小野:変革を恐れるなと言うことは、今まであるものを切り捨てる覚悟を持つことだと思います。こちらの絵を見てください(※図7)。私の尊敬する伊庭貞剛さんが「新しいことを行う時には、熟慮、祈念、放下、断行が必要だ」とおっしゃいましたが、この4つの言葉が変革の時代のキーワードだと思います。「熟慮」は、論理の世界で考え抜いて、抜け落ちることがないこと。「祈念」は、人間の幸せ不幸せや世の中の善悪は、論理だけでは判断できない。論理だけで世の中が成り立っているのではなく、そこに人間の心の祈りが必要だということです。その2つが人間が生きていく上で、強い根を育んでいきます。

図7
© 小野晋也
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イラストの真ん中に木の根っこがありますが、命(根)が宿れば幹は切り倒してもよいというのが私の考えです。今までそびえていた木を切ったとしても、根があれば命がそこで途絶えるわけではありません。新しい芽、側芽が木の切り株から生まれます。樫の木でもそうですが、このように切り株から出た側芽はどんどん大きくなります。強い根から新しい芽に栄養が送られれば、みるみる成長するのです。ですから、今までの幹、枝葉が時代に合わなくなっていると思ったら、思い切って幹ごと切ってしまいます。
これは宇宙開発にも言えることで、今までの宇宙輸送システムや衛星の考え方が、もう時代の波の中で古くなっていると感じたら、思い切ってこれまでのシステムを止めて、新しいことに挑戦するべきだと思います。萌える思いが宿る限り、新しい芽が成長するのだと私は信じます。「熟慮、祈念、放下、断行」の言葉を胸に持ちながら、新しい時代の宇宙への挑戦を考えていったらいかがだろうかというのが、私の結論でございます。
秋葉:私が言いたいのは、21世紀は、宇宙を皆が届く場所にしたい。「手が届く宇宙を」ということだけ申し上げたいと思います。
立川:人間は欲求としてどんどん進歩したいと思っていますし、新しいことに挑戦したいと思っていますので、ぜひそれを実現していきたいと思います。それが時々飛躍的に伸びる時期があるかもしれませんが、常に起こるのではなく、たとえば50年に1回という気がしますので、21世紀の中頃には大きく飛躍をするのではないかと思います。そのためにも今の若い方たちに大いに期待しています。
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向井:宇宙開発をお金で還元しようとしている人たちがいますが、私は、お金では換算できない大きなものを得ていると思います。宇宙飛行士が宇宙で経験したことを聞いたり、宇宙から撮影された地球の写真を見ることによって、「私たちは地球という所に住んでいて、この共有財産を人類として一緒に大事に次の世代に渡していかなければならない」と皆が認識できたと思います。私はこれを、精神的な「スピリチュアル・スピンオフ」という言葉を使っていますが、お金に換算できないけど一人一人が認識できた、その「認識」はすごく大きいことだと思います。こうして自分たちが認識できたのだから、宇宙を特別なものと考えず、水や空気が私たちの共有財産であるように、宇宙も私たちの共有財産だと思うようにしたらよいと思います。私たちの宇宙を未来に向かってどのようにうまく使っていくか。それはもちろん私たちに向かって使うべきだと思いますが、それを考えることは決して特別なことではないし、それは、叡智のある私たち人間がやるべきことだと思います。
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的川:今は、人間全体が、地球全体が、そして宇宙開発が新しい時代に入っています。それを乗り切るために、どういう視点でわれわれが取り組むかについて、パネラーの方たちから非常に大切な問題提起をいただきました。これらの問題点に答えるべく、ディスカッションを今後も重ねていきたいと思います。私はJAXA宇宙教育センターを預かっていますが、金沢は何度来てもとても教育熱心なところですね。ISTSが行われるこの一週間は、宇宙の色をわれわれがいっぱい振りまいていきますので、ぜひともそれを教育に活かしていただければと思います。パネラーの方々どうもありがとうございました。 |
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