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目次 巻頭言 凡例 第1章 第2章
第3章 第4章 後書き アペンディクス 索引

3. 公共の利益への影響

 アパラチアン社はまた、第7及び第14条は公共の利益に影響するので実施不可能であると主張した。最高裁判所が公共の利益を含む免訴条項は実施不可能であると決定したTunkl v.Regents of University of California(Cal.2d 92,96)事件の判例は、公共の利益に影響する契約とみなされる次の6つの特性を挙げている。
1) 契約が、公共規制が適当であると一般的に考えられる種類の事業に関係する場合。
2) 免訴を求める当事者が、公衆の若干の構成員にとってはしばしば実際上の必要性の問題である、公衆にとって非常に重要な業務を行うことに従事している場合。
3) 当事者が、ある業務を求める公衆の構成員に対して、若しくは少なくとも若干の設定された基準に該当する構成員に対して進んで当該業務を行おうと申し出る場合。
4) 業務の本質的な性質の結果として、取引の経済的な環境の中で、免訴を求める当事者が、彼の業務を求める公衆の構成員に対して交渉力の点で決定的に有利な立場にある場合。
5) 当事者が、優勢な交渉力を使って、公衆に対し免訴に係る標準化された加入契約を突きつけ、購入者が合理的な割り増し料金を支払いかつ過失に対して保護を得ることができる規定を作らない場合。
6) 取引の結果として、購入者の身体又は財産が販売者の管理下に置かれ、販売者又はその代理人の不注意の危険に曝される場合。
 アパラチアン社は、これらのすべての要因が認められると主張する。
 アパラチアン社は、1)の要因が、国内の衛星所有者による通信衛星の利用及びマクドネル・ダグラス社のような国内の供給者による上段ブースターの販売の両方を規律する規則によって満たされると主張する。同社は、FCC(連邦通信委員会)及び国家当局による公衆の保護のための衛星通信に関する規則及びマクドネル・ダグラス社の上段ロケットを顧客が調達することに関するNASAの規則を指摘した。裁判所は次の見解を示した。「アパラチアン社は、Tunkl事件の基準に適うこれらの規則に誤った信を置いている。第一に、NASAの『規則』は、法律又は機関の規則ではなく、NASAとマクドネル・ダグラス社の間の契約上の条件である。この条件は、上段ロケット及び打上げ関連業務の価格に関連し、一般の公衆の保護のためではなく、NASAのスペースシャトルが欧州宇宙機関のアリアンロケットと価格的に競争できるようにすることを保証するために付け加えられたのである。
 アパラチアン社によって引用された国内とFCCの規則に関しては、これらはハードウエア及び衛星打上げ業務の販売よりむしろ衛星の送信に関連するものである。公的な『規制』の要因は、免訴条項が規則の存在によって証明される公益に不利に影響するかどうかという問題に裁判所の注意を集中するように意図されている。裁判所は、Delta Air Lines, Inc.v.Douglas Aircraft Co.((1965)238 Cal.App.2d 95)事件、つまり航空機の販売のための契約における免訴条項を含む事件において説明したように、『デルタが規制を受ける企業であり、乗客を輸送するという事実は、この決定にいかなる関係をも持たない。免訴条項を支持することは、将来の乗客(つまり、規則によって影響される一般の公衆)の権利に不利に影響しない。彼らは契約の当事者ではなく、彼らの権利を危うくしない。彼等は、〔マクドネル〕ダグラス社に対する過失についての直接訴訟を行う権利を保持する。また乗客は免訴条項を含む契約の当事者ではなかったので、彼らの〔マクドネル〕ダグラス社に対する黙示の保証の違反についての訴訟を行う権利を妨げるものではない』(Id.at p.104 fn,omitted.) 同様に、本件でも、公衆の権利は、ウエスターン・ユニオン社/マクドネル・ダグラス社間の契約中の免訴条項によって影響されない。アパラチアン社によって引用された規則において保護される公衆の権利は、ウエスターン・ユニオン社がマクドネル・ダグラス社の保証に頼るよりむしろ潜在的な滅失に対して保護を得るための保険を得るべきであるという当事者間の協定によって影響されるものではない。」
 また、アパラチアン社は、PAM-Dsが国内的及び国際的通信システムの設定において重大な紐帯となるので、2)の要因が存在すると主張する。同社によると、ウエスターン・ユニオン社のような商業衛星を打上げる通信事業者は、電話の送信、データ送信及びビデオ(テレビジョン)信号を含む公衆に対する欠くことのできない通信業務を提供するのであり、PAM-Dは、無論、商業衛星の打上げのために必要なのである。この点に関する裁判所の見解は次のとおりである。「アパラチアン社はこの要因の性質を誤解している。この要因は、医学、法律、居住、運輸又は『一般の公衆によって必然的に利用されなければならない』類似の業務を念頭においている。(Hulsey v.Elsinore Parachute Center (1985)168 Cal.App.3d 333,343〔強調は、元のまま〕、Okura v.United States Cycling Federation (1986)186 Cal.App.3d 1462,1467)、Cohen v.Kite Hill Community Ass.(1983)142 Cal.Kpp.3d 642,655.) 宇宙打上げのためのハードウエア及び業務の供給は、明らかにこれらの基本的な必要業務に類似していない。それは、『公衆の若干の構成員にとってしばしば実際的に必要な問題である』種類の業務ではない。……ただし、本件においては、宇宙ハードウエア及び打上げ業務の供給は、公衆の個々の構成員に対して実際的に必要ではない。若干の者、つまり通信のような高度に専門化された分野を扱う非常に大規模な商業団体及び政府機関にとってのみ『実際的に必要』なのである。」
