解 説
リアル・パートナーシップの時代
―ソビエト解体後の市場システムの世界化と新秩序―
龍澤邦彦/佐藤 寛
宇宙関係は、国際関係の一部を構成しており、当初の米ソ両国のリーダーシップに基づく二極対立の構造から、デタントによる平和的共存、日欧その他の諸国の経済的発展に伴うオートノミーの模索の時代を経て、真のパートナーシップの時代に入ったといえる。
ソビエト解体後、戦後の国際社会の秩序の基盤が崩れ(戦後の国際秩序は、少なくとも表面的にしても、イデオロギーを主要な基盤としてきたといえる。)、これに伴って、東西のイデオロギー対立を養分としてきた第三世界と西欧諸国の対立の構図も雲散霧消している。第三世界の問題の規模の縮小は、無論、この他にも、多くの要因、例えば、東南アジア諸国の経済的離陸の開始、非植民地化運動の達成、南アフリカやジンバブエの人種差別制度の解消と民主政権の確立等が関係している。しかし、それにしても、毛沢東主義や社会主義に基づく体制が経済的な発展の高水準を確保できず、人民の基本的必要を充足させることができなかったことは事実であり、イデオロギー的連帯よりも国民の利益及び地域的な連帯を求めようとする傾向が、1989年9月のベオグラードでの非同盟諸国会議をして、非同盟諸国が教条主義で身動きできなくなってはならず、対決より協調を重視しなければならないといわしめたのである。市場経済のメカニズムが世界的に浸透しつつあり、国際社会を構成する諸主体の動きは、市場経済メカニズムと人権を含む民主主義の原理を根本理念として、制度化を通じた国際協力による世界秩序の再編に収束しつつあるように思われる。
パートナーシップという言葉は、1988年の国際宇宙基地協定第1条1の中で「協力関係」という訳語として使用されている。この語は、本来、英米諸国の民法上の制度を指す語であった(以下、この語の分析は、龍澤邦彦著『宇宙法上の国際協力と商業化』中央学院大学地方自治研究センター刊:興仁舎、1993年、を参照)。従って、この語が国際社会の文脈に移植された際には、当然、この元の語が持つ意味が反映されている。Paterman博士はこの語について次のように述べている。「単に協力すること以上に、相互の信頼、公平、基本的に平等な権利及び最小限の共通利益を、実体及び手続の両方に関して含んでいる。」我々は、この意味において、この語が世界経済首脳会議や二国間での協調関係を指すのに頻繁に使用されていることを理解できるのである。国際宇宙基地協定中のパートナーシップの語について、ドイツ研究・技術省のLoosch博士は、「『真のパートナーシップ』の語源に関する出発点は政治的用語である。民法上のパートナーシップの精神が国家間の政治的生活に置き換えられる場合、この点に関しては、それは、国際法上の新しい用語である。しかし、この語のルーツを知るためには、我々は、国家のパートナーシップに置き換えられた又は移された私的なパートナーシップについて考えなければならない。」ESAの法律顧問Lafferranderie博士によれば、「『真のパートナーシップ』とは、各参加主体が平等であることを意味するのではなく、彼らが単一の同じ目標を有し、かつ、パートナーシップの規則がすべての者、特にマイノリティな参加主体の利益を保護することを可能にすることを意味する」のである。
パートナーシップとは、現段階では、厳格な法律上の概念ではなく、立法上のイデオロギー(「グループ及びそのメンバーの必要に対応するものとして政治的思想により形成される社会関係のモデル」であり、「社会的行為又は必要な関係に関する規範的権力の意志の表明」たる法規範は、法律により定型化される以前に、立法上のイデオロギー、つまり、人民により望まれる社会的行為のモデルとして考えられ、提案される。この語については、龍澤前掲書293〜294頁参照)を示すものである。それは、法律科学の視点からは、国際協力の一つの適用形態、国際関係の制度化の道具概念たるメカニズムとしての制度(メカニズムとしての制度とは、「社会生活の要素の発展のために与えられた法的枠組みを成す法規則の総対を意味し、体系的であると同時に永続性を有する。」この語の意味については、龍澤前掲書、43〜44頁参照)の文脈で考えるべきものである。
既に述べたように、1990年代は、制度化を通じての世界秩序の再編の時期にあるといえる。宇宙法体系も世界秩序の一部である以上、当然この動きに連動している。ことに、宇宙活動は、原子力、生命工学等の他の分野と同様に大規模化した先端技術に密接に関連しているため、その利益も巨大であるが、同時にその事故による損害も極端に危険な(ultra hazardous)ものである。ここに、他の分野以上に共同利益の認識に基づく国際協力による適正な管理と発展の枠組みが必要とされることになる。従来、このような国際協力は主として組織としての制度(国際法によりその地位及び機能が確立される、法人格を有する組織的完体をいう。龍澤前掲書14頁参照)を通じて行われてきた。しかし、経済的あるいは政治的環境の変化に伴い、メカニズムとしての制度、特に、パートナーシップも多用されるようになっている。Logsdon教授のいうように、「主要な宇宙活動国が彼ら自身の宇宙活動の目標の主たる要素を進歩させるための最上のかつおそらく唯一の道は、類似の目標を有する他の国と協力の誓約をすることによってである。皆が国際協力の成功から利益を得ることができ、かつ、これにより、実質的な困難に直面して協力作業を行うように努力することは、皆の長期的利益になるという相互の認識があるように思われる。」(龍澤前掲書42〜43頁参照。)
1990年代は、ロシアを含む新国際宇宙基地協定だけではなく、経済的な分野においても、非市場経済諸国であったロシアをはじめとする旧ソビエト諸国及び中国をパートナーとして市場経済システムの中に参加させることが必要となった。商業打上げ業務における国際的な貿易に関する諸協定が、表面的に、二国間条約により個々の関係を確立するものであっても、共同利益の認識により、共通原則により形作られる枠組みに基づいて、実質的に一つのメカニズムとしての制度=パートナーシップを構成するものとなっているのは、このことを示している。
Logsdon教授によると、「長期的な生産的な協力は、物欲しげな考え方に基づいて築き上げることはできないのであり、各潜在的なパートナーがどの程度の誓約を維持できるかということについてのあらゆる角度からの現実的な分析が必要となる。」(龍澤前掲書参照)このことは、また、各パートナーが自己の総合的な能力に見合った役割と義務を果たすよう要求されることを意味する。我々は、まさに真のパートナーシップを築き上げていく時代に入ったのである。
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