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私たちの地球を守るために〜環境問題に貢献するJAXAの取り組み〜 地球の環境変化を長期継続観測  地球環境変動観測ミッション「GCOM」 プロジェクトマネージャ 中川 敬三
気候変動予測と実利用への貢献
「GCOM(Global Change Observation Mission)」は、地球の環境変動を継続的に観測するミッションです。数機の水循環変動観測衛星「GCOM-W (Water)」と気候変動観測衛星「GCOM-C(Climate)」を打ち上げ、10年以上の長期観測を行う計画です。
GCOMは、地球の気候変動を予測する精度を高めるほか、気象予報や漁業などの実利用にも貢献します。GCOM-Wの1号機は、2011年度に H-IIAロケットで打ち上げを目標に開発を行っています。また、GCOM-Cの1号機は2013年度頃に打ち上げられる予定です。
水に関するさまざまな情報を取得
水循環変動観測衛星「GCOM-W」

水循環変動観測衛星「GCOM-W」


水循環変動観測衛星「GCOM-W」は、マイクロ波という微弱な電波を使って、海面水温や降水量、大気中の水蒸気量、土壌の水分量、積雪の深さなど、主に水に関する情報を取得します。
GCOM-Wに搭載されるマイクロ波放射計(AMSR2)のアンテナは、1.5秒間に1回転して地表面を円弧状に走査し、1回の走査で約1450kmもの幅を観測することができます。この走査方法によって、2日間で地球全体を1回観測します。また、衛星搭載用観測センサのアンテナとしては世界最大級の直径約2mあり、このような大きなアンテナが、1.5秒間に1回転という速さで回転し、ミッション予定期間の5年間、休まず観測を続けるのは非常に難しい技術です。
2002年に打ち上げられたアメリカ地球観測衛星「Aqua」には、JAXAが開発したマイクロ波放射計(AMSR-E)が搭載されており、現在も観測を行っています。打ち上げから6年以上経っても、軌道上で安定したデータを提供し続けるAMSR-Eは、その実績を世界から評価され、高い信頼性を持っています。GCOM-Wで開発中のAMSR2は、このAMSR-Eの性能を発展させたものですから、さらに高精度なデータが取得できると思います。
大気・海・陸の総合的な観測
Aqua/AMSR-Eがとらえた北極海の氷

Aqua/AMSR-Eがとらえた北極海の氷


コンピュータを使った地球の気候変動予測は、地球全体を数億個の格子点に分割し、そこに過去の観測データを入力してシミュレーションしていきます。そのため、陸域や海洋、大気など地球全部の高精度なデータが必要なのです。しかし、地上観測だけで全てのデータを取るのは不可能です。そのため、宇宙から全地球規模の観測を行うことができる、地球観測衛星に期待が集まっています。気候変動観測衛星「GCOM-C」は、可視光から赤外の波長領域で、雲・エアロゾル(大気中のほこりや塵の微粒子)、海色、植生、雪氷などを観測します。GCOM-Cに搭載される多波長光学放射計(SGLI)は、250mの分解能で、地球全体(大気、海洋、陸)の気候システムを詳細に観測することができます。
雲やエアロゾルは太陽の光を反射し、地上に届く日照量を減らすため、地球の温度を冷却する効果があると言われています。しかし、陸域のエアロゾルの観測は、地上からの反射光があるために技術的に難しく、これまであまり観測が行われてきませんでした。そのため、現在の気候変動予測には、不確定要素があると言われています。GCOM-Cの光学センサには偏光機能があり、陸も海もすべての領域を観測できますので、雲・エアロゾルが温暖化にどのような影響を与えているかが地球規模で分かります。
GCOM-Cが植生や海色を調べるのは、地球上の炭素の循環を観測するためです。植物は、温暖化の要因となる二酸化炭素を吸収しますので、その吸収源が地球上にどれだけあるかを知ることは、気候変動を予測するためにも重要です。赤潮のように、海は海洋生物の量が多いと色が変わりますので、GCOM-Cは海色を観測し、どれだけの植物プランクトンがいるかを調べます。さらに、森林の量を観測することに重点を置いています。森林の分布を調べるだけでなく、森林を斜めから見ることによって、高い木と低い木の違いを見分け、森林がどれくらい成長しているかという生育状態を観測します。これによって、森林の炭素吸収量を算出するために必要な、バイオマス量を計測したいと思います。現在、気候変動予測では人為的な二酸化炭素の排出が問題になっていますが、自然が二酸化炭素をどう吸収するかといったシミュレーションも、現在、行われつつあります。GCOM-Cは、そのためのデータを提供します。
6機の衛星による長期継続観測
気候変動観測衛星「GCOM-C」

