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JAXAのX線天文観測「世界をリードする日本のX線天文観測 ―――激動する宇宙のシグナルをとらえて謎を解く」
ASTRO-EII――2005年夏、宇宙へ
世界の3本柱のひとつ

Chandra(米)、XMM-Newton(欧)との棲み分け

「ASTRO-E」に近いタイミングで、アメリカやヨーロッパでも高性能のX線天文衛星が打ち上げられました。1999年に打ち上げられた「Chandra(チャンドラ=米国)」と「XMM-Newton(ニュートン=欧州)」です。これら2つの衛星と並んで、世界の“3大X線衛星”と位置づけられたのが、日本の「ASTRO-E」でした。ASTRO-Eは残念ながら失敗してしまいましたが、その座は「ASTRO-EII」が引き継ぐことになります。
XMM-Newton イラスト Candra イラスト
2003年代の世界3大X線衛星性能比較 図

3つの衛星は、それぞれ異なる特徴を持っています。得意とする能力分野がこれほどまでに違うということは、お互いが協力し合うことで、足りない部分を有効的に補うことができるわけです。「天文衛星は、世界中で使うものという考え方が大事です。チャンドラ、ニュートンが取得した衛星データと解析の仕組みがまったく同じものを、ASTRO-EIIが提供すれば、世界中の人に使ってもらえるのです」と、高橋教授は言います。
それでは、3大衛星を比較した場合、他の2つにはない「ASTRO-EIIの強み」とは何なのでしょうか?
「チャンドラは画像分解能力が高い。画素数の高いデジカメのようなものですね。ニュートンは集光面積が大きいため、短い時間でたくさんのX線光子を集めることが可能です。一方、ASTRO-EIIの優れている点は、分光能力。つまり、例えていえば、今まで数千色しか見ることができなかったものが、何万色ものカラーで見られるようになったということです。宇宙の物理現象においては、X線のエネルギーそのもの、つまり天体の発する色が一つのシグナルです。それを手がかりに数百もの銀河が集まった銀河団同士が衝突するような、巨大な高温ガスの激しい動きが測定でき、そのエネルギーも測ることができます。つまり、色を測ることでダイナミックな宇宙を知ることができるのです」
3大衛星と言われながら、日本は足並みが揃わずに出遅れてしまったようにみえます。しかし、遅れたことによって、他のX線衛星では観測できない天体現象が明らかになり、世界中の科学者がASTR-EIIの登場を心待ちにしています。こうして、日本ならではの特徴を強く出すことができたのは“ケガの功名”といえるかもしれません。
銀河団を満たすガスにかける夢

中澤知洋(JAXA宇宙科学研究本部高エネルギー天文学研究系助手)

ASTRO-EIIが目指すのは、ブラックホールやダークマター(暗黒物質)の解明です。私は銀河団の研究に「あすか」のころから取り組ませていただいています。
銀河団は宇宙最大の天体です。たとえば、可視光で見ると「かみのけ座銀河団」は3000個ほどの銀河の集まりですが、X線で見ることによって、これが巨大なガスの塊であることがわかります。このガスの存在は、それを捕らえている、見えない物質の存在を示しています。実は、宇宙にある物質の9割以上は、私たちの知らない物質(ダークマター)で構成されています。銀河や星に銀河団ガスを加えても、宇宙の物質全体のごくわずかを見ているに過ぎないのです。
ダークマターを目撃した人はまだ現れていません。しかし、「あすか」で銀河団をX線観測したとき、銀河団の中心にダークマターの濃い部分があることがわかりました。このようにX線で輝く銀河団ガスは、ダークマターの性質を私たちに教えてくれる道しるべになるのです。
今回のASTRO-EIIではガンマ線を使った観測も可能ですが、銀河団もガンマ線によって輝いて見える可能性も出てきています。もし強いガンマ線が確認されれば、悠久不変に見える銀河団の中で、実は大きな渦が巻いていたり、強い衝撃波が走り回って、宇宙最大規模のエネルギーを解放している証拠になります。今まで人類が見えなかったために“ない”と思っていたものが“ある”とわかれば、宇宙の進化を理解する大切なパズルの1ピースが明らかになるかもしれません。
また、ASTRO-EIIは「分光能力」が強いので、天体の速度を測るのが得意です。宇宙は大きすぎるために、人類の一生ではその進化を見守る事はほとんどできませんが、速度を測ることで、今の姿に加えて数億年後や前の姿も正確に予想できるようになります。
ASTRO-EIIのすぐれた色分解能に、チャンドラ、ニュートンの特徴を合わせると“百人力”ともいえるでしょう。
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1.X線天文学とは 2.世界をリードする日本のX線天文学 3.ASTRO-EII--2005年夏、宇宙へ
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