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目次 巻頭言 凡例 第1章 第2章
第3章 第4章 後書き アペンディクス 索引

(4) 原子力事故の早期通報に関する条約
(1986年9月26日ウィーンにて採択、1987年10月23日発効)

 この条約の締約国は、
 原子力活動が多数の国において行われていることを認識し、
 原子力事故を防止すること及びいかなる原子力事故が発生した場合にもその影響を最小のものにとどめることを目的として、原子力活動における高い水準の安全性を確保するために、広範な措置がとられてきたこと、また、とられつつあることに留意し、
 原子力の安全な開発及び利用における国際協力を一層強化することを希望し、
 国境を越えて及ぼされる放射線の影響が最小のものにとどめられるよう、各国が原子力事故についての関連情報を可能な限り早期に提供することが必要であることを確信し、
 この分野における情報交換に関する二国間及び多数国間取極が有用であることに留意して、
 次のとおり協定した。
第1条 適用範囲
1  この条約は、締約国又はその管轄若しくは管理の下にある自然人若しくは法人の2に定める施設又は活動に関係する事故であって、放射性物質を放出しており又は放出する恐れがあり、かつ、他国に対し放射線安全に関する影響を及ぼし得るような国境を越える放出をもたらしており又はもたらす恐れがある事故の場合に適用する。
2  1の施設及び活動は、次のものとする。
(a) すべての原子炉(所在の如何を問わない。)
(b) すべての核燃料サイクル施設
(c) すべての放射性廃棄物取扱い施設
(d) 核燃料又は放射性廃棄物の運送及び貯蔵
(e) 農業、工業、医療、科学及び研究目的のための放射性同位元素の製造、利用、貯蔵、廃棄及び運送
(f) 宇宙物体における発電のための放射性同位元素の利用
第2条 通報及び情報
前条に規定する事故(以下「原子力事故」という。)が発生した場合には、同条に規定する締約国は、
(a) 直接に又は国際原子力機関(以下「機関」という。)を通じて前条に定める物理的な影響を受けており又は受ける恐れがある国に対し、及び機関に対し、原子力事故の発生した事実、その種類、発生時刻及び適当な場合にはその正確な場所を直ちに通報する。
(b) 直接に又は機関を通じて (a)に規定する国に対し、及び機関に対し、その国における放射線の影響を最小のものにとどめるための提供可能な情報であって第5条に定めるものをすみやかに提供する。
第3条 他の原子力に関する事故
締約国は、放射線の影響を最小のものにとどめるため、第1条に規定する事故以外の原子力に関する事故の場合にも通報することができる。
第4条 機関の任務
機関は、
(a) 締約国、加盟国、第1条に定める物理的な影響を受けており又は受ける恐れがあるその他の国及び関係する政府間国際機関(以下「国際機関」という。)に対し、第2条(a)の規定により受領した通報を直ちに伝達する。
(b) いずれの締約国、加盟国又は関係する国際機関に対しても、その要請に応じ、第2条(b)の規定により受領した通報をすみやかに提供する。
第5条 提供される情報
1  第2条(b)の規定により提供される情報は、次のデータのうちその時点で通報締約国が利用し得るものからなる。
(a) 原子力事故の発生時刻、適当な場合にはその正確な場所及びその種類
(b) 原子力事故に関係する施設又は活動
(c) 国境を越える放射性物質の放出に関する原子力事故について想定され又は確定した原因及び予想される進展
(d) 放射性物質の放出の全般的な特徴(実行可能なかつ適当な限り、放射性物質の放出の性質、予想される物理的又は化学的形態、量、構成及び有効高さを含む。)
(e) 提供の時点までの及び予想される気象学的又は水文学的条件に関する情報であって、国境を越える放射性物質の放出を予測するために必要なもの
(f) 国境を越える放射性物質の放出に関する環境の監視の結果
(g) 既にとられ又は計画されている敷地外の防護措置
(h) 放射性物質の放出の挙動で予見されるもの
2  1の情報は、緊急事態の進展(緊急事態の終結の予想又は事実を含む。)に関する追加的な情報により適当な間隔で補足する。
3  第2条(b)の規定により受領された情報は、当該情報が通報締約国により秘密のものとして提供された場合を除き、取扱いに関する制限なしに用いられる。
第6条 協議
第2条(b)の規定に従い情報を提供する締約国は、影響を受ける締約国が自国における放射線の影響を最小のものにとどめるため追加的な情報の提供又は協議を求めて行う要請に対し、合理的に実行可能な限り、すみやかに応ずる。
第7条 権限のある当局及び連絡上の当局
1  締約国は、機関に対し及び直接に又は機関を通じて他の締約国に対し、自国の権限のある当局並びに第2条に規定する通報及び情報の発出及び受領について責任を有する連絡上の当局を通知する。当該連絡上の当局及び機関内の中央連絡先は、常に連絡が可能でなければならない。
2  締約国は、1の規定に従って通知した事項について生ずるすべての変更を機関に対し速やかに通知する。
3  機関は、各国の1に規定する権限ある当局及び連絡上の当局並びに関係する国際機関の連絡先に関する最新の一覧表を保持し、これを締約国、加盟国及び関係する国際機関に提供する。
第8条 締約国に対する援助
機関は、その憲章に従い、かつ、自国では原子力活動を行っていない締約国であって現に遂行中の原子力計画を有している非締約国に接しているものの要請に応じ、この条約の目的の達成を容易にするため、適当な放射線監視体制の実現可能性及び確立に関する調査を行う。
第9条 二国間及び多数国間取極
締約国は、相互の利益の一層の促進のため、適当と認められる場合には、この条約の対象となっている事項に関する二国間及び多数国間取極を締結することを考慮することができる。
