私が通信会社にいた時は、いかに技術を進歩させ、使い勝手をよくし、日本だけでなく世界に羽ばたくようにしよう、あるいは世界の方々に有効に使ってもらおうということでやってきました。その延長線上で、JAXAに来てどう考えるかというと、やはり、宇宙開発はまだこれからのものだと思います。その新しいものをどう開発するかという時に、世界の中での日本の立場を考えるべきだと感じています。
日本の国内総生産(GDP)は世界で第2位ですが、私は民間から来ましたので、民間的センスで見ますと、世界第2位の経済力を誇る日本が、世界に対して何を還元できるかを考えるべきといつも思います。未来に夢がある宇宙の世界を最初に切り開くのは、やはり余裕のある人でないとできないと思うんです。いま飢餓に苦しんでいる国が宇宙開発にまで手を広げることができるでしょうか。ではだれがやるべきかと言ったら、やはりアメリカであり、ロシアであり、ヨーロッパ各国や日本だと思います。幸い日本は、先人の努力によって、宇宙開発においては国連でいう常任理事国的な立場にあります。たとえば国際宇宙ステーションでは、世界5か国の1つとして代表会議に出席しています。これは、いままで世界に貢献してきた成果です。この成果を伸ばすべきだと思います。そのためにも、私は政治家の方たちに宇宙開発の意義を説明し、日本の宇宙予算を少しでも増やせるよう努めたいと思っています。
日本は、宇宙を通じて世界に貢献するべきです。なぜなら宇宙の成果は、まだ通信や放送の世界、気象衛星の世界までしか還元されていません。今後は、災害対策問題や、環境問題への貢献が考えられますが、これはだれがやれるかと言ったら、民間はやる気がありませんね。なぜなら、儲からないからです。ではだれがやれるかと言ったら、国でしょうね。国がするということは、税金を使う訳ですから、税金を投下して成果をあげるにはどうしたらよいかを考えなければならない、というのを今強く感じています。
私は、夢を追うということでなく、夢をいかに実現するかに重点をおいて努力していきたいと思っています。
的川:ありがとうございました。予算の件は今後ともよろしくお願いいたします。では最後に、秋葉鐐二郎先生にお話ししていただきます。秋葉先生は長い間にわたって、日本の宇宙技術や宇宙工学をリードしてきました。宇宙科学研究所の所長、宇宙開発委員を経て、現在は北海道で宇宙科学技術創成センター(HASTIC)というNPO法人の理事長をしていらっしゃいます。よろしくお願いします。

今日は21世紀の宇宙開発はこうあるべきではないか、ということをお話しします。こちらの写真には(※図6)、「バイバイ20世紀」と書いてありますが、まず最初に、「もう20世紀の宇宙開発とは決別しようではないか」という話をしたいと思います。つまり、20世紀の宇宙開発はどういう特徴を持っていたかというと、たいへん特異な技術史を歩んできたと思います。一般的な技術、私たちの身の回りにある技術というのは、市場原理に伴って成長したものです。たとえば車や携帯電話など、何でもそうだと思います。しかし、宇宙開発に限っては、もともとドイツのV2ロケットからスタートし、その後の冷戦時代の宇宙競争があり、国が主導してきました。一方、飛行機も最初は国が主導していましたが、すぐに地上間輸送という民需がありました。それに比べ、宇宙開発は民需が全くない状態で半世紀が過ぎてきたわけです。この歩みの中で、国威発揚がそれなりの意味を持っていたとは思いますが、何といっても宇宙科学がいちばん利益を得たのではないでしょうか。
図6
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つまり、20世紀以前の宇宙観、あるいは宇宙科学というのは井の中の蛙であり、地上にいて宇宙を見ているつもりになっていました。しかし、見るということは光を見ている訳で、光は電波の中のごくわずかな周波数帯でしかありません。全波長で宇宙を見ることが可能になったのは、私たちが宇宙へ飛び出る手段を得てからであり、20世紀後半に作られたと言っても過言ではありません。それが20世紀の宇宙開発の大きな成果であり、20世紀の特異性をもたらしたと言ってもよいと思います。
さて、今度は21世紀の話ですが、21世紀はいったい何を目的にするのでしょうか。先ほどから、宇宙開発の精神面、文化面のお話をされていますが、私は、もう少し文化が息づいてくる「文明」という観点から申し上げます。まさにこれからの社会は「持続可能な文明社会」を作ることが、全ての技術に課せられた使命ではないかと思います。
そこで私が何を気にしているかというと、人口の問題です。今の世界人口を調べてみると、1秒間に3人ずつ増えています。生まれるのではなく、増えるのです。年間8000万人が増えていることになります。大きな災害で数万人亡くなったというのはたいへん悲しむべきことですが、地球全体で考えると、それに影響を受けることなく人口はどんどん膨らんでいます。多少影響があるのはエイズだと思いますが、これも多少の話です。つまり私が言いたいのは、これから最適な社会を作るために、限られた人たちだけで考えていたのでは、この地球上の文明を維持するのは難しいと思うのです。これは全地球的な問題ですから、あらゆる手段を尽くさなければなりません。
つまり宇宙開発は、他のだれかがやっているというのではなく、皆が携わっていく時代に入ったと言えるでしょう。20世紀は、国がやっているものを皆さんが観客で観てきた訳ですが、21世紀は、皆がプレーヤーになる時代だと思います。そうなると当然多様化していきます。
JAXAのような大きな組織は必要だと思いますが、特にイノベーション、新しい技術を作り上げる点では、大きな組織は欠陥を持っています。なぜなら、大きな組織でお金を使うには厳密な評価をせざるを得ないからです。ところが新しい技術、新しい考え方というのは、少数者からもたらされます。それを一般的に評価すると異端ということになってしまい、評価というシステムにかかるや否や、押しつぶされて消されてしまいます。ですから、大きなシステムでは作れないものだと思います。
小さな、しかし大きな自由度を持っている、小さなお金を使うような組織が全国的にばらまかれ、最適な社会を作っていく。そのような発展が、将来性を生むのではないでしょうか。そうした意味で、私は北海道で活動していますが、金沢も非常に裕福な地域です。地域で宇宙開発に取り組む小さな組織を1つや2つ持って、今後21世紀に臨まれてはいかがでしょうか。
的川:ありがとうございました。とても大切な問題提起をいただきました。それでは、会場の方からご質問を受けたいと思います。 |