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なぜ日本でロケット開発が必要なのか
 
 
宇宙航空研究開発機構 理事 樋口清司宇宙開発の必要性

 宇宙は、もはや私たちの生活から切り離せないものになっています。天気予報の気象衛星「ひまわり」をはじめ、通信、放送、災害監視、地球環境監視を担う人工衛星が、私たちのライフラインとして活躍していることはご存知でしょう。また、利用という面だけではなく、人類や地球の起源を解明し、豊かな未来を切り開くための宇宙科学の分野も重要です。人工衛星などを宇宙まで運ぶ手段は、さまざまなアイディアが検討・研究されているものの、現状で一番確実なものはロケットで、この研究も宇宙開発の主要な一部となっています。


もし日本にロケットがなかったら

 もし日本にロケットがなかったら――どうなるでしょうか?
 ロケットは宇宙への輸送手段として不可欠なものとなっていますから、宇宙へ何かを運びたいということになれば、他の国のロケットで打ち上げるしかありません。今のところ、飛行機のように製品を購入して日本国内で打ち上げることは現実的ではないので、他国に打ち上げを依頼することになります。
 この場合、希望通りの打ち上げはできませんし、衛星のような精密なシステムを海外に出すための煩雑な手続きや輸送のリスクを負わなければなりません。そして何よりも、私たちの日常生活にかかわるライフラインを他国に依存することになり、一国としての自立性や国際社会での役割が弱くなってしまいます。
 アジアや中南米の国々にみられるように、これまで他の国に衛星開発や打ち上げなどを依存してきた国が、独自に開発を進める動きを活発化させています。例えば、ブラジルや韓国は、自国のロケットで打ち上げをしようとしており、国内に打ち上げ場を建設し、ロケットの研究開発を進めています。この傾向は、宇宙開発が自国のライフラインの一部として構築されるべきものであり、自立性が重要であるという認識が高くなっているからに他なりません。


巨大システムを作り上げる力

 ロケットは、単に宇宙開発の一端であったり、人工衛星の打ち上げに欠かせないというだけのものではありません。その開発自体が大規模システムを作り上げる一国の科学技術力の証でもあるのです。自動車の部品数10万点に比べ、ロケットはその約3倍の30万点あまりに上り、個々の要素を総合してひとつの機能する巨大システムを作り上げるには相当の技術力と最先端技術が必要となります。そして、この総合力は、ロケット開発だけにとどまらずさまざまな分野に活かされています。
 日本は「科学技術創造立国」――科学技術を国の根幹として経済を発展させること――を国の基本政策としており、高度な科学技術を維持発展させていくためにもロケット開発が重要な役割を持っているのです。

 近年、生命科学やナノテクノロジーなどが大きな注目を浴びて、日本でも研究、開発が活発になってきています。これは、将来この分野が私たちの生活に重要なものとなり、それを他国に頼るのでなく、自らノウハウや技術力を蓄積したいという表れなのだと思います。宇宙も今以上に私たちの生活に必要不可欠なものになり、より活発な活動の場となるでしょう。そこで自立した活動を可能なものにするためには、日本独自のロケットが必要であり、今その研究開発をすることは非常に重要なことなのです。

 また、国際宇宙ステーションなどの国際協力も積極的に進めています。一国だけの力では解決できないことも多くありますし、アイディアを持ち寄ってよりよい宇宙開発の方向性を打ち出すこともできます。また、国際協力の場での貢献度は、自らが保持する能力によって大きく変わってくるので、独自の取り組みや技術力が重要なことに変わりはありません。日本の国産ロケットであるH-IIAロケットについても、先日打ち上げには失敗してしまいましたが、その性能は世界的に高く評価されています。
 日本のライフラインの確保と国際貢献のために、これまで以上にロケット技術を確固たるものにし、信頼性を高めていく所存です。




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