気候変動観測衛星「GCOM-C」


IPCC(気候変動に関する政府間パネル)では、100年後の地球の気候変動予測が報告されていますが、予測を正確に行うためには、5年程度のデータでは十分ではありません。長期間のデータが必要です。そのため、私たちは、水循環を観測するGCOM-Wを3機、気候変動を観測するGCOM-Cを3機、計6機の衛星を3期に分けて打ち上げることを目標に、開発を進めています。衛星の寿命は5年間ですが、観測センサ間の相互校正を行うために、軌道上運用期間を約1年間、後続の衛星と重複させますので、13年以上、継続して観測を行うことになります。これによって、気候変動予測の精度向上にも貢献できると思います。長期継続観測はJAXAでは初めての試みです。
地球観測は、地表面から出ている電磁波を見ています。その波長ごとに、または数種の波長の組み合わせでどんな物質かが分かりますので、いろいろな波長で見れば、それだけいろいろな物質が見られることになります。GCOMは、2種類の衛星で、可視光からマイクロ波までの広い波長域をカバーして、地球全体を観測します。私たちは、2002年にGCOMと同じような機能を持った環境観測技術衛星「みどりII」を打ち上げましたが、残念ながら1年で衛星が故障し、観測を断念しました。「みどりII」の時には、1機の衛星に数種類のセンサを搭載し、とても大きな衛星になってしまいました。この時の失敗を二度と繰り返さないために、GCOMでは、衛星のサイズを、これまでの実績から最も自信のある大きさにし、衛星を2種類作ってセンサを別々に搭載することにしました。ただし、コスト削減のためにも、2つの衛星は共通設計にしてあります。
また、GCOMは、JAXAが打ち上げる他の衛星と連携しながら地球観測を行っていきますが、国際協力も積極的に行っていきたいと思います。例えば、アメリカ海洋大気局(NOAA)が主体となった、長期的な地球観測計画「NPOESS」がありますが、JAXAとNOAAは、お互いのデータ交換など国際協力体制をとることを目的に協議を進めています。その他にも、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)や、アメリカのNASAとも国際協力していきたいと思っています。
社会に貢献できる情報を提供
Aqua/AMSR-Eがとらえたエルニーニョ(上)およびラニーニャ(下)。赤いところは海面水温が高く、青いところは海面水温が低い。

Aqua/AMSR-Eがとらえたエルニーニョ(上)およびラニーニャ(下)。赤いところは海面水温が高く、青いところは海面水温が低い。


GCOMが観測した海面水温のデータは、漁業情報サービスセンターなどに提供され、漁場探索に役立てられます。魚の生息域は海の温度によって変わりますので、海面温度は漁業にとても重要です。また、海水温が上昇する現象のエルニーニョや、海水温が下がるラニーニャ現象なども観測できます。これらの現象は、世界中に洪水や干ばつなどの異常気象を引き起こすことが分かっていますので、災害対策にも貢献できると思います。
またGCOMは、天気予報の精度向上や、豪雨や台風などの自然災害の監視、大気汚染を起こす微粒子や黄砂の飛来を監視するのにも役立ちます。さらに、オホーツク海の流氷情報を、近隣を通る船舶に提供するなど、皆さんの生活にすぐに貢献できるさまざまな情報を提供していきたいと思います。GCOMの観測データは、品質と精度の検証が行われた後、一般の研究者の方々にも公開される予定です。GCOMのデータが、世界中の人たちの生活に当たり前のように使われ、不可欠なものになってほしいと思います。


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中川 敬三(なかがわ けいぞう)
JAXA宇宙利用ミッション本部 地球環境変動観測ミッション「GCOM」プロジェクトマネージャ
1982年、京都大学大学院工学研究科修士課程航空工学専攻修了。同年、宇宙開発事業団(現JAXA)に入社。放送衛星3号(BS-3)、光衛星間通信実験衛星「きらり(OICETS)」の開発などを経て、地球環境変動観測ミッション「GCOM」へ。2007年より現職。
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