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目次 巻頭言 凡例 第1章 第2章
第3章 第4章 後書き アペンディクス 索引

第2章 宇宙開発活動の展開

第1節 宇宙開発の重点活動

1.地球観測・地球科学の推進

 人工衛星による地球観測は、地球科学の進展や地球規模の環境問題への対処等に有効な情報を提供するものとして、その重要性が大きく認識されつつある。このため、ニーズに的確に対応する地球観測衛星の開発・運用を体系的かつ継続的に進めるとともに、その一環として、観測センサの開発、観測情報提供のためのネットワーク整備、観測データの利用促進のための体制整備等を行う。これと併行して、各国の地球観測衛星との整合性を図った全地球的な観測システムを実現すべく、国際的な協議・調整を進める。


2.宇宙科学及び月探査の推進

 宇宙科学の分野については、今日まで国際的にも高い評価を得る成果を挙げているところである。今後、広い波長域にわたる宇宙からの天文観測、地球周辺空間、惑星・小惑星等の科学探査等について一層の推進を図る。また、人類にとって身近な天体である月については、科学的知見の蓄積とともに、利用の可能性を検討するため、その探査を進める。


3.宇宙環境利用活動の充実

 宇宙ステーションの日本の実験棟(JEM)は、我が国初の「軌道上研究所」と位置づけられる。この「軌道上研究所」を中核として、宇宙と地上における研究活動とが密接に連携した総合的な研究体制を構築し、宇宙環境利用の分野における研究と関連技術の開発を進める。


4.人工衛星の基盤技術及び利用の高度化

 一連の技術試験衛星の開発、運用を通して、我が国は人工衛星に係る共通基盤技術を蓄積してきたところである。今後、これらの技術の高度化を進めるとともに、通信・放送・測位等の各分野の先端的なミッション及びその機器の開発・実証を推進する。


5.宇宙インフラストラクチャーの開発・運用

 宇宙活動を効率的に展開していくために必要なシステム、設備、施設等の新たな宇宙インフラストラクチャーを開発・運用していく。具体的には、多様な衛星打上げ需要への柔軟な対応と経済的な打上げ運用を目指したH-IIAロケット、大幅な輸送コスト低減を可能とする再使用型輸送機の主要技術確立を目指したHOPE-X、さらに、地球観測データや宇宙実験データを効率よく地上に伝送するためのDRTSシステム等の開発・運用を積極的に推進する。


第2節 各分野における宇宙開発活動の展開

1.地球観測・地球科学

 人工衛星からの地球観測及びそれを活用する地球科学(地球観測・地球科学)は、気象予報・気候変動予測をはじめ、海洋現象の監視・予測、測地、資源の探査、植生、農作物及び海洋生態系等の状況の把握、国土の利用状況の把握等に対して幅広く貢献するものである。また、地球温暖化、オゾン層破壊等地球規模の環境問題や、地震、火山噴火等自然災害等への対応の基礎を与えるもの、ないし手段の一つとして、この分野の活動を拡大していくことが重要である。
(1) 地球観測衛星シリーズ等
衛星開発・運用機関である宇宙開発事業団と大学、国立試験研究機関、民間、行政機関等の利用機関とが相互に協力し、国際的な観測・研究計画との調和を図りつつ、国内外の利用者のニーズ及び利用状況に適切に対応した地球観測衛星シリーズを、大気・海洋観測と陸域観測に大別して、体系的かつ継続的に開発・運用を進める。
また、人工衛星に搭載する観測センサについて、ニーズの高度化・多様化に対応するため、衛星開発・運用機関と利用機関が連携をとりつつ、センサの精度・空間分解能等の向上を図るとともに、新たな対象を観測するセンサの開発を進める。これらの開発において、適宜、航空機、JEM、人工衛星等を用いて実証し、効率的かつ着実に進める。
気象衛星については、定常的に観測データを提供できるよう継続的に打上げ、運用を行う。
(2) 観測データの利用
国内外の地球観測衛星による観測データの利用及びその高度化を促進するため、観測データの有効性の確認、観測データの品質及びフォーマット等の標準化、各利用用途に応じたデータ加工・解析用のソフトウェアの整備等を進める。また、観測データの受信局の整備や利用者への観測情報提供のためのネットワークの構築を進める。
衛星開発・運用機関と利用機関は相互に協力し、共同研究や招聘研究員制度の活用等により、観測データの利用促進についての体制整備に努める。
(3) 全地球的な観測システム
各国により打上げられる地球観測衛星の開発・運用の整合性が図られた全地球的な観測システムの実現を目指し、積極的に国際的な協議・調整を進め、我が国としても適切な役割を果たすよう努める。


