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日本の宇宙産業 活躍の場を世界へ

宇宙新興国への参入は「産業育成」がカギ

Q. 官民一体となって宇宙産業を海外展開するため、経済産業省が宇宙産業貿易会議を実施しました。その団長として南米やアジアを訪問されたそうですが、新興国の宇宙利用への関心はいかがでしたか?

「NEXTAR」にSARを搭載したミッション(完成予想図)(提供:NEC/NTSpace)
「NEXTAR」にSARを搭載したミッション(完成予想図)(提供:NEC/NTSpace)

宇宙産業貿易会議には日本国内の宇宙産業企業や関係省庁、JAXAなどの関係機関が参加し、2010年2月、8月、2011年2月の3回に分けて、アフリカ、南米、アジアを訪問しました。私は南米とアジアのミッションの団長を務めたのですが、訪問先の国々はどこも宇宙利用に高い関心を持っていました。宇宙新興国は衛星を作る技術をまだ持っていない国もありますが、いずれも衛星をどう利用するかについて高い関心を持っています。
例えば、合成開口レーダ(SAR)は天候や昼夜に影響されないマイクロ波を用いて地表を観測できますのでニーズが高く、アマゾンで頻繁に川が氾濫するため特に湿地帯を衛星でモニターしたいというブラジルをはじめ、アルゼンチンやモンゴルでも高い関心を示されていました。また、今どのような衛星が上がっていて、どのようなデータが取れているのか、それを何に使うことができるかを大変勉強されています。自国で衛星を作りたいという国もありました。特に南米は地上デジタル放送の日本方式が採用されたこともあり、日本の通信・放送衛星の開発に興味を持っていました。

Q. 宇宙産業を宇宙新興国に展開する場合に重要なことは何だと思われますか?

通信などインフラの整備だけでなく、その国の産業をどう育成するかという観点を持つことが重要だと思います。例えばある国が地球観測衛星を使って資源探査を行い、何か資源が見つかればその資源に関連した産業がその国で立ち上がる可能性があります。こうした産業に対する日本からの貢献など、大きい枠組みでの産業育成を相手国に提案する必要があります。
化学産業やゼネコン、林業、資源開発といったさまざまな業界の会社がチームを組んで、国と連携して新しいソリューションを提供していくという構図が必要です。また、地球観測衛星には災害監視、環境モニター、資源・エネルギー探査、農作物調査などさまざまなニーズがありますので、それらを順番にステップアップして、絶え間なく提案していくというのも大切だと思います。

JAXAと開発した技術をグローバルに

Q. 小惑星探査機「はやぶさ」で実証されたイオンエンジンの海外展開にも力を入れていると聞きました。

小惑星探査機「はやぶさ」に搭載された4台のイオンエンジン
小惑星探査機「はやぶさ」に搭載された4台のイオンエンジン
「いぶき」の温室効果ガス観測センサ(TANSO-FTS)
「いぶき」の温室効果ガス観測センサ(TANSO-FTS)

イオンエンジンは燃費が良いのが利点で、衛星に搭載する燃料が少なくてすみます。衛星が軽くなるため打ち上げに大きなロケットを必要とせず、価格的なメリットもあります。「はやぶさ」で実証されたイオンエンジンの技術は、海外から高い関心が寄せられています。今後はまずアメリカ市場に参入し、そこで実績を積んだ後にヨーロッパを含めた海外市場に打って出たいと考えています。
2011年4月にはJAXAの産業連携センターの方にも同行いただき、アメリカで、NASAや人工衛星製造メーカー等の関係者立ち会いのもと、イオンエンジンの動作試験を実施しました。この試験は成功し、アメリカのお客様からも好評でしたので、早く具体的なプロジェクトとして受注したいと思っています。 Q. JAXAのプロジェクトで培った技術を海外に販売していくというモデルは、今後も考えられると思いますか? 十分に可能性があると思います。ただ、宇宙で実利用した実績がなければ、海外市場ではなかなか認めてもらえません。日本は実用衛星の経験を積む場が少なく、研究開発の衛星が中心です。宇宙基本法ではそれを実利用目的の衛星へ変えようということなのだと思います。
JAXAとのプロジェクトでは、新しい技術がたくさん生まれていますし、最高峰のものを作ったという実績は強みになります。こうした技術を研究開発で終わらせることなく、世界標準にするなどグローバルに利用できるよう発展させていく必要があると思います。「はやぶさ」のイオンエンジンの改良研究では、まさにそれをJAXAにやってもらっています。
そのほか発展性のある技術は、例えば2009年に打ち上げられた温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」に搭載された、地球上の温室効果ガスを宇宙空間から測定するセンサです。温室効果ガスを定量化できるこのセンサ技術で、温室効果ガスの排出権取引に貢献できるのではないかと考えています。また、2011年度に打ち上げが予定されている第一期水循環変動観測衛星(GCOM-W1)にも同じことが言えます。GCOM-W1には、水の循環を地球規模でモニターする観測機器が搭載されていますが、これは気象予測、災害予測という意味で、今後の利用が促進されると思います。
JAXAの研究開発により、世界的にも新しい技術を持った人工衛星や惑星探査機を世に送り出してきました。それらの技術をどう世界にアピールしていくかがとても重要だと思います。またそれは欧米の主要衛星メーカーとの差別化につながるのではと考えます。

