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世界に衝撃を与えた「はやぶさ」の発見

Q. 「はやぶさ」について特に印象に残っていることは何でしょうか?

小惑星イトカワ
小惑星イトカワ
小惑星エロス(提供:NASA/JPL/JHUAPL)
小惑星エロス(提供:NASA/JPL/JHUAPL)

小惑星イトカワの素顔を見せてくれたことです。「はやぶさ」が撮ったイトカワの写真を見たときは、とても衝撃的でした。「はやぶさ」は、私たちが初めて見る小惑星の姿をとらえたのです。私は惑星科学の研究者ということもあり、「はやぶさ」が小惑星にたどり着いて画像を送ってきたときに、このミッションは100%成功だと思いましたね。
これまでアメリカは全長10km以上の小惑星をいくつか探査してきましたが、どれも表面はクレーターに覆われていました。イトカワは全長500mほどの小さい小惑星ですが、その大きさに関係なく、小惑星の表面はクレーターに覆われていると思われていました。ところが、イトカワの表面にクレーターはほとんど見られず、岩だらけの顔をしていたのです。また、イトカワは密度が小さく、内部がスカスカであることも分かりました。このような成果に世界中の科学者が驚き、日本の評価が一気に高まりましたね。世界的に有名なアメリカの科学雑誌「サイエンス」の特集号に「はやぶさ」の成果が紹介されましたが、日本の探査機の成果が、しかも、まだ探査が終わっていない時期に掲載されたのは、おそらく初めてだと思います。
イトカワは、誰もが想像していなかった顔をしていたわけですが、これにより、小惑星に行って探査をすることの重要性を改めて実感しました。これまでのデータをもとにいくら予測しても、実際に行って見てみないと本当のことは分からないのです。「はやぶさ」は工学試験のための探査機ですが、科学的にも素晴らしい成果をあげたと思います。

「はやぶさ」をぜひシリーズ化に

Q. 日本の宇宙科学の将来にはどのようなことを期待されますか?

日本の宇宙科学予算の国家予算に対する比率は、アメリカと比べると10分の1くらいです。また、科学技術立国をめざす投資も、医学やバイオテクノロジーなど直近で実利的成果が上がるような分野に重点がおかれています。これは、どちらかといえばまだ日本は実利主義で、文化に対する許容度がまだまだ低いということだと思います。私は、理科というのは文化だと思っています。欧米の科学館にはレストランやカフェがあり、美術館や音楽のコンサートに行くのと同じ感覚で、大人が楽しむために科学館に行きます。一方、日本では、科学館は勉強のために行く場所で、親が子どもを連れて行くことが多いですよね。これでは駄目だと思うんです。経済的に豊かになるだけでなく、精神的に豊かになることが重要だと思います。そういう意味では、宇宙探査や天文観測などは、私たちの知的好奇心に立脚するような「文化」だと思いますし、それらを「文化」だと認め、大切にするような未来の日本になってほしいと思います。

Q. 「はやぶさ」の後継機についてはどう思われますか?

小惑星探査機「はやぶさ2」(提供:池下章裕)小惑星探査機「はやぶさ2」(提供:池下章裕)

もちろん期待しています。「はやぶさ」はスタートにすぎないと思っていますので、この1号機の能力をさらに向上させた2号機を、ぜひ打ち上げてほしいと思います。小惑星は反射する太陽光のスペクトルによって、いくつかの型に分類されていますが、今回「はやぶさ」が行ったイトカワは岩石質のS型です。現在計画されている「はやぶさ2」では、C型のタイプに行くと聞いています。C型も同じく岩石質ですが、炭素などの有機物をより多く含む小惑星です。ですから、生命の起源につながる発見ができるかもしれません。この2号機をぜひ実現させ、その次の3号機ではぜひD型の小惑星に行ってほしいですね。D型は、氷などの揮発性物質を含むと考えられている小惑星です。
地球に落ちてくる隕石の多くは、小惑星帯から来ていると言われています。そのため、隕石の反射スペクトルの分析データから、小惑星の型にそれぞれ似たデータを持つ隕石をあてはめ、小惑星の成分などを推定しています。例えば、イトカワのようなS型の小惑星は、「普通コンドライト」と呼ばれる隕石と対応しています。しかし、D型小惑星に対応する隕石はほとんど落ちてきていないため、その成分はまだよく分かっていないのです。またD型は、私が研究している彗星と近い成分を持つと考えられていますので、とても関心があります。彗星は主成分が氷で、太陽系が誕生した頃の情報をもつといわれる始原天体です。
私は、小天体を研究し、太陽系の誕生や生命の起源に迫りたいと考えています。そういう意味でも、「はやぶさ」のようなミッションを、ぜひシリーズ化してほしいと思っています。

渡部潤一(わたなべじゅんいち)
自然科学研究機構 国立天文台 天文情報センター 広報室長。教授。理学博士

1983年、東京大学理学部天文学科卒業。東京大学東京天文台(現国立天文台)助手を経て、1994年〜2003年、国立天文台広報普及室長を務める。2005年、同天文台情報センター広報室長。2006年、同天文台情報センター長。2010年、同センター広報室長。専門は、太陽系の彗星、小惑星、流星などの小天体の観測的研究。講演や執筆などを通して、天文学の広報普及活動に尽力。

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