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私たちの地球を守るために〜環境問題に貢献するJAXAの取り組み〜 宇宙から温室効果ガスを測る 温室効果ガス観測技術衛星「GOSAT」 プロジェクトマネージャ 浜崎 敬
温室効果ガスの濃度分布を観測
「GOSAT(Greenhouse Gases Observing Satellite)」は、地球温暖化の防止に貢献するミッションです。温暖化の要因となる温室効果ガスの中で、6割を占めるのが二酸化炭素で、2割を占めるのがメタンガスです。この2種類の温室効果ガスの、全世界の濃度分布と変化を高精細に、かつ高い頻度で観測します。2008年度にH-IIAロケットで打ち上げる予定です。
温暖化予測の精度を上げる
温室効果ガス観測技術衛星「GOSAT」

温室効果ガス観測技術衛星「GOSAT」


現在、世界では地球温暖化が深刻な問題となっており、50年後に二酸化炭素の排出量を半減するといった長期的な目標が議論されています。そのためには、観測精度を向上し、長期的な気候変動予測をより正確なものにする必要があります。これまで、温暖化の予測は、世界のいろいろな研究機関が地上の観測データを使って、スーパーコンピュータでシミュレーションしてきました。日本では、国立環境研究所や気象研究所、東京大学などが参加しています。また、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)では、世界で行われている研究成果をまとめ、100年後の気候変動予測の報告書を公表しています。しかし、現在の地上観測では、観測ポイントが約260点しかなく、その地域にも偏りがあるため、地球全体を測っているとは言えません。従って各国の研究機関の地球温暖化予測に差があるというのが現状です。GOSATでは、全地球の観測ポイントが56,000点もあり、3日ごとに全球データを取得しますので、温暖化予測の精度向上に貢献できると思います。
温室効果ガス削減の成果を地域別に見る
現在の地上観測地点(上)とGOSATの観測地点(下)

現在の地上観測地点(上)とGOSATの観測地点(下)


二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出量については、各国で自国の排出量を計算し、推計を出しています。例えば、発電所の効率がこれだけ上がり、二酸化炭素の排出がこれだけ減ったとか、石油の消費量をこれだけ減らしたから、二酸化炭素の排出がこれくらい減ったといった具合です。しかし、国ごとに統計の精度も違いますし、観測基準も違います。ですから同じ観測基準で測定された確かなデータが必要になってきます。GOSATでは、全地球同じ観測基準で測定した二酸化炭素の濃度が分かりますので、これを用いて、世界各地域の排出量がどれくらい減ったか、各地域の削減対策の効果を客観的に推定できます。それによって、温暖化対策が効率的に進むことを期待しています。
世界中の温室効果ガスの削減に貢献
GOSATでは温室効果ガスの観測と、温暖化対策の検証に役立てるだけでなく、温室効果ガスの削減に直接的に貢献することが可能です。パイプラインからのメタンガスの漏れをGOSATで早期発見し、温室効果ガス削減に貢献します。例えば、北海やシベリアでは天然ガスが取れますが、その天然ガスは何千kmものパイプラインでヨーロッパなどに輸送されています。そのパイプラインから、かなりの量のメタンガスが漏れていると言われています。その漏れをGOSATで早期に検出し、すぐにパイプラインを修理することができれば、メタンガスの排出量を減らし、世界中の温室効果ガスの削減に直接つながります。
国内および国際的な協力体制の構築
JAXA地球観測センター(鳩山局)

JAXA地球観測センター(鳩山局)


GOSATを軸とした国内および国際的な協力体制の構築が進められています。国内では、JAXA、環境省と国立環境研究所との共同プロジェクトとして、データ解析が行われる予定です。気候変動予測の実績がある国立環境研究所で、温室効果ガスの濃度分布や各地域の二酸化炭素の吸収排出量の解析を行い、その後、JAXAと国立環境研究所から全世界へデータが配布されます。
国際協力については欧州宇宙機関(ESA)とアメリカ航空宇宙局(NASA)との話し合いが具体的に進んでいます。ESAの協力は、主にデータ受信と配布に関することです。GOSATのデータは、日本の鳩山局(地球観測センター)とノルウェーのスバルバード局で受信しますが、データを日本に伝送するためのネットワーク費用の一部をESAが負担してくれます。その代わりとして、JAXAからESAへデータを提供し、それがヨーロッパの科学者たちへ配布されます。科学的な利用だけでなく、ヨーロッパ中期気象予報センターをはじめ、各国の省庁や気象機関などでもGOSATのデータを利用したいという要望もあり、それに応えるべく準備が進められています。
また、GOSATと同時期に打ち上げられる予定のNASAの炭素観測衛星OCO(Orbital Carbon Observatory)とは、データの相互利用をはかる協力が行われています。お互いの観測装置の比較実験をして観測基準をそろえたり、両方のデータのフォーマットを共通にするなど、より使いやすいデータを世界に同時提供できるよう準備が進められています。
打ち上げを目前にした開発の最終段階
GOSATの熱構造モデル

GOSATの熱構造モデル


GOSATは2008年度の打ち上げを予定しており、現在、開発の最終段階にあります。これまで私たちは、衛星の信頼性の向上にかなり力を入れて開発を行ってきました。衛星が無事に打ち上がっても、途中で観測機器が故障したら、ミッションを継続することが難しくなります。そのため、従来の衛星では片翼だけのものが多かった太陽電池パドルを双翼にしたり、観測機器を二重化しています。さらに宇宙空間で遭遇するかもしれない小隕石の衝突も含め、あらゆる可能性を想定した対策をとり、衛星の信頼性向上を図ってきました。衛星はすでに完成し、今は、筑波宇宙センターで宇宙環境を模擬した環境試験を行っています。例えば、熱真空試験では、衛星に搭載する観測機器が、宇宙の真空環境で正常に機能するかどうかを試験します。また振動試験では、ロケットで打ち上げられる時の環境を模擬して、衛星が振動に耐えられるかどうかを試験します。これらの試験が終わると、衛星を種子島宇宙センターへ輸送し、H-IIAロケットで打ち上げます。
地球観測衛星をより身近な存在に
JAXAでは、「安全で豊かな社会の実現」をビジョンに、より社会貢献性の高い衛星の開発・運用を行っています。例えば2006年に打ち上げられた陸域観測技術衛星「だいち」は、災害情報など社会生活に役立つ情報の提供を行っています。JAXAでは、GOSATを打ち上げた後も、地球環境変動観測ミッション「GCOM」、全球降水観測計画「GPM」、雲エアロゾル放射ミッション「EarthCARE」など、温暖化対策に貢献する衛星を継続して打ち上げる予定です。環境問題を解決するためには、GOSATが観測する温室効果ガスだけでなく、炭素循環や水循環など、地球を総合的に診断・監視する取り組みが必要です。その先陣となるGOSATのミッションを成功させ、地球の環境問題にぜひとも貢献したいと思います。そして、地球観測衛星が私たちの生活により身近な存在となるよう努力していきたいと思います。


関連リンク:
浜崎 敬(はまざき たかし)
JAXA宇宙利用ミッション本部 温室効果ガス観測技術衛星「GOSAT」プロジェクトマネージャ
1979年、東京大学大学院航空学専門課程修士課程修了。同年、宇宙開発事業団(現JAXA)に入社。システム計画部、衛星技術開発室、宇宙ステーション計画NASA駐在員、陸域観測技術衛星「だいち」サブマネージャなどを経て、2003年より現職。
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