2.宇宙科学

 人工衛星・探査機による宇宙科学の推進は、太陽地球系現象、天体物理現象、太陽系の進化、宇宙の構造と進化等の解明等に重要な役割を果たすことが期待される。国際的水準の宇宙技術を持った我が国にとっては、今後とも国際協力を着実に進めながら、この分野の活動を拡大していくことが重要である。
(1) 中型科学衛星・探査機シリーズ
M-Vロケットにより打ち上げられる中型の科学衛星・探査機を年1機程度、計画的、継続的に開発・運用し、地球周辺空間の観測、月・小惑星等の探査、太陽系惑星等の科学探査を進めるとともに、広い波長域にわたる宇宙からの天文観測を地上からの観測との連携のもとに進める。
(2) 大型科学衛星・探査機
H系ロケット及び国際協力により打ち上げられる大型の科学衛星・探査機による太陽、惑星等への科学探査計画及び天文観測計画について、検討・具体化を進める。


3.月探査

 人類にとって身近な天体である月を拠点とする宇宙活動は、地球外天体に人間が宇宙活動を広げていく場合の第一歩である。月に関する科学的知見を蓄積し、月全体の地形、地質・鉱物組成やその分布等の詳細な探査を進めることは重要な意義を有するものである。
(1) 無人探査
宇宙開発事業団と宇宙科学研究所等が連携・協力し、月探査及び月の利用可能性調査を目的として、関連技術の進展状況や国際的な動向を勘案しつつ、段階的に月周回観測や月面着陸探査をはじめとした体系的な無人月探査計画を進める。
(2) 月面からの科学観測及び探査
各国の月探査の成果を踏まえつつ、国際協力による月面天文台等の月面からの科学観測及び月面の長期的探査への発展に備えて、国立天文台、宇宙科学研究所、宇宙開発事業団等が連携・協力し、関連観測技術や月面インフラストラクチャー技術等の研究や開発を着実に進め、技術の蓄積と高度化を図る。


4.通信・放送・測位等

 人工衛星を利用した通信・放送・測位等については、社会のニーズの高度化・多様化に的確に対応するとともに、今後のグローバルな情報通信基盤の高度化に我が国として貢献するために、国際的な動向等を踏まえながら、人工衛星を利用した実証が必要な技術や開発リスクが大きい技術を中心に、後述するミッション実証衛星シリーズ等により継続的・体系的に開発を進める必要がある。
(1) 通信
人工衛星を利用した通信分野については、社会経済活動の高度化に伴い、我が国の情報通信基盤整備の一環として、パーソナル移動体衛星通信等の実現を目指した技術の開発を進める。また、情報通信ネットワークの高速化が必要とされる中で、国際的な高速衛星通信ネットワーク構築の動向を考慮しつつ、ギガビット級超高速衛星通信技術、ミリ波・光衛星通信技術等の先端的衛星通信技術の開発を進める。
(2) 放送
衛星放送の分野では、デジタル化、高精細度化等のニーズの高度化・多様化に対応するため、移動体デジタルマルチメディア放送、新たな広帯域衛星放送等の衛星放送技術の開発を進める。
(3) 測位
人工衛星を用いた測位については、米国の打ち上げたGPSが、既に船舶及び自動車等のナビゲーションや地殻変動の観測による地震・火山活動の機構解明のための研究及び公共測量等に供されている。
我が国におけるニーズの高度化・多様化に対応できるよう、国際協力の可能性を勘案しつつ、測位精度の向上のための測位システム関連の要素技術の開発を進めるとともに、通信機能との複合化等を考慮した将来型の測位技術の開発を進める。
(4) 航法
航空交通の安全性と効率性の向上を目的として、航空管制業務のための人工衛星の打上げ、運用を行う。


