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有人宇宙探査の意義を考える

有人宇宙開発の将来像

室山:ISSの次にある有人宇宙開発についてはいかがでしょうか?

ニール:ISSで構築された国際協力と、宇宙で建造物を作った経験を活かして、国際的な月面基地を確立することが次のステップになると思います。有人の小惑星探査の話も出ていますが、地球近傍の小惑星ですら遠く離れていますので持続的に有人探査を行うのは難しいでしょう。まずは無人の小惑星探査を行って、リスクを減らすべきです。そういう意味でも、ISSの次に考えられるのは月だと思います。地球低軌道の有人宇宙活動は民間に任せて、月面基地に国際的なパワーを移行する。そして、月から火星を目指すということです。その際、ISSでの教訓を活かし、国際パートナー間で、数十年間に及ぶ長期的な計画をきちんと立ててから始めなければなりません。長期的な目標と、見込まれる成果をきちんと示すことができれば、国の予算もきっと付くはずです。

ログスドン:そうですね。利用も視野に入れた長期計画が重要です。アメリカでは、ISSの建設に予算を使いすぎて、ISSを利用するために十分な予算を割けないという事情があります。建設するところに力を入れ過ぎてしまったのです。これはISSに参加する他の国にもある程度同じことが言えると思います。これはISSの1つの教訓であり、繰り返してはなりません。

コンタン:次にISSのような国際プロジェクトを行う場合は、宇宙新興国が参加することも考えなければならないと思います。ここ数年で新しく宇宙機関を設立した国もあって、今では世界に40の宇宙機関があります。現在のISSには16ヵ国が参加しているわけですが、それをさらに増やすために、各大陸でワークショップを開催するなどの取り組みが必要だと考えます。どのような投資が可能で、どのような見返りがあるのかを国々に説明をするのです。

デュパ:ヨーロッパでは多くの国が集まって欧州宇宙機関(ESA)を構成し、ヨーロッパの宇宙計画を立てています。別の地域でも同じような組織を作ることで、小さい国も参加しやすい環境ができるかもしれません。私も、国際的な月面基地には大変興味があります。月から火星への一歩につなげられるような活動を続けていきたいと思います。

城山:今までの話を聞いていて、国際的なプロジェクトを決める場合に2つの大事な思考法があると思いました。1つは、長期的な計画を立てて一歩一歩進めるべきではあるけれど、万が一、新しい技術や可能性が出てきた場合は、臨機応変に対応できるようにすること。そして2つ目は、将来的に中国と協力する時の案件として何があり得るかを考え、それを選択肢として残しておくということです。かつて米ソの冷戦時代には、両国は国の威信をかけて宇宙開発を進めていましたが、一定の威信を満たした段階で、一緒に何かをやろうという気運が出てきました。それと同じことが、中国に対しても起こるかもしれません。やはり、先を見据えた計画性が必要だと思います。

人間が宇宙へ行くということ

室山:ISSの次の有人宇宙開発は、月や火星に人間を送るということですが、そのメリットは何だと思われますか?

ニール:例えば、月に人を送るメリットの1つは、資源があるということが挙げられると思います。これまでの探査により、月にはヘリウム3という核融合発電の燃料となる資源が大量にあることが分かっています。この資源を使うことができる技術があれば、十分なメリットが期待できます。

月尾:人類が月に出て定住することになった場合、プラスとマイナス面があると思います。期待すべきことは、新しい文化、文明と言っても良いかもしれませんが、今地球にあるものとは違う文化を作り出す可能性が十分あるということです。一方、マイナス面は、月面の人口がだんだん増えてきた時に、そこに住む人々が地球からの独立を考えて、地球との戦争を起こすかもしれないということです。地球の人々が移り住んでも、そのまま地球上の生活を月面で展開するのではなく、まったく別の社会ができるかもしれないということも、ある程度想定しながら月面開発を考えなければならないと思います。

佐々木:私は、成果というのはもたらされるものではなく、作るものだと思っています。そうすると何が今の問題かというと、有人宇宙開発が技術者や科学者といった専門家だけの世界に納まっているということです。これからの有人宇宙開発には、もっと一般の人を巻き込む工夫が必要だと思います。もしも一般の人が、月面開発を自分の事のように考えられたら、「月に住めるんだったら、こんなことをして欲しい!」と、専門家が想像もしないような新しいアイディアを出すかもしれません。もっと多様な視点や価値観が入っていかなければならない時期に来ているのかなと思います。

まとめ

佐々木:宇宙という言葉だけで飛びつく時代は終わり、ロケットの打ち上げが大ニュースとなることもありません。このように、宇宙へ行くことが普通になってきた今だからこそ、宇宙開発や有人宇宙探査は人をワクワクさせるものだというイメージを広報活動して、皆に伝えていただきたい。そして、多くの人々が参加するプロジェクトに育てていただきたいと思います。

稲垣:有人宇宙開発には夢があり、その意義を否定はしません。但し、莫大な予算が相当かかるということは十分認識しておく必要があります。残念ながら、日本の宇宙産業は、米国や欧州に比べるとまだ自立化しておりません。産業界代表としては、自立化に向けた、宇宙産業育成のための国の投資も必要だと思っています。そのためにも、このようなシンポジウムを通して、国民からの同意を得られるような活動も大切だと思いました。

城山:何のために宇宙に行くのか? それは、やはり人間が活動する空間を拡げるためだと思います。知識を得るためには無人探査機でできることもありますが、人間の活動領域を拡げるという意味では、人間が宇宙へ行くことに意義があると思います。人間の活動領域を拡げることをどう評価するべきかが問われているように思います。

月尾:おそらく日本の今の経済力と技術力からいって独自で有人宇宙探査を行うことはできないと思います。ISS以降どうするかについては、国際協調の中で目標を設定して、それに参加して協力していくことになると思います。ただその中で、日本独自の発想を出していく努力が重要だと考えます。

ニール:やはり火星への有人探査が最終的な目標だと思います。火星へ行くためには、まず月へ行って、その足がかりを作る必要があります。日本には素晴らしい技術基盤がありますので、それを使えば国際月面基地を作れると思います。月へ行くことを目指して、日本が世界をリードしてくれることを期待します。

コンタン:皆さんのこれまでの意見に賛同します。1つ付け加えるとすれば、月の有人ミッションが、若い世代が宇宙に関心を持つきっかけになってほしいということです。月面から人間が月の姿を伝えることによって、若い世代に強いインパクトを与えたいと思います。日本は、ISSで経験を積みましたので、新しい国際協力をリードしていくことができると思います。月のミッションにおいても、日本にはぜひ強いリーダーシップを発揮していただきたいと思います。

デュパ:今回のシンポジウムによって、ISSでの国際協力を基盤に、将来的な有人宇宙探査を進めていくというロードマップが作れたと思いますので、あとは実行あるのみだと思います。ISSのパートナーシップを基盤に、有人月探査へと進むことを期待します。

ログスドン:私は1969年7月16日に、ケネディ宇宙センターでアポロ11号が打ち上がるのを見ていましたが、その時の光景は絶対に忘れません。将来再び、月へ向けたロケットが打ち上がるのであれば、乗組員の1人が日本人であればいいなと思います。日本は今何をすべきか? それは日本自身が決めなければならないことだと思います。

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