第10条 他の国際協定との関係
この条約は、この条約の対象となっている事項に関する現行の国際協定又はこの条約の趣旨及び目的に従って締結される将来の国際協定に基づく締約国の相互の権利及び義務に影響を及ぼすものではない。
第11条 紛争の解決
1  この条約の解釈又は適用に関して締約国間又は締約国と機関との間に紛争が生じた場合には、紛争当事者は、交渉又は紛争当事者が受け入れることができるその他の平和的紛争解決手段により紛争を解決するため、協議する。
2  締約国間の1に規定する紛争であって1の規定に基づく協議の要請から1年以内に解決することができないものは、いずれかの紛争当事国の要請により、決定のため仲裁又は国際司法裁判所に付託する。紛争が仲裁に付託された場合において、要請の日から6カ月以内に仲裁の組織について紛争当事国が合意に達しないときは、いずれの紛争当事国も、国際司法裁判所長又は国際連合事務総長に対し、1人又は2人以上の仲裁人の指名を要請することができる。紛争当事国の要請が抵触する場合には、国際連合事務総長に対する要請が優先する。
3  締約国は、この条約の署名、批准、受諾若しくは承認又はこの条約への加入の際に、2に定める紛争解決手続の一方又は双方に拘束されない旨を宣言することができる。他の締約国は、そのような宣言が効力を有している締約国との関係において、2に定める当該紛争解決手続に拘束されない。
4  3の規定に基づいて宣言を行った締約国は、寄託者に対する通告により、いつでもその宣言を撤回することができる。
第12条 効力発生
1  この条約は、ウィーンにある国際原子力機関本部においては1986年9月26日から、ニューヨークにある国際連合本部においては1986年10月6日から、その効力発生までの期間又は12カ月の間のいずれか長い方の期間、すべての国及び国際連合ナミビア理事会によって代表されるナミビアによる署名のために開放しておく。
2  すべての国及び国際連合ナミビア理事会によって代表されるナミビアは、署名により、批准、受諾若しくは承認を条件とする署名の後の批准書、受諾書若しくは承認書の寄託により、又は加入書の寄託により、この条約に拘束されることについての同意を表明することができる。批准書、受諾書、承認書又は加入書は、寄託者に寄託する。
3  この条約は、これに拘束されることについての同意を三の国が表明した日の後30日を経過した日に効力を生ずる。
4  この条約は、これに拘束されることについての同意をこの条約の効力発生後に表明した国については、同意の表明の後30日を経過した日に効力を生ずる。
5 
(a) この条約は、国際機関及び主権国家によって構成される地域的な統合のための機関であってこの条約の対象となっている事項に関する国際協定の交渉、締結及び適用を行う権限を有するものによる加入のため、この条の規定に従って開放しておく。
(b) (a)に規定する機関は、その権限の範囲内の事項に関し、当該機関のために、この条約により締約国に帰せられる権利を行使し、及び義務を履行する。
(c) 当該機関は、加入書の寄託の際に、寄託者に対し、この条約の対象となっている事項に関する当該機関の権限の範囲を示す宣言書を送付する。
(d) 当該機関は、その加盟国が投票権を有していることがあるほかは、いかなる投票権も有しない。
第13条 暫定的適用
いずれの国も、署名の際に又は署名の後この条約が当該国について効力を生ずるまでの間いつでも、この条約を暫定的に適用する旨を宣言することができる。
第14条 改正
1  締約国は、この条約の改正を提案することができる。改正案は、寄託者に提出するものとし、寄託者は、これを他のすべての締約国に対し直ちに送付する。
2  締約国の過半数が寄託者に対し改正案の審議のための会議の招集を要請した場合には、寄託者は、当該会議に出席するようすべての締約国を招請するものとし、当該会議は、招請状の発送から30日以後に開催される。この会議においてすべての締約国の2/3以上の多数による議決で採択された改正は、議定書に定められるものとし、この議定書は、ウィーン及びニューヨークにおいてすべての締約国による署名のために開放される。
3  2の議定書は、これに拘束されることについての同意を三の国が表明した日の後30日を経過した日に効力を生ずる。この議定書は、これに拘束されることについての同意をこの議定書の効力発生後に表明した国については、同意の表明の後30日を経過した日に効力を生ずる。
第15条 廃棄
1  締約国は、寄託者に対して書面による通告を行うことにより、この条約を廃棄することができる。
2  廃棄は、寄託者が1の通告を受領した日の後1年を経過した日に効力を生ずる。
第16条 寄託者
1  国際原子力機関事務局長は、この条約の寄託者とする。
2  国際原子力機関事務局長は、締約国及び他のすべての国に対し、次の事項を速やかに通報する。
(a) この条約又は改正議定書の署名
(b) この条約又は改正議定書に関する批准書、受諾書、承認書又は加入書の寄託
(c) 第11条の規定に基づく宣言又はその撤回
(d) 第13条の規定に基づくこの条約の暫定的適用の宣言
(e) この条約の効力発生及びこの条約の改正の効力発生
(f) 第15条の規定に基づく廃棄
第17条 正文及び認証謄本
アラビア語、中国語、英語、フランス語、ロシア語及びスペイン語を等しく正文とするこの条約の原本は、国際原子力機関事務局長に寄託する。同事務局長は、その認証謄本を締約国及び他のすべての国に送付する。
 以上の証拠として、下名は、正当に委任を受けて、第12条1の規定に従い署名のために開放されたこの条約に署名した。
 国際原子力機関の総会が、ウィーンで開催されたその特別会期において、1986年9月26日に採択した。
(署名省略)

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