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判例:M.O. ピゴット対ボーイング社(米国、ミシシッピ州、抄訳、1970年) |
パール・リバー郡巡回裁判所において、原告のM.O.ピゴットと彼の妻は、ミシッシピ州ハンコック郡にある国家航空宇宙局(NASA)の試験場においてボーイング社がサターン・ブースター・ロケットをテストした際の振動と激動によって原告の住居が損害を被ったと主張してボーイング社を提訴した。
予審においてボーイング社は1942年の注釈ミシッシピ州法第1475条5(1956年)に従って積極的な抗弁を行い、予審法廷は訴えを却下したため、原告は上告した。
ボーイング社は、アメリカ合衆国の政府機関であるNASAとの契約に基づきサターン・ロケットのブースターの発射試験を行った。NASAは、議会が合衆国の一般的福祉と安全保障にとって必要である旨宣言した宇宙飛行の問題とその関係事項を研究するために、議会の立法により創設された合衆国政府の機関である。ミシッシピ州ハンコック郡の広大な地域がNASAによって取得され、引き続く緩衝地帯には地役権が取得された。NASAはロケットの試験場への輸送のためのすべての施設及びテスト場施設を建設した。ロケットは他の場所で製造され、NASAによって試験場まで輸送されていた。
ボーイング社は、必要な技術情報を供給しながら、サターンロケットのブースターを製造し、試験を行う契約をNASAと結んでいる。そのロケットの5つのエンジンは750万ポンドの推力を発生する。原告の家は、緩衝地帯のちょうど外側に位置する。我々は、この意見の目的上、激動と振動及び音波が原告の住居に損害を与えたと推測する。
宣言は結論としてボーイング社はブースター・ロケットの発射試験において過失があったと述べるが、過失を構成するいかなる事実も述べていない。申立人の単なる結論としてのみ過失を主張することは不充分であり、起訴可能な過失を示す事実を申し立てなくてはならない。King v. Mississippi Power & Light Co., 244Miss. 486, 142So. 2d222(1962)
ボーイング社により提起されたいくつかの積極的抗弁の一つである決定的な問題は、公共契約に従い、合法的に認可されたアメリカ合衆国政府の公務の遂行に携わる一契約者が、自己の過失がないのに個人の財産に対する損害につき賠償責任を有するのかどうかということである。
我々の意見では、この問題はCurtis v. Mississippi State Highway Comm'n and Continental, Inc., 195 So. 2 d 497(Miss. 1967)によって答えられる。法廷は以下のように判示した。計画と仕様書に基づく、州のハイウェイ技術者の指導のもとでの、契約者によるハイウェイ建設作業の実施に起因する損害について、かかる改良作業が何ら過失なく行われた場合には、契約者は賠償責任を負うものではない。土地所有者への救済は、もしそれが行われる場合には、その作業を行わせた公共機関に対して課される。ボーイング社に関して過失がないならば、原告の財産が被った損害に対する原告への救済は、もしそれが行われる場合には、アメリカ合衆国に対して課されることになる。我々は、アメリカ合衆国の損害賠償責任に関する問題を究明しないし、アメリカ合衆国が裁判を免除される場合に、ボーイング社がかかる免除を主張することができるかどうかについても究明しない。我々は、アメリカ合衆国のために合法的な活動を行っている契約者が、過失なく合法的な公務を遂行するにあたって、その活動に起因する結果としての損害につき賠償責任を持たないという主張に我々の決定を基づかせる。ミシッシピ州法§17(1890年)は以下のように述べる。個人の財産は法規により定められた方法で第一に所有者に行われる適切な補償がある場合を除き、公用に供され、損害を被ることはない。公共機関に課される損害賠償責任は、従って、不法行為に基づくものではない。Stephens v. Beaver Dam Drainage District, 123Miss. 884, 86So. 641(1920)かかる賠償責任は、Curtis v. Mississippi State Highway Dept. にいうように、その権力を正当に行使することに起因する損害に対し補償するという公共機関の義務に基づくものである。本州の憲法も州法も、過失なく合法的公務を遂行する契約者に賠償責任を課すものではない。
審理において、ボーイング社の積極的な抗弁において引用された証拠は、ボーイング社が公的契約者であり、ロケットのテストにおいてNASA指導の下に契約に従って行動したことを示している。既に述べたように、ボーイング社は過失をなす事実の嫌疑を課されないし、過失があったという証拠は存在しない。
我々は、従って、却下の判断が下されるべきであると信ずる。
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