そのような宇宙船はまだ実現できそうにありませんし、大学に入ってジェットエンジンの研究をするうちに、ずっと力を出して飛び続ける飛行機のほうが好きになってしまいました。

林:もともと航空機会社に入って機体の設計をやりたかったのですが、残念ながら、日本の航空機産業の技術は、第二次世界大戦の敗戦後に開発を中止されたこともあり、世界から見ると大変遅れています。その遅れた技術をとりもどして、世界に優位に立つためには、まだ他がやっていないような新しい環境技術を開発するしかないと思ったのです。航空機の場合は、環境規制がどんどん厳しくなれば、環境方面で素晴らしい技術を持っているところが、これから強くなると思います。これまでは、エンジンの部品すべてを日本の技術だけで作るということはありませんでした。ですから、クリーンエンジンという新しい技術を、日本独自で開発したいと思います。

Q. 今後の夢や目標はどんなことですか?

牧田:自分たちが開発するクリーンエンジンの技術で、NEDOのエコエンジンプロジェクトなどに貢献したいと思います。エコエンジンに限らず、実際に使われるものに、何らかの形で自分が関わった技術が入って行けばいいと思います。そのようなエンジンが空を飛ぶのを早く見たいですね。

山根 敬 写真

山根:やはり、自分が関わって作ったものが実際に量産されて、民間機として活躍し、それに自分が乗るというのが夢です。私が研究しているタービンの技術は、海外企業の独壇場で、日本主導でエンジンを作らない限り、なかなか日の目を見ない部分です。私たちのクリーンエンジン技術が入ったエンジンをまずは実用化したいです。一旦実用化されれば、さらに新しいバリエーションへ発展させることができます。エンジン全部を日本で作れるようにしておけば、その改良も、すべて私たちの技術でできることになります。

林:私も同じですね。自分たちの技術が入ったエンジンを搭載した航空機に乗りたいです。環境に優しい、日本のエンジンをぜひ実現したいです。


林茂(はやししげる)
JAXA 航空プログラムグループ 環境適応エンジンチーム チーム長。工学博士。
主として航空用及び産業用ガスタービンの低NOx燃焼技術の研究に従事。旧科学技術庁航空宇宙技術研究所(現JAXA)に入所後、革新NOx低減研究グループリーダ、航空推進研究センター長等を歴任し、2005年より現職。クリーンエンジン開発プロジェクトの統括責任者。

牧田光正(まきだみつまさ)
JAXA 航空プログラムグループ 環境適応エンジンチーム エミッション低減セクション 主任研究員
1992年、名古屋大学工学部航空学科卒業。1994年、名古屋大学大学院工学研究科航空工学専攻前期課程修了。旧科学技術庁航空宇宙技術研究所(現JAXA)入所。燃焼器内部の数値解析の研究に従事。その後、旧通商産業省工業技術院でのエンジン開発プロジェクト管理業務、イギリスのクランフィールド大学での研究、JAXA企画部門でのプロジェクトリスク管理業務を経て、2004年より現職。航空用燃焼器の研究開発に従事。

山根敬(やまねたかし)
JAXA 航空プログラムグループ 環境適応エンジンチーム 高温化セクション 主任研究員
1987年、東京大学工学部航空学科卒業。1992年、東京大学大学院工学系研究科航空学専攻博士課程修了。同年、旧科学技術庁航空宇宙技術研究所(現JAXA)入所。ジェットエンジン内部流れのCFD解析、熱解析に従事。途中、旧通商産業省工業技術院でのエンジン開発プロジェクト管理業務に従事。2006年より現職となり、ジェットエンジンのタービン部耐熱冷却技術の研究開発に従事。
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