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ブラックホール誕生の瞬間を見る
 このように宇宙には多様なブラックホールが存在するので、「星がつぶれてブラックホールになる瞬間を見てみたい」と思うのが人情でしょう。実はそれに対応すると思われる現象が分かってきています。それは「ガンマ線バースト」という天体現象です。
 冷戦のさなかの1960年代、アメリカはソ連の核実験を監視すべく、核実験に伴って発生するガンマ線をとらえる人工衛星を打ち上げました。幸い地上からのガンマ線は来なかったのですが、かわりに宇宙からときおりガンマ線が津波のように到来する謎の現象が発見され、「ガンマ線バースト」と呼ばれるようになりました。しかしガンマ線バーストがいつどこで起こるのかは全く予測できず、ガンマ線がピカッと光っても、数秒から数分で消えてしまいます。運よくガンマ線の発生位置を決め、後からそのあたりを望遠鏡で探しても、怪しい天体は何も見つからない状態でした。
 1997年、ついにイタリアの衛星が、バーストの発生から数時間のうちに、天球上のその位置を決めることに成功しました。それを地上に伝え、光の望遠鏡で観測したところ、ガンマ線よりずっとゆっくり消えてゆく、爆発の「残光」が見つかったのです。さらに残光が消えたあと、その位置を可視光でよく調べたところ、ひじょうに遠方にある銀河、すなわち宇宙が若かったころの銀河が、そこに発見されました。したがってガンマ線バーストは、宇宙の果てで発生する大爆発らしいということがわかってきたのです。そんな遠方で発生しても、なおかつ強烈なガンマ線がキャッチされるわけですから、とてつもなく巨大なエネルギーの解放が起きていることは、間違いありません。
自動望遠鏡による残光探査写真


大バーストの残光写真
 ガンマ線バースト発生のなるべく直後の姿を見るため、理化学研究所では、アメリカやフランスと協力して、「へティ2」という衛星を2000年に打ち上げました。この衛星は、広い視野でガンマ線バーストの発生を見張っていて、ひとたびバーストが起きると、自分でその場所を、満月の1/3くらいの誤差で決定します。その位置はただちに地上に通報され、インターネットで全世界に伝えられます。すると、待ち構えていた多数の自動望遠鏡が、通報を受けて自動的にその方向に向き、残光の探査を開始するのです。
 これは理化学研究所の鳥居研一さんが、口径25cm望遠鏡を3台、自動運用しているところです。へティ2はこれまでも100個を越えるガンマ線バーストをキャッチして来ましたが、昨年の3月29日には、とりわけ大きなバーストを検出しました。鳥居さんは世界で一番最初に、この大バーストの残光をとらえることに成功しました。このように、宇宙の果てで起きた大爆発に伴う発光が、2晩ほどで徐々に消えていく様子がわかります。より大きな望遠鏡でこの残光を追跡し続けたところ、バースト発生から1週間ほどたった時点で、残光のスペクトルが次第に変化してゆきました。爆発にともなう高エネルギー粒子の出すシンクロトロン放射から、超新星爆発に特有なスペクトルへと変ったのです。これにより、宇宙の遠方で大質量の星が超新星爆発を起こし、星の中心部分がつぶれてブラックホールができ、その瞬間にガンマ線バーストが発生するという筋書きが、確実になってきました。





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