ご覧いただいているページに掲載されている情報は、過去のものであり、最新のものとは異なる場合があります。
掲載年についてはインタビュー 一覧特集 一覧にてご確認いただけます。


宇宙実験で広がる未来への可能性〜「きぼう」日本実験棟での実験の成果〜

生き物は芸術品である

Q. 以前から宇宙実験にご興味があったのですか?

DomeGene実験の結果に笑顔の浅島教授
DomeGene実験の結果に笑顔の浅島教授

DomeGene実験の作業を行う若田宇宙飛行士(提供:NASA/JAXA) DomeGene実験の作業を行う若田宇宙飛行士(提供:NASA/JAXA)

私は以前から宇宙実験には興味があり、向井宇宙飛行士が搭乗した、1994年打ち上げのスペースシャトル・コロンビア号での宇宙実験にも参加をしました。その時に行われた82件の科学実験のうちの1つで、イモリの卵を使った実験を行いました。
生物学者というのは誰でもそうですが、進化というものに興味があります。つまり、生命の誕生です。そして、生命の源があるのが宇宙です。また、地球上の生命を安定させている力の1つは重力であり、変化させている力で大きいのは放射線だと考えると、その2つはまさしく宇宙なのです。ですから、私たちの体の仕組みのでき方を考えるうえで、宇宙環境で実験を行うことは、必然的であると思います。 Q. 今回の実験を通して、宇宙と生命について何かお感じになったことはありますか? 私はカエルの腎臓細胞を宇宙へ持っていきましたが、その細胞が、地球上では見られないいろいろな変化を見せてくれました。彼らは、私たちが想像しなかった世界を見せてくれたのです。それによって、地上では隠れていたものが見えてくるし、逆に、地上では見えるのに隠れてしまったものもありました。私はその様子を見て、生物が持っているすごさを感じました。変化する細胞はとてもリズミカルであり、生きている姿はとても美しく、生き物は芸術品だと思います。
宇宙空間というのは、空気がなく、宇宙放射線は降り注いでいるし、温度の高低差が激しいなど、とても過酷な環境です。そのような環境でも、少なくともISSの中では、人間は生きていることができます。日本の宇宙飛行士が宇宙に長期滞在する姿を見て、改めて、「生命はすごい」ということを知る機会でもあったと思います。生命38億年の歴史を経て、人類が宇宙で生活をする時代が到来し、将来どのような方向に進むのか、生命にどれだけの順応性や適応能力があるのかということが、今後さらに分かってくるだろうと思いました。地球という環境は、ある意味で特殊であり、安定性と不安定性のバランスの中にあるということも理解されると思います。 Q. 科学の面白さは何だと思われますか? 科学の面白さは、新しいことにチャレンジし、知らないことを知ること。分からないことが分かること。見えないものが見えてくることだと思います。何か新しいことが分かると、その面白さや不思議さのようなものが爆発的に湧き出てきます。科学というのは、「なぜ?どうして?」から始まると思いますので、特に今の子どもたちには、そういう気持ちを大事にしてほしいですね。

日本を科学技術の力で立て直す

Q. 今後どのような生命科学実験を「きぼう」で行いたいですか?

宇宙で実験する予定のメダカと同じ系列のメダカ(提供:東京大学)
宇宙で実験する予定のメダカと同じ系列のメダカ(提供:東京大学)

別の研究グループでは、水生生物のメダカが、宇宙環境で何世代まで世代交代をするか、その仕組みや、どのような行動をとるか調べてみたいと思います。メダカは、卵から産卵できる成魚になるまで約3ヵ月と期間が短いため、宇宙飛行士の長期滞在中に、親から子、子から孫へ世代交代するのを観察できます。メダカは体の中が透けて見えますので、メダカがどのように泳ぐかということだけでなく、循環器系や心筋がどのように動くかも外から見て分かります。
また、日本人にとってメダカは子どもの頃から馴染みのある生物で、メダカの研究には古い歴史があります。日本の伝統的な生物ともいえるメダカを使って、日本発のオリジナルの研究をぜひ行いたいと思います。メダカは遺伝子ゲノムがすべて解読されていて、人の遺伝子の組成と似ている部分があることが分かっています。ですから、将来、人類が月や火星を目指すとしたら、重要なデータになると思います。

Q. 日本の宇宙開発に期待することは何でしょうか?

日本には宇宙開発の優れた技術があると思います。例えば、昨年、HTVという宇宙ステーション補給機を打ち上げました。その時に世界中を驚かせたのは、初めての打ち上げで、約6トンもある大型の機体をISSにドッキングさせたことです。これは、まさしく日本の科学技術の総合力だと思います。日本は資源のない国で、少子化などいろいろな課題をかかえていますが、その日本を科学技術の力で立て直してほしいと思います。ISSは宇宙科学のシンボルですが、その中で日本の持っている素晴らしい技術を継承していくとともに、新しい世界最先端の技術開発の場として利用していくべきだと思います。
宇宙で起きる現象には不思議なことが多く、「きぼう」はその不思議なことを解ける場であるとともに、若い人が目を輝かせるような実験テーマがたくさんあります。このことを若い世代にもっと知ってほしいですし、研究費のサポートなど、彼らが宇宙研究の世界に元気よく入ってこれるような仕組みをぜひ作っていただきたいです。

Q. 先生の今後の目標は何でしょうか?

生命科学の広がりを宇宙へ持っていくことで、「生命とは何か?」というのを新しい目で見てみたいと思います。適応能力や進化の問題、多様性の問題など、いろいろな意味で新しい生物学を考えてみたいと思います。そして、私たちには見えない、あるいは気づかない人間の力を知りたいです。
環境問題が進む今、「地球を見直してみよう」とよく言われます。では、地球の何を見直すかというと、人間を新しい視点から科学的に見直すことだと私は思うのです。しかし、そこには単に人間を中心に考えるのではなく、ほかの生物から学びます。例えば、人間は体温が4°C上がって40°Cになると意識を失うことがありますが、イモリやカエルなどの両生類は体温が4°Cくらい変化しても平気です。人間よりも適応能力が高いので、彼らから学ぶことがあるはずです。このように、ほかの生物を知ることで、私たち自身についての理解を深め、他の生物との共存を考えていきたいと思います。

DomeGene実験を詳しく知りたい方はこちら

浅島誠(あさしままこと)

東京大学特任教授 産業技術総合研究所 幹細胞工学研究センター センター長 理学博士
1972年、東京大学理学系大学院博士課程修了(理学博士)。ドイツ・ベルリン自由大学分子生物学研究所研究員、横浜市立大学文理学部教授を経て、1993年に東京大学教養学部教授に就任。1996年、東京大学大学院総合文化研究科・教養学部教授に就任。2003年、東京大学大学院総合文化研究科長・教養学部長。2005年、日本学術会議副会長。2007年〜2008年3月、東京大学理事(副学長)。2006年より産業技術総合研究所(産総研)器官発生工学研究ラボのラボ長、2009年より科学技術振興機構研究開発戦略センターの上席フェローを務め、2010年4月から産総研 幹細胞工学研究センター センター長として現在に至る。1989年に細胞の分化を誘導するタンパク質「アクチビン」を発見。その後、心臓や腎臓など22の臓器を作り出し、再生医療の扉を開く。1990年日本動物学会賞、1994年シーボルト賞(ドイツ政府)、2001年紫綬褒章、日本学士院賞・恩賜賞、2008年エルヴィン・シュタイン賞など数多くの受賞歴があるほか、2008年には文化功労者に選ばれる。専門は発生生物学。

Back
1   2
  

コーナートップに戻る