5.宇宙環境利用

 微小重力、高真空等、地上では得ることができない宇宙空間の特徴を活かした宇宙環境利用に係る研究や開発は、新たな知見の獲得や、新しい産業の鍵となる技術の創出に大きく寄与するものである。
 とりわけ、我が国が宇宙ステーションに提供するJEMは、貴重な研究や開発の機会を提供する我が国初の「軌道上研究所」であることから、効率的な利用に向けた取り組みが必要である。
 また、宇宙環境利用に係る研究については、国際協力を含め多様な研究手段により進められるべきものであり、軌道上での実験に加え、宇宙開発事業団、大学、国立試験研究機関及び民間等における地上での研究を推進する必要がある。
(1) 宇宙環境利用実験
JEMの開発・運用を進めるとともに、落下施設、航空機、小型ロケット、回収カプセル、米国スペースシャトル等の実験手段をそれぞれの特長を生かし、計画的に実験を行う。また、宇宙環境利用に対する多様なニーズに対応するため、無人宇宙実験システム等の各種実験機器、実験技術等の開発を進める。
(2) 研究体制
将来の宇宙環境利用の成果を広範なものとするため、大学、国立試験研究機関、民間等のできる限り幅広い分野からの研究者がJEMでの実験をはじめ宇宙環境利用に参画する研究体制を整備する必要がある。
このため、宇宙開発事業団、大学、国立試験研究機関及び民間等においては、共同研究等により幅広い研究を進めるとともに、宇宙開発事業団においては、主体的に研究を実施するため招聘研究員制度等の活用も図る。
また、JEMの効率的利用や利用拡大に資するため、宇宙開発事業団を中核とする支援体制を整備し、実験装置の安全性・搭載性の実証、研究成果に関するデータベースの整備、研究機関間の情報ネットワークの整備等を進める。


6.有人宇宙活動

 有人宇宙活動は、人類の活動領域の拡大に向けた可能性の探求、新たな知見の獲得、宇宙環境利用の効率的な推進等の観点から、重要な意義を有するものである。このため、人間の介在により格段の効果と信頼性の向上が期待できる活動について、これを進めていく必要がある。
(1) 有人宇宙技術
JEMの開発及び運用、スペースシャトルの利用を通じて、宇宙飛行士の選抜・訓練・健康管理についての経験を十分に積む。また、船内滞在技術及び船外活動技術、さらに有人安全性・信頼性技術等の有人宇宙システムに係る技術の修得を行う。
(2) 宇宙医学等
宇宙滞在による骨からの脱カルシウム現象や宇宙放射線の影響解明等の宇宙医学に関する研究を充実する。また、人間が宇宙で生活していくための基礎となる閉鎖生態系の研究を推進し、有人宇宙活動関連の基盤技術の修得及び人材育成に努める。


7.人工衛星の基盤技術

 我が国はこれまでの開発を通じて、人工衛星の共通基盤技術を蓄積してきたところである。今後、急速に高度化、多様化する需要を踏まえて、先行的な開発を継続していく必要がある。
(1) ミッション実証衛星シリーズ
宇宙利用をより一層身近なものとするためには、地球観測用の観測センサ等のミッション機器の高度化、多様化等の開発を行う必要がある。また、新しい通信・放送・測位技術等の開発においては、実際に宇宙にある人工衛星を用いてミッションの実証を行い、技術開発リスクの低減を図ることが必要である。
このようなミッション機器の実証やミッションの宇宙での実証については、従来より技術試験衛星(ETS)シリーズの中でその一部を行ってきたが、今回この開発努力を抜本的に強化し、新たにミッション実証衛星シリーズを実施する。このシリーズを実施するに当たっては、宇宙開発事業団と行政機関、大学、国立試験研究機関、民間等の宇宙利用関係者が従来にも増して密接に連携を図るとともに、後述する共通的な衛星バスの採用等により迅速かつ経済的な衛星開発を目指す。また、ミッション機器やミッションに関し、公募を行って選ぶ制度(AO)の導入を検討する。
(2) 技術試験衛星(ETS)シリーズ
将来の人工衛星に対するニーズの高度化、多様化に的確に対応していくため、より先行的な衛星技術の開発を進める必要がある。このため、プラットフォーム型衛星技術、ランデブ・ドッキング技術等の今後の宇宙活動における共通基盤技術の開発を行う技術試験衛星(ETS)シリーズを、引き続き実施する。
また、技術試験衛星シリーズの実施を通じて、衛星搭載機器の小型化、軽量化、低消費電力化、低コスト化、電子・機構部品の信頼性向上、搭載ソフトウェアの高性能化等の衛星基礎技術の開発を進める。
(3) 衛星バス技術
我が国においては、これまでの衛星開発により各種の衛星バス技術を蓄積してきた。今後、これらの衛星バスと共通の技術を活用した共通的な衛星バスを採用することにより、地球観測衛星やミッション実証衛星の開発等を行うに当たっての開発リスクやコストの低減を図る。さらに、衛星バスの要素機器について、その標準化、汎用部品の宇宙転用等の実証を行う。


