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「巨大」ブラックホールと「中質量」ブラックホール生成の謎
銀河の姿写真  こうした銀河系内のブラックホール連星とは別に、宇宙の違う場所にはまったく違うタイプのブラックホールがあることもわかってきました。この図は、NGC4151と呼ばれる銀河の、白黒を逆転した写真です。露出が浅いと、銀河の中心だけが点状に明るく光って見えますが、もっと露出時間を長くすると中心は完全に飽和し、そのまわりに渦巻き銀河が見えてきます。この例のように、活動銀河と呼ばれる一群の銀河は、中心にきわめて明るい点状の天体をもち、そこから光や電波やX線を放射しています。これは、活動銀河の中心には太陽の100万倍から1億倍の質量を持った巨大なブラックホールがあって、周囲のガスや星をのみ込んでいる結果と考えられるようになりました。ただし「巨大」といっても、その事象の地平線の半径は、銀河全体の大きさに比べれば1億分の1程度の微々たるものです。
 「はくちょう座X-1」のようなブラックホールは、星の最期として理解できます。では太陽の100万倍から1億倍もの質量のブラックホールは、どうやってできたのか、それは20年以上の間の謎でした。最近、その謎を解く手がかりが見えてきました。それが「中質量ブラックホール」というものです。
渦巻き銀河(M83)写真  これは南の空にあるM83という渦巻き銀河で、左はそれを可視光で見た写真、右は「チャンドラ」という新しいX線天文衛星で見た画像です。このように銀河の渦巻きにそって、X線がボーッと光っています。これは、太陽コロナのような高温ガスが、銀河の中に広く分布していることを示します。銀河の中心部分も非常に明るく、ここにおそらく巨大なブラックホールが隠れているのでしょう。これらに加えて、点々とX線で明るい点が見え、それらを可視光の写真に赤でプロットしてみると、だいたい銀河の腕に沿って分布していることがわかります。これらの大部分は、ブラックホールや中性子星にガスが吸い込まれている現場であると考えられます。
 これら点状のX線源のうち、もっとも明るい10個ほどは、「はくちょう座X-1」より数十倍ないし数百倍も多くのエネルギーをX線として放出しています。私たちはこれらの天体を、ULX (超大光度X線源) と呼ぶことにしました。我々の銀河系のように、ULXのいない銀河もあれば、M83のようにULXが10個ぐらい見られる銀河もあり、どうやら星の形成がさかんな銀河ほど、ULXの個数が多いようです。
 いくつかのULXを「あすか」で観測してみると、X線スペクトルなどの性質が、「はくちょう座X-1」やその同類のものと、たいへんよく似ていることが判明しました。よってULXは、「はくちょう座X-1」と同じメカニズムでX線を出す「ブラックホール連星」と考えられますが、それより大幅に明るいわけです。では「はくちょう座X-1」にもっと多くのガスを注入すればULXになるかというと、そうはいきません。なぜなら出てくるX線のもつ圧力(放射圧)によってガスが落下できなくなる結果、ブラックホールはある限界より以上には明るく輝くことができないからです。この限界は、ブラックホールの質量に比例しているので、太陽のおよそ10倍の質量をもつ「はくちょう座X-1」は、どうやってもULXにはなれず、かわりに太陽の数十倍から数百倍の重さをもつブラックホールが必要になります。
 こうしてULXは、「はくちょう座X-1」のような小ぶりのブラックホールと、銀河の中心にある巨大なブラックホールをつなぐような、「中質量ブラックホール」であると考えられるようになりました。私たちは、小ぶりのブラックホールが星やガスをのみ込んでULX のような中質量ブラックホールになり、それらが銀河の中心に向かって沈み込み、そこでさらに相互に合体してどんどん大きくなっていき、やがて1個の巨大なブラックホールが形成されるのではないかと考えています。





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