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目次 巻頭言 凡例 第1章 第2章
第3章 第4章 後書き アペンディクス 索引

2. 免訴条項の不当性

 アパラチアン社によると、契約第7条及び第14条の両方とも不当であり、実施不可能である。不当性(unconscionability)の理論は民法第1670条5に次のように規定されている。「裁判所は、法律問題として、契約又は契約の条項をそれが作成された時点で不当であったと認定する場合には、不当な条項を除いて契約の残りの条項を施行すること、又は不当な結果を避けるために不当な条項の適用を制限することができる。」この不当性の理論は、すべての契約のすべての規定に適用され、手続的な要素と実体的な要素をもっている。手続的な要素は、二つの要因に収斂する。一つは「圧迫」であり、他の一つは、「意外性」である。「圧迫」とは、実質的な交渉及び意味のある選択が行われない結果となる交渉力の不平等から生ずる。「意外性」とは、合意したと仮定される取引の条件が、争われている条件の実施を求める当事者によって起草された冗長な印刷された書式に隠されている程度に関係する。アパラチアン社は「不当性」の手続的な要素である「圧迫」があると主張した。なぜなら、同社によると、マクドネル・ダグラス社は、合衆国における商業衛星の打上げのために不可欠なPAM-Dの売却に関して絶対的な独占権を有していたのであり、この権限をすべての利用者に対して自社が賠償責任を負わないようにする免訴条項に同意するよう要求するために利用し、ウエスターン・ユニオン社に対し自社の契約条件に同意する以外にいかなる意味ある選択枝も残さなかったのである。この点につき裁判所は次のように述べた。「ウエスターン・ユニオン社がそのウエスター6号衛星を打ち上げようとしている時には、マクドネル・ダグラス社が、スペースシャトルのための上段ロケットを提供する唯一の会社であったことは確かである。その限りで、マクドネル・ダグラス社は独占権を有していた。しかし、マクドネル・ダグラス社は、静止軌道に通信衛星を打ち上げる手段に関する絶対的な独占権を有していたわけではなかった。通信衛星の所有者は、欧州宇宙機関のアリアンロケットによって静止軌道に衛星を打ち上げるという選択もできた。アリアンの打上げは、マクドネル・ダグラス社からの上段ロケットの購入を必要としなかった。本件において、ウエスターン・ユニオン社は、実際、初めは、ウエスター6号を静止軌道に打ち上げるためにアリアンスペース社と契約した。ウエスターン・ユニオン社はアリアンスペース社が利用できなかったからではなく、スペースシャトルがより信頼性の高いかつ安価な選択であると決定したゆえに当該契約を終了させた。従って、アパラチアン社の申立に反して、マクドネル・ダグラス社は、静止軌道に衛星を打ち上げる手段についての独占権を有していなかったのである。」
 アパラチアン社は、もう一つの「不当性」の要因である「不公平な意外さ」については何の主張も行わなかったが、ただ、第7及び14条には、「実質的な」不当性があると主張した。同社によると、賠償責任の放棄は航空宇宙産業の慣行と適合しないのであり、通常ウエスターン・ユニオン社は販売者から保証を得るものなのである。同社は、放棄は商業上合理的なリスクの配分ではないと主張した。アパラチアン社は、A & M Produce Co.v.FMC Corp.(Cal.App.3d 473)事件の判例――同判例は、「社会的な観点からは、損失に関するリスクは、それが生ずることを最善に妨げることができる当事者によって最も適切に負担される。購買者が機械の性能を評価するのに製造販売者以上によい立場にあることはまれであろう」とする――を引いて、マクドネル・ダグラス社とMorton Thikol社及びHitco社がウエスターン・ユニオン社以上に、この事件で生じたエグジット・コーンの失敗を防止するのによい立場にあったと主張した。裁判所は、この主張を次の理由で退けた。「アパラチアン社の議論は、余りに単純すぎる。不当性が単に製造者・販売者の欠陥を見つける卓越した能力を示すことによって確立できるならば、一般的な規則は、放棄は不当でありかつ非合法であるということになってしまうだろう。しかしながら、保証の放棄はカリフォルニア統一商法典(同法典第2316条)によって認められており、最高裁判所は、『いかなる公共政策も、一方の当事者が対価を得て他の方法では法律が他方の当事者に課したであろうリスクを引き受けることに同意するような民間の自由意思による取引を妨げることはない(Tunkl v.Regents of University of California 8(1963)60 Cal.2d 92, 101.)』と判決している。
 更に、アパラチアン社は、A & M Produce事件における我々の決定に誤った信を置いている。アパラチアン社は、当該事件の事実の文脈を無視している。A & M Produce 事件は、購入者が全く読めなかった、裏面に印刷された保証の放棄を伴う標準化され、予め印刷された書式を利用した『巨大な多様化した会社』による『比較的小さいが経験を有する農業会社』への大量生産された製造物の販売に関するものである。(A & M Produce Co.v.FMC Corp.supra,135 Cal.App.3d 473,489-491.)この事実の文脈において、我々は、『購入者が、製造販売者から規格化された大量生産された製造物をいかなる実施可能な性能基準もなしに購入すると考えることは明らかに非合理である(Id.at p.491)』と述べた。我々はまた、次のように述べた。『特に、未経験な購入者が関係する場合に(本件の購入者は、思い切って新しい領域に進んだのであって、設備に精通しておらず、どんな設備が必要かについては、販売者の代理人の勧告を頼っていた。)、販売者の性能の表示は、購入者が可能ないくつかの選択枝の中から賢い選択を行うことができるようにするためには絶対的に必要である。放棄の利用を通じて購入者がそのような表示を合理的に当てにするのを妨げようとする試みは協定の商業上の妥当性に疑いをはさむものであり、実質的に不当であるに違いない。』(Id.at p.492)本件では、契約は、大量生産された製造物の販売についての規格化された印刷された書式ではなかった。本件では、契約は交渉されたものである。契約は、専門化された業務及び『高度の危険を伴うビジネス』において開発された新しい技術を含んでいた。ウエスターン・ユニオン社は、マクドネル・ダグラス社の表示を当てにしなければならない未経験な購入者ではなかった。ウエスターン・ユニオン社は、通信衛星の打上げにおいて経験を有する大規模かつ精緻な企業であった。ウエスターン・ユニオン社は更に、Star48モーターの二度のテストの失敗に関する報告を含む定期的な進展報告を受けていた。
 この高度に専門化された危険な新しい技術の文脈において、当事者にとって、マクドネル・ダグラス社に上段ロケットの性能を保証させるよりむしろ、ウエスターン・ユニオン社が損失のリスクに対して自社を保護するための保険を得ることに同意することの方が商業上不当ではなかったのである。実際的な問題として、ウエスターン・ユニオン社が保険を得ることによって直接に保険金を支払うことを望んだか又はマクドネル・ダグラス社に保険を得て、保証を与えることを要求することによって間接的に保険金を支払うかが問題であった。ウエスターン・ユニオン社にとって、マクドネル・ダグラス社によるウエスターン・ユニオン社のための保険の管理における費用を含む増大した契約費用を支払うよりむしろ直接的に自己の保険を得ることに同意することの方が妥当であったのである。我々は、ウエスターン・ユニオン社とマクドネル・ダグラス社との契約の第7及び14条に不当性が存在するとは考えられない。」

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