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光も逃がさぬ「ブラックホール」が見える理由
 その後、小田先生の発明された「すだれコリメータ」という装置で、宮本重徳先生(大阪大学名誉教授)や小田先生がはくちょう座X-1の場所を正確に決め、そこを世界じゅうの電波望遠鏡や光の望遠鏡が探したところ、HDE226868番という恒星が候補として浮上しました。これはスペクトルから推定すると、太陽の30倍くらいの質量をもつ青い恒星で、光で見る限り何の不思議もない大質量の星です。ところがよく観測してみると、この重たい星が5.6日という短い周期で、何物かに周期的に振り回されていることが分かりました。HDE226868の動きから、それを振り回している相手の天体の重さを割り出してみると、それは太陽の6倍以上で、しかも直径300kmに満たない小さな星であろうと推定されました。それほど小さくて重い天体は、中性子星でもなければ白色矮星でもあり得ず、ブラックホールに違いないと考えられます。
 こうして1975年ごろまでには、「はくちょう座X-1」の正体は、HDE226868とブラックホールとから成る連星であり、星のガスがブラックホールに吸い込まれる際、強いX線が出るのだろうと、多数が認めるようになったのです。現在では、「はくちょう座X-1」のブラックホールは太陽のおよそ10倍の質量をもち、それは、はじめ太陽の約30倍の質量をもっていた星が、進化の末に超新星爆発を起こすことで作られると考えられています。
降着円盤イラスト  ここでなぜ、光さえ飲み込むブラックホールからX線が「出る」のか、不思議に思われる方が多いと思いますので、少し説明しておきます。ブラックホールに吸い込まれるガスは、平らな円盤をつくり、風呂の栓を抜いたとき渦ができるように、回転しながらブラックホールに落ちていきます。これが「降着円盤」と呼ばれるものです。円盤は、ブラックホールに近い内側ほど、摩擦で高温になり、ついには1000万度ほどになると計算されます。そして、これほど高温の物体はX線を出すのです。ちなみに、表面温度が6000度の太陽は可視光を出し、より低温の人体からは、可視光より波長の長い赤外線が出て、自動ドアなどのセンサーを働かせます。
 X線も電磁波の一種ですから、もちろん「事象の地平線」の内側からは出られませんが、そのすぐ外にある降着円盤からならば、なんとか逃げ出すことができます。X線は、ブラックホールに落ち込む寸前にガスが出す、最期の悲鳴といえるもしれません。




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