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目次 巻頭言 凡例 第1章 第2章
第3章 第4章 後書き アペンディクス 索引

前文

 生命が地球に誕生して以来、海から陸ヘ、陸から空へとその活動領域を拡大してきた。生命の進化の延長線上にある我々人類は、今や科学技術を駆使し、その活動領域を宇宙へと拡大しつつある。
 人類は古来、宇宙、太陽系の存在、地球及びそこに住む生命体の誕生といった根源的な疑問への答えを探求し続けてきている。この疑問に応える宇宙の科学的探求活動は、人類の知的フロンティアの拡大を目指すものとして、21世紀に向かって、ますます重要なものとなってきている。これらによって得られる様々な知見や知識は、新しい宇宙観・地球観・生命観を生み出し、新たな思想や文化の創造、知的で成熟した社会の実現に貢献するものと考えられる。
 衛星通信・放送、GPSによる船舶・自動車等のナビゲーション、気象衛星を用いた天気予報は、既に人々の生活に不可欠なものとなっている。このような衛星システムの利用は今後ますます高度化し、将来の高度情報通信社会を支える重要なシステムとして、質の高い豊かな生活に貢献するものである。また、微小重力等の宇宙空間の特徴を利用した新しい材料、医薬品等の開発についても進展が期待される。
 一方、人工衛星の利用により、気象・海洋・地表の変化、地球の温暖化、緑の減少と砂漠化の進行、オゾン層の状況、災害の発生状況等を定期的かつ高精度で観測することが可能と考えられ、宇宙開発は地球科学の推進や地球環境の保全等に大きく貢献するポテンシャルを持つといえよう。
 また、厳しい環境への対応や高い信頼性が要求される宇宙技術は、幅広い分野の科学技術を結集することが要求される先端的な総合技術である。宇宙技術を開発し、高度化していく絶ゆまぬ努力は、材料、コンピューター、ロボット、エレクトロニクス、通信、情報処理等の様々な分野の新技術の創出に貢献するとともに、これらの技術を利用した付加価値を持つ新しい産業を創出することに貢献する可能性を秘めている。
 さらに、未知なる宇宙は次世代の青少年にとって最大の挑戦の対象の一つであり、宇宙開発を通じてこの宇宙への夢とチャレンジ精神を青少年に引き継いでいくことは、科学技術のみならず幅広い分野にわたって将来の人材の養成を促し、人類の経済社会の活力の維持に貢献すると考えられる。
 我が国においては、このような宇宙開発の持つ意義を十分に認識し、東京大学生産技術研究所でのロケット研究の開始以降、関係者の営々たる努力が積み重ねられてきた。その結果、宇宙科学については、多くの分野で国際的にも高い評価を得る成果を挙げている。また、通信、放送、気象等の実利用分野の宇宙開発についても、順次自主開発努力を拡大し、H-IIロケットの打上げ成功や各種人工衛星の開発等により、分野によっては国際的な水準の技術、能力を得るに至った。
 目を海外に転ずれば、米国及びロシアの宇宙開発においては、国威発揚や軍事的な意味あいの強いプロジェクトの推進から、経済性と効率性を重視して、宇宙技術の軍民転換を図り、将来へ向けた先端技術を開発することに重点を移しつつある。これに、世界の打上げ市場をリードしている欧州、独自の立場で自主技術開発を推進してきた中国が加わって、今後世界の宇宙開発においては民生利用を重視する動きが一段と強まるものと考えられる。また、従来、日本を含めて四極で進められていた宇宙ステーション計画に、ロシアが新たにパートナーとして参加する等、大きな宇宙開発のプロジェクトについては、国際協力を重視するという流れがこれからの世界の宇宙開発の主流になりつつある。このように、世界の宇宙開発は21世紀に向けて民生利用と国際協力の重視が重要な課題となると考えられる。
 以上のような内外の大きな情勢の変化の中で、我が国の宇宙開発は21世紀に向けて新たな展開をしていくべき段階にある。我が国としては、宇宙開発の持つ意義を改めて確認するとともに、世界における宇宙開発の民生利用及び国際協力重視の流れを十分認識し、これまでに培った宇宙開発の技術、能力を高めつつ、グローバルな視点に立った宇宙の本格利用を目指して、世界の宇宙開発に積極的な役割を果たしていく必要がある。 また、昨年11月に成立した「科学技術基本法」は、科学技術振興を我が国の最重要課題の一つとして位置づけ、科学技術の総合的、計画的かつ積極的な推進を図ることを明らかにしている。様々な科学技術の分野の中で、宇宙科学・地球科学の研究推進及び将来の新技術・新産業の創出につながる先端的な宇宙技術の研究開発はとりわけ重要なものであり、「科学技術基本法」に基づき科学技術の振興を図っていく上でも、宇宙開発をさらに充実しつつ積極的に進めていく必要がある。
 宇宙開発委員会は、昭和53年3月に我が国の宇宙開発の進め方について長期的、基本的な指針を示すものとして宇宙開発政策大綱を策定し、その後の情勢変化に応じて、昭和59年2月、平成元年6月の二度にわたって改訂を行ってきた。今回、上記のような考え方に対応し、また平成6年7月の本委員会長期ビジョン懇談会報告書「新世紀の宇宙時代の創造に向けて」を踏まえ、本大綱の改訂を行うこととしたものである。今回の改訂は、21世紀に向け長期的な視点に立ち、今後10年程度の間における我が国の宇宙開発に係わる活動の方向と枠組みを明らかにするものである。
 なお、今後の科学技術の進歩、時代の変遷、国内外の動向に即して我が国の宇宙開発の推進が的確なものとなるよう、不断の検討と時宜に応じた本大綱の見直しを行う。

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