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地球温暖化問題の克服に向けて〜GEO炭素プロジェクトへの貢献〜
環境問題解決に向けた日本の貢献に期待 地球観測に関する政府間会合(GEO)事務局長ジョゼ・アシャシュ José Achache

地球観測を統合する世界で唯一の機関

Q. なぜ、地球観測に関する政府間会合(GEO)が必要だと思われますか?

©JAXA/NHK
©JAXA/NHK

GEOが必要なのは、いま私たちが、地球の環境に関するさまざまな重大な問題に直面しているからです。そうした問題への対応、解決法を見出すために、まずは現状を観測することが必要です。各国の政府や関係機関は、環境や自然にどのような結果をもたらすかを考慮し、適切な対策をとっていく必要がありますが、そのためにも、地球の現状を把握することはとても重要です。
次