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宇宙実験で広がる未来への可能性〜「きぼう」日本実験棟での実験の成果〜

ロシア研究機関やアジアの宇宙機関が参加

Q. 宇宙でのタンパク質結晶生成実験における国際協力はいかがでしょうか?

タンパク質結晶生成実験のサンプルを搭載したプログレス補給船の打ち上げ(提供:S.P.Korolev RSC Energia)
タンパク質結晶生成実験のサンプルを搭載したプログレス補給船の打ち上げ(提供:S.P.Korolev RSC Energia)

私たちが行うタンパク質の結晶生成実験は、ロシアとの国際協力で行っています。JAXAが「きぼう」の実験装置と全体のとりまとめを行い、実験スペースの3分の1をロシアに提供するという条件で、サンプルの打ち上げと回収を、ロシアが自国の「プログレス補給船」と「ソユーズ宇宙船」を使って無償で行います。
またJAXAは、「きぼう」が完成する前の2003年から2008年まで、国際宇宙ステーション(ISS)のロシアのサービスモジュールを利用して、9回にわたるタンパク質結晶生成実験を行いました。これにより、ISSにおける実験のさまざまな技術を蓄積することができたのです。
2009年からは「きぼう」での実験が始まり、これまでに2回実施しましたが、2回目の実験のサンプルは、今年の2月にロシアのプログレス補給船で打ち上げられ、約4ヵ月にわたって実験が実施された後、6月に、野口宇宙飛行士とともにソユーズ宇宙船で無事に帰還しました。このように、タンパク質の宇宙実験では、ロシアとの国際協力が非常にうまくいっています。
間もなくアメリカのスペースシャトルが退役すると、サンプルの回収機会が少なくなるため、今後はさらにロシアとの協力が重要になってきます。そういう意味では、私たちは2003年からロシアと協力してきた実績がありますので、そこで培った信頼関係をもとに、今後はタンパク質の実験以外の分野でも、ロシアと協力していきたいと考えています。
また、「きぼう」でのタンパク質の実験は、マレーシア宇宙機関とも協力をしています。マレーシアのプトラ大学のRaja Noor先生が、マレーシア国内で得られたタンパク質を搭載して実験の成果を得ています。JAXAは、さまざまな宇宙の利用を通じたアジア諸国との連携を推進していますので、今後はマレーシア以外の国とも、ISSの利用の国際協力がさらに広がっていくと思います。

日本、そして世界に貢献するために

Q. 「きぼう」日本実験棟をどのように利用していくべきだと思いますか?

「きぼう」日本実験棟(提供:NASA)
「きぼう」日本実験棟(提供:NASA)

私たちは、「きぼう」が完成する前の約5年間、ISSのロシアのサービスモジュールを利用してタンパク質の結晶生成実験を行いましたが、やはり、日本の実験棟で行うのとは違います。「きぼう」ができて、日本独自の実験が自由にできるようになったことは、非常に大きなメリットだと思います。私は、宇宙開発そのものは、参加することに意義があり、「きぼう」は日本の科学技術力を世界にアピールできる場の1つだと思っています。日本の宇宙実験室ができたのですから、国民の皆さんに還元できるような成果を出していきたいと思います。また、「きぼう」日本実験棟を、国際的にも貢献できるよう展開していくべきだと思います。

Q. 今後はどのようなタンパク質結晶生成実験が予定されていますか?

今年の9月初めに打ち上げ予定の第3回実験では、JAXAが行うタンパク質結晶生成実験に、「重点利用」という枠組みを設けました。重点利用では、社会問題の解決や先端的な技術開発につながるタンパク質を創出し、社会ニーズに応えたいと考えています。とりわけ画期的な医薬品の開発を1つの柱とし重点をおき、具体的には、患者数が少ないために製薬企業がなかなか作れないような難病治療の薬や、発展途上国で流行している感染症の薬などをターゲットにしたいと思います。そして、2つ目の柱として、廃棄物の処理や、エネルギーの生産にかかわる酵素の開発に力を入れ、地球の環境問題やエネルギー問題にも貢献していきたいと思います。

タンパク質結晶生成実験を詳しく知りたい方はこちら

佐藤勝(さとうまさる)

JAXA有人宇宙環境利用ミッション本部 宇宙環境利用センター 主任開発員
1984年、国立仙台電波工業高等専門学校(現、仙台高等専門学校)を卒業。1984年に宇宙開発事業団(現JAXA)に入社した後、種子島にある増田追跡管制所(現 増田宇宙通信所)や筑波の中央追跡管制所(現 統合追跡ネットワーク技術部)で人工衛星の追跡管制に従事。1995年から国際宇宙ステーションの利用計画・宇宙実験に携わる。2001年より現職。

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