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国立天文台教授 佐々木 晶「理学的視点で見た日本の宇宙探査」
佐々木 晶 写真 私も「はやぶさ」チームの一員ですが、「はやぶさ」は、新しいデータを実際に自分たちで解析できる喜びを私に初めて味わせてくれました。私が惑星ミッションに関わったのは火星探査機「のぞみ」が初めてで、その時もデータ解析を行いましたが、残念ながら「のぞみ」は火星に到達することができず、火星の観測を行うことができませんでした。そのため、「はやぶさ」が予想以上に面白いデータを私たちに与えてくれたことは大変な喜びでした。

私の個人的な意見が強いと思いますが、日本が理学方面でどういった形で惑星探査を進めていくかということを述べさせてください。
アポロ計画以降、アメリカと旧ソ連はかなり多くの惑星探査を行ってきました。私たちは、日本独自のデータを使って研究をしたいと思いながらも、他国のデータに頼って惑星科学の研究を行ってきたところが多いというのが実情です。ただ日本のメリットは、例えばアメリカは惑星科学を目指して惑星科学ばかりやってきた人が惑星科学を支えている、惑星科学研究者のための惑星科学という世界に入っていますが、日本は幸か不幸かまだそういう状況になっていません。日本では惑星科学をメインにしている研究者の数がそれほど多くないので、日本の宇宙探査、惑星探査は、一部の研究者の要求だけを満たすだけではいけないと思っています。もう少し広い意味で、地球、惑星科学、周辺分野のコミュニティーの興味を惹き付けていくべきではないかと思うのです。そのようなことを含めて、日本が比較的がんばっている、強い分野に貢献できるよう攻めていくのが日本の戦略ではないでしょうか。
具体的には、「はやぶさ」が行ったサンプル採取の分野です。日本は、宇宙科学、地球科学、あるいは鉱物学など、サンプルの分析では世界的に見てもトップクラスの研究をずっと行ってきています。その実績からか、「はやぶさ」の計画が始まると、かなり多くの物理化学の方、隕石の研究をしている方たちがチームに加わりました。私は長い間、地質学の教室にいたので分かりますが、地質学者には、サンプルをいかにうまく分析できるかというのはもちろん、いいサンプルを採って来れるか、そしてそのサンプルをどこから採ってきたか、場所をきちんと記述する能力が要求されます。研究者は、実際にターゲットとなる天体に行ってサンプルを採ってきて、どの場所のものかがはっきり分かる試料を分析したいと強く思っているはずです。それが可能になる「サンプルリターン」は、日本の道筋として続けていってほしいと思います。小惑星や彗星からサンプルを採ってくることは、太陽系の起源を調べることにつながりますし、月や火星など、大きな天体からのサンプルは、天体が形成して進化する初期の状態を調べることにつながりますので、科学の上でも大きな成果が得られると思います。

他の観点から言いますと、日本は地球物理的に内部を調べる研究がかなり進んでいます。「LUNAR-A」という地震計で月の内部構造を調べるミッションが計画されていたり、来年打ち上がる予定の「セレーネ」では、電波で月の地下構造を調べたり、2機の副衛星を使って月の重力場を測定するというような、非常に独自性の高い計画が考えられています。これは日本の特色として今後も続けていってほしいと思いますし、その先の火星や小惑星の探査においても、内部構造を調べることは1つのターゲットになると思います。
また、技術的な部分だけでなく、日本は内部構造を調べるための理論的な部分にも大きな貢献があります。例えば、非常に高い圧力で天体内部における熱・水による物質変化などを再現するという実験では、日本は世界でもトップクラスで、世界一の圧力達成記録を持っています。そのように日本がリードする物理化学の分野の研究と宇宙探査を組み合わせると、新しい科学が切り開けるのではないでしょうか。日本が強い分野を伸ばしていくことで、それに付随して他の研究分野も伸ばすことができるでしょうし、物理化学や内部構造の分野は、単に惑星科学の研究者だけでなく、科学全体のコミュニティーを惹き付けることができると思います。
国際協力においても、日本が、サンプルリターンや内部構造など、自分のターゲットをしっかり持って参加すれば、万が一その計画の枠組みが変わったとしても、充分価値のあるミッションを続けることができると思います。


的川:それでは、ジャーナリストの松浦さんにご登場いただきましょう。松浦さんは「H-IIロケット」「のぞみ」「スペースシャトル」などいろいろな名著をお書きになり、今度の「はやぶさ」でも松浦さんのブログを見られた方が多いと思います。取材の面で幾晩も徹夜して頂き、楽しい時間を一緒に過ごさせていただきました。
松浦さんから見て、日本のこれまでの宇宙探査に対する考え、評価、これからの宇宙探査のポイントを、有人探査も視野に入れてお話いただければと思います。


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