 3)の要因については、アパラチアン社は、潜在的な顧客がPAM-Dの価格を支払うことができる限り、マクドネル・ダグラス社が進んで公共又は民間団体にPAM-Dを売却するということによって満たされると主張する。裁判所は次のような見解を示した。「販売価格を支払うことができるという問題としてのみそれを性格づけることによって上段ロケットの販売の排他性を最小限にしようというアパラチアン社の試みは、納得のいかない議論である。業務を得るのに高い費用が必要であることは、本質的かつ自然に、公衆のすべての構成員が業務を得ることをほとんど不可能にする。記録は、10基の上段ロケットの販売を示している。その販売のいずれもが一般公衆の個々の構成員に対するものではなかった。すべてが、大規模なかつ精緻な商業団体及び政府機関に対するものであった。更に、本件における契約は、宇宙ハードウエアの販売のみでなく打上げ関連業務の供給も含んでいた。我々は、NASAがスペースシャトルの打上げを公衆が利用できるようにしてきたということに重大な疑いを抱いている。」
 4)については、アパラチアン社は、スペースシャトルのための上段ロケットの提供に関してマクドネル・ダグラス社が有する独占権を指摘し、電気通信衛星を打上げるためのこの生産物(ロケット)の本質的性質を強調した。この点に関して、裁判所の見解は次のとおりであった。「……ウエスターン・ユニオン社は、自社のウエスター6号衛星を打上げようとするにあたって、マクドネル・ダグラス社の生産物を購入するか又は自社の衛星の打上げを止めることを余儀なくされた状態にはなかった。ウエスターン・ユニオン社は、自社の衛星をマクドネル・ダグラス社からのPAMの購入を必要としないアリアンロケットによって打上げる選択を行うことができた。第二に、マクドネル・ダグラス社によって提供された業務は、ウエスターン・ユニオン社がスペースシャトルを利用することを決定してからは、同社にとって本質的であったにしても、それは、Tunkl事件において最高裁判所が述べた“本質的”業務の種類ではなかった。Tunklの焦点は、業務が公衆の個々の構成員に対して本質的であったか否かであった。本件では、業務は、少数の大規模な企業及び政府機関にとってのみ“本質的”である。それは、『強制された本質的な業務ではなく』、『当事者間の任意の関係』であった。(Okura v.United States Cycling Federation,surpa,186 Cal.App.3 d 1462,1468) 結局、この事件は、『当該業務を求める公衆の構成員に対して使用された交渉力に関する決定的に有利な立場』を含んでいない。(Tunkl v.Regents of University of California,supra, 60 Cal.2d 92,100) この事件は、公衆の個々の構成員に対して、その交渉力を使用する大規模な団体を含んでいない。この事件は、自由意思による協定の条件を交渉した、相対的に等しい交渉力を持つ二つの大規模かつ精緻な企業を含んでいるのである。」
 5)については、裁判所は次のように述べた。「本件の契約は、標準化された加入契約ではなかった。本件の契約は、当事者間の交渉の産物であり、免訴条項(当事者が潜在的な滅失をカバーするため自己の保険を得るのであって、お互いに請求を行わないことを規定する。)は、自由意志による協定の結果であった。」
 6)については、アパラチアン社はスペースシャトルからの展開後の重要な時期において、ウエスター6号は専らPAM-D Star48 モーターによってのみコントロールされたことを主張した。この点に関する裁判所の見解は次のとおりである。「この議論は当非がない。衛星がスペースシャトルに搭載されてしまえば、マクドネル・ダグラス社は、もはや管理権を持たなかった。衛星及びPAMは、NASAの管理の下に置かれた。マクドネル・ダグラス社はスペースシャトルからの展開によって突然ウエスター6号及びPAMの管理権を取り戻したのでなかった。」
 以上の見解のまとめとして、裁判所は次のように述べた。「我々は、本件の免訴条項が公益と衝突しないが、『一方の当事者が、対価を得て、他の方法では、法律が他方の当事者に課したであろうリスクを負うことに同意するような民間の自由意思による取引の結果であった』と結論する。(Tunkl v.Regents of University of California,supra,60 Cal.2d 92, 101) 我々は、本件において、Philippine Airlines, Inc, v.McDonnell Douglas Corp.(〔1987〕189 Cal.App.3d 234)事件、つまりマクドネル・ダグラス社による欠陥機と申し立てられた航空機の販売を含む事件における裁判所の論理がアパラチアン社の公益に基づく請求並びに不当性に基づく請求の両方に関係があると考える。裁判所は次のように述べた。『非消費者の商業上の環境におけるリスクの配分、また、議論したように、契約上のリスクの配分を含むいかなる訴訟においても主張され得るこれらの学説の各々をありきたりに確認する。その理由は、我々が考えるに、我々の過失及び製造物責任に関する法律並びに市場の経済的な現実にある。フィリピン航空が主張するように、最終の消費者──ここでは乗客──が、輸送者に対して簡素化された救済方法を与えられているというのは事実で有り得る。ただし、訴訟の現実性及び航空機が機能不全な場合に輪送者が広範囲な賠償責任を負担するのに十分な財源を持たない可能性がある場合には、製造者にとっては、それがともかく乗客の身体の傷害に係る請求とは別であると信じて、欠陥品を市場に出すことはほとんど経済的意味をなさない。更に、かつ乗客に対する潜在的賠償責任は別として、製造者は、顧客が欠陥製品について訴えを起こした場合には、長くビジネスを続けられない。そして〔マクドネル・ダグラス社〕のような製造者は、なお連邦航空委員会に対して責任を負っているのである。我々は、従って、係争中の賠償責任の放棄が有効であるという判決から生ずる、議論された安全な航空機を製造する意欲を失わせるという要因は、ほとんど現実味がないと考える。』(Id.at p.242、強調は元のまま、fn.omitted)

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