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日本の宇宙産業 活躍の場を世界へ

官民合同による競争力の強化

Q. 海外展開における三菱電機の衛星の強みは何だと思われますか?

トルコから受注した通信衛星「Turksat-4A/4B」(提供:三菱電機)
トルコから受注した通信衛星「Turksat-4A/4B」(提供:三菱電機)

海外の主要メーカーと比べると実績はまだ少ないですが、あえて言うならば「品質」と「信頼性」だと思います。標準衛星バス「DS2000」はこれまで大きな不具合を出しておらず、信頼性はとても高いです。また日本人の国民性から、私たちは誠実な態度で取り組み、顧客の要求にできるだけ応えようと努力します。日本のきめの細かいものづくりへの姿勢は評価が高く、多くの方が、一度仕事をするとまた次もぜひやりたいと言ってくれます。 Q. 海外展開において、衛星の実用化などを含めたパッケージ提案が効果的だと思われますか? 顧客が何を求めているのかを理解したうえで、他と差別化するために付加価値をつけるのは効果的だと思います。ただその付加価値は宇宙産業という狭い世界だけで考えるのではなく、日本の外交政策の大きな枠組みの中で、日本が相手国に何ができるかという観点で考えるべきだと思います。
その場合、他の産業とどう連携するかを私たちメーカーだけで考えるのは限界がありますので、官民が一緒になって1つのチームになるべきだと思います。そういう意味でトルコの衛星の商談は、JAXAはもちろん、宇宙開発戦略本部、文部科学省、現地大使館を含めた外務省のチームワークが本当に素晴らしく、官民の総合力の結果が受注成功につながりましたので、とても良い成功例になりました。

衛星を利用した国内インフラの確立

Q. 海外展開において、実績のほかに必要なことは何だと思われますか?

準天頂衛星初号機「みちびき」
準天頂衛星初号機「みちびき」

世界中のどの衛星メーカーも、まずは国主導の衛星ミッションに参画しその研究開発を通して技術力を高め、その技術をもって海外へ進出しています。世界に通用する技術を保持するためにも、国の衛星ミッションは継続的に必要だと思います。それがないと海外に出て行くための土台ができません。また、そのような内需で優れた技術を開発できたときはすぐに商用衛星に展開しなければなりません。スピードがないと、すぐに世界に追い越されてしまいます。
インフラを輸出する場合は国内における長期の運用実績こそが信頼性につながりますので、日本国内のインフラを確立することが急務だと思います。衛星が目的とする「通信」「観測」「測位」はインフラの根幹ですから、それらを輸出できる可能性は大いにあります。ところが日本では、民間の通信衛星のサービスはあるものの衛星を利用したインフラシステムの構築が十分とはいえません。例えば以前、日本版GPSの準天頂衛星のシステムを売ってほしいという話もありましたので、衛星を利用したインフラシステムは世界から求められていると感じています。

Q. JAXAに期待することは何でしょうか?

宇宙の技術開発は民間だけでは困難です。インフラに応用でき、世界に通用する技術開発をぜひ追求してほしいと思います。世界の商用衛星市場を常に意識することで、日本の宇宙の製品力を強化することができます。例えば、既存の技術をさらに高度化するような開発です。このような開発は世界のみんなが追いかけていますが、競争が激しいところこそ、そこで1番をとらないと海外では勝てないと思うからです。
これを他に例えると、レーシングカーを作るのではなく、汎用性のある一般向けの乗用車を作るのと似ています。よく売れる乗用車を作るためには何の技術が必要か、どんな技術が求められているのかを見極めるのが大切です。衛星の場合も、どのような技術が製品として求められているのか、どのような製品が競争力を持つのかを客観的に検証して研究開発の計画を立ててほしいと思います。

顧客のさまざまなニーズに応える

Q. 宇宙事業の海外展開における今後の取り組みをお聞かせください。

私たちは商談があれば世界中どこへでも行きます。今年受注に成功したトルコの衛星の案件では、JAXAを含め官民の連携が重要であることを痛感しました。できればこれをプロトタイプ(模範)にして、これからの海外展開のベースを作りたいと思っています。特に今後は新興国での需要が高まると思いますので、それらの国をターゲットにした売り込みを進めたいと思います。
そのための取り組みの1つとして、JAXAが進める静止衛星システムの軽量化の研究に基づき、標準衛星バス「DS2000」の小型衛星版「DS2000S」を開発し、幅広く顧客のニーズに対応できるよう準備しています。さらに、今後主流となっていくであろう大型衛星用の「DS2000L」の開発にも取り組みたいと考えており、それに資する技術開発の推進に期待しています。これには新しい技術を取り入れ、JAXAの将来ミッションにも貢献できるようにしたいと考えています。

稲畑廣行(いなはたひろゆき)

三菱電機株式会社 電子システム事業本部 宇宙システム事業部 事業部長
1980年、早稲田大学大学院理工学研究科卒業。同年、三菱電機株式会社鎌倉製作所に入社。1981年に技術部技術第二課に配属され、人工衛星や搭載機器の開発に携わる。1997年、宇宙システム部センサー技術課課長。2002年、管制システム部SARプロジェクト部長、情報システム部次長。2004年、衛星情報システム部部長。2007年、鎌倉製作所副所長。2008年より現職。

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