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私たちの地球を守るために〜環境問題に貢献するJAXAの取り組み〜 安心して暮らせる環境を維持するために 
JAXA理事 宇宙利用ミッション本部長 堀川 康
災害・地球温暖化・気候変動分野に重点を
JAXAの地球環境観測プログラム

JAXAの地球環境観測プログラム

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衛星による地球観測は、宇宙から全地球規模で観測ができますので、さまざまな分野への展開が検討されています。2003年には、第1回地球観測サミットが開催され、地球観測に関わる国の閣僚級代表や国際機関が参加しました。サミットでは、地球観測に関する政府間会合(GEO:Group of Earth Observation)が設立され、現在、70以上の国と欧州委員会、50以上の国際機関が参加しています。2004年4月には東京で小泉首相が出席して、第2回地球観測サミットが開催されました。また、2005年の第3回地球観測サミットでは、全球地球観測システム(GEOSS:Global Earth Observation System of Systems)の構築へ向けた10年実施計画がまとめられ、日本を含む世界各国の協力で進められることになっています。
GEOSSでは、災害、健康、エネルギー、気候、水、気象、農業、生態系、生物多様性の9項目が公共的利益分野として設定されましたが、その中で日本が何に重点を置くかを総合科学技術会議(内閣府)で議論し、わが国の地球観測の推進戦略がとりまとめられました。その中で、日本は災害、地球温暖化、気候変動を優先して行うことになり、JAXAではその一環として、温室効果ガス観測技術衛星「GOSAT」、地球環境変動観測ミッション「GCOM」、全球降水観測計画「GPM」、雲・エアロゾル放射ミッション「EarthCARE」といった、気候変動予測の精度を上げ、温暖化対策の立案に貢献できるような衛星の計画を立てました。また、2006年に打ち上げられた陸域観測技術衛星「だいち」の後継として、災害監視に特化できる衛星計画を立てようという検討も始まっています。
長期継続するJAXAの環境戦略
JAXAでは、地球をいろいろな側面から観測する衛星の計画を継続的に考えています。特に、地球環境問題に貢献できるプロジェクトの開発や研究を、長期継続して行う予定です。通常、地球観測衛星の寿命は5年程度ですが、100年後の地球の気候がどうなるかを予測するためには、5年の観測では十分なデータが取得できるとはいえません。ですから、衛星を数世代継続して打ち上げ、少なくとも10年、15年規模で観測を行う必要があると思います。
JAXAでは、長期継続観測の初めての試みとして、地球環境変動観測ミッション「GCOM」を計画しています。これは、地球の水循環や大気、植生、海色などさまざまな地球変動を観測する衛星で3世代継続し、10年以上の長期観測を行うミッションです。また、GCOM以外の衛星についても、後継機を計画して、同じ目的の観測ミッションを継続していく予定です。
オールジャパンで能力と技術を結集
海洋観測衛星「もも1号」

海洋観測衛星「もも1号」


日本は、旧ソ連、アメリカ、フランスに次いで世界で4番目に人工衛星を打ち上げた国であり、宇宙先進国として国際的にも評価されています。また、1987年にわが国初の地球観測衛星「もも1号(海洋観測衛星)」を打ち上げて以来、20年以上の地球観測の実績があり、この分野での貢献が国際社会から期待されています。その期待に応えるためにも、JAXAだけでなく、国内の大学や研究機関とも協力し、オールジャパンの能力と技術を結集していきたいと思います。例えば、電波レーダに関しては、情報通信研究機構(NICT)が長年の研究実績を持ち、これまで数多くのレーダ観測装置を開発しています。宇宙環境で機能する装置を開発する知見を持つJAXAと、優れた装置を作る技術を持った人たちが一緒になって開発をすれば、これまでにない素晴らしい観測装置を作ることができます。そういう意味で、衛星搭載用のレーダ観測分野では、日本は世界トップレベルの技術を持っています。これからも、JAXAがリーダーシップをとって、日本の技術能力を結集し、世界に誇れる衛星技術を確立していきたいと思います。
国際協力を積極的にリードする日本
「センチネル・アジア」プロジェクトに貢献する陸域観測技術衛星「だいち」

「センチネル・アジア」プロジェクトに貢献する陸域観測技術衛星「だいち」


衛星や観測装置を作るのは、ある意味で縦割りのプロジェクトで分かれていますが、共有できる技術やデータの研究については、横のつながりを持って進めるようにしています。例えば、衛星データは受信したものを処理解析して、利用機関や研究者が使えるように加工してから提供していますが、その解析技術の研究を総合的に行っているのは地球観測研究センター(EORC)です。地球観測研究センターにはJAXAのさまざまな観測データが集約され、一般の方にも情報を提供しています。
全球地球観測システム(GEOSS)は、日本だけでは実現できません。やはり、宇宙開発において先進的に活動している国々が協力し合って、観測の頻度や精度の向上に努めなければなりません。JAXAでは、アメリカやヨーロッパ、アジア諸国との国際的な協力体制を積極的に展開しています。衛星の観測機器の共同開発や、データの相互提供など、協力の仕方はさまざまです。アジア諸国とは、アジア・太平洋域の自然災害の監視を目的とした、「センチネル・アジア(アジアの監視員)」という国際協力プロジェクトを進めています。また、宇宙からの地球観測計画の国際的な調整を行う目的で、1984年に設立された地球観測衛星委員会(CEOS)があり、JAXAは事務局の1つとして中心的な役割を果たしています。このように、いろいろな国々や国際機関との間で協力を進め、より充実した社会の実現に向けて貢献していきたいと思います。
安心で安全な生活のために
私たちが持つ新しい技術や知見によって得た成果を、より多くの方の実生活に役立てたいと思います。例えば、地球観測によって気候変動予測の精度が高くなれば、温暖化に対する具体的な政策を取りやすくなります。その結果として、世界の人たちが安心で安全な生活ができればと思います。また観測データは、地球環境問題解決や災害対策以外にも、天気予報や農業、漁業、地図の作成など、私たちの生活に密着した情報としても利用できます。より精度の高い、質のよいデータを、利用者が使いやすい形で提供していければと思います。これからもJAXAは、社会生活に貢献する地球観測の研究や開発に努めていきます。


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堀川 康(ほりかわ やすし)
JAXA理事。宇宙利用ミッション本部長。工学博士
1973年、東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。同年、宇宙開発事業団(現JAXA)へ入社。静止気象衛星「ひまわり」1〜3号の開発に従事。海洋観測衛星「もも」や、地球資源衛星「ふよう」など主に地球観測衛星に携わった後、1987年より国際宇宙ステーションプロジェクトへ。1998年、国際宇宙ステーション日本実験棟「きぼう」プロジェクトマネージャ。2002年に執行役に就任。2005年より現職。
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