8.宇宙インフラストラクチャー

 個別分野における宇宙活動の拡大、高度化、多様化の進展に伴い、これらの宇宙活動を効率的に展開していくためには、共通基盤的な設備、施設及びシステム等の、いわゆる宇宙インフラストラクチャーの開発・運用を進めていく必要がある。とりわけ、宇宙へのアクセスに必要な輸送系は、我が国が宇宙活動を自在に展開していくための基本であり、これまでの開発で培った技術力をさらに発展させる必要がある。
(1) 輸送系
1.M系ロケット
国際的に評価の高い我が国の宇宙科学を安定的にかつ高度に推進していくために、M-Vロケットの開発及び高度化を進め、宇宙科学の分野の中型科学衛星・探査機計画にこれを使用していく。

2.H系ロケット
H-IIロケットについて、さらに信頼性の向上と高度化開発を進めつつ、打上げ需要に対応してこれを使用していく。

 この成果を的確に反映し、宇宙ステーションヘの補給等、21世紀に向けて多様な需要に応えられる輪送手段として、低軌道に20トン(静止軌道に4トン)までの打上げ能力を持ち、大幅なコストの低減が可能なH-IIAロケットの開発を行い、これを使用していく。

3.小型ロケット
コストの低減を図りつつJ-1ロケット等の開発を進め、小型衛星等の打上げにこれを使用していく。

4.宇宙往還技術試験機(HOPE-X)
従来のロケット技術による輸送コストと比べ、大幅なコスト低減が可能な再使用型輸送系の技術基盤育成の一環として、HOPE-Xの開発を進め、飛行実験を実施する。これにより、無人有翼往還機の主要技術の確立を図るとともに、将来の再使用型輸送機の研究に必要な技術蓄積を図る。

5.宇宙ステーション補給システム(HTV)
宇宙ステーションヘの物資の補給需要の一部を我が国が担うことを目的として、ランデブ・ドッキング機能を有する宇宙ステーション補給システム(HTV)の開発・運用を進める。

6.将来輪送系
将来の輪送需要に対応して、宇宙環境保全にも配慮しつつ、輸送コストを大幅に低減するためには、革新的な設計思想を採用した再使用型の輪送系の実現が不可欠である。このため、H-IIAロケット、HOPE-X等の成果を踏まえ、無人有翼往還機を含む再使用型輪送機の実現を目指す研究を進め、国際動向、需要動向を踏まえて、必要に応じ開発に着手する。また、将来において期待される水平離着陸能力等を有する完全再使用型宇宙航空機(スペースプレーン)に関する研究を関係機関が連携して進める。
さらに、将来の有人宇宙活動の展開に備えて、有人宇宙往還機に関する研究を進める。また、月探査活動の展開等に備えて、異なる軌道間の物資輸送を行う軌道間輸送機に関する研究を進める。
(2) 拠点系
1.無人システム
宇宙環境利用の分野の実験を効率的に行うため、国際共同開発の可能性を十分に念頭に置きつつ、軌道上で実験機器の交換等が出来る無人の低中高度プラットフォーム型衛星等の開発を進める。また、将来、プラットフォーム型衛星等の開発・運用を行う場合には、各種の軌道上サービスを提供する軌道上作業機が必要となることから、プラットフォーム型衛星に関する技術開発の進捗状況等との整合性に留意しつつ、軌道上作業機に関する研究を進める。

2.有人システム
JEMの開発・運用を行うとともに、この経験と実績を踏まえ、将来の有人システムの高度化、省力化等に向けた研究を進める。
(3) 支援系
1.射場等の整備
宇宙活動の高度化と拡大に応じて、H-IIAロケットの射場整備を行うとともに、HOPE-Xの開発に対応してその着陸場を確保する。また、21世紀の宇宙開発の発展、人工衛星打上げ需要の拡大によって、これらの射場等の整備・運用について新たな方策が必要となる可能性があり、安全確保、国際協力等の幅広い見地に立って所要の検討を行う。

2.データ中継・追跡管制システム
低中軌道上の人工衛星等で取得した大容量の観測データ、実験データを地上に伝送し、これらの人工衛星を常時追跡管制するためのデータ中継技術衛星(DRTS)システムの開発を進める。また、将来の追跡管制システムの構成要素と考えられる衛星間光通信技術について、その要素技術の軌道上実験を行う。
さらに、追跡管制システムの一層の高度化を目指し、その自動化・自律化のための開発を着実に進める。

3.スペース・デブリの観測等
21世紀に本格化していく有人宇宙活動の支援、無人活動の量的拡大と質的高度化を円滑に実現するため、増加傾向にあるスペース・デブリの観測システムや、宇宙放射線量等を予測する宇宙天気予報システム等の研究を進める。また、宇宙情報通信基盤を整備するための大容量情報伝送システム等の開発を進める。

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