国のトップセールスと産学官連携

Q. 海外展開における今後の展望をお聞かせください。

まずは「ASNARO」と小型科学衛星1号機を成功させて、標準衛星バスシステム「NEXTAR」の軌道上での実績を作りたいです。そして、その先にある「ASNARO-2」や小型科学衛星2号機につなげ、国際競争力を高めたいと思います。「ASNARO-2」は、マイクロ波を使って地表の画像を撮るレーダー衛星が検討されていますが、もしこれが実現すれば、雲があっても常に地表を観測できますので、雨が多いアジアや南米の宇宙新興国にとって魅力あるラインナップになると思います。 Q. JAXAに期待することは何でしょうか? 高い機能と同時に、高い信頼性が求められる宇宙開発では、何を新しくして何をそのまま継続すべきか、その見極めも大変重要です。JAXAとはこれまで最先端の新規技術に注力して開発を進めてきましたが、これからは低コストで作るという観点で開発の工夫を行うといった取り組みについてもJAXAと共同でやっていければと思っています。
衛星ビジネスを海外で展開するためには、低コストかつ短期間で開発・打ち上げができる衛星が必要です。そのため、衛星バスのように共通する部分をできるだけ増やしたいと考えています。研究開発の要素として、オリジナルでカスタマイズする部分はもちろん必要ですが、それ以外の部分は、例えば3年間は仕様を変えないといった開発もあり得るのではないかと思います。

Q. 宇宙産業の海外展開が成功するカギはなんでしょうか?

震災後の支援のため臨時に設置された「きずな」の地上アンテナ
震災後の支援のため臨時に設置された「きずな」の地上アンテナ

日本オリジナルの開発成果を、産学官はもとより政府も一体となって海外に売り込んでいくことが有効ではないかと考えています。海外では、フランスにしても韓国にしても、その国のトップが直接海外に売り込みに行きます。ですから日本も産学官および政府が連携をして、それぞれがきちんと役割を持って日本の宇宙技術を海外に売り込みに行ける仕組みを作るべきだと思います。
また2011年3月に東日本大震災に遭ったことで、防災や復興のための宇宙利用について改めて考えさせられました。例えば震災を通じて、津波の発生を検知するためにどのようなセンサを作り、宇宙から何をすべきかということを考えさせられました。また、震災後に被災地で電話がつながらなかったことで、衛星を使った通信網が必要であることも再認識しました。衛星通信については、軌道上の技術試験衛星VIII型「きく8号」と超高速インターネット衛星「きずな」を使って、JAXAが衛星回線を提供し皆さんのお役に立てたと聞いています。このような復興に使われた通信網などを実証事例として世界にアピールすることで、説得力のあるビジネスモデルを提案できると思います。

西村知典(にしむらとものり)

日本電気株式会社(NEC) 執行役員常務
1979年、日本電気株式会社(NEC)に入社。同年、電波応用事業部光電技術部に配属。2004年、誘導光電事業部長。2008年、執行役員(兼)航空宇宙・防衛事業本部長。2010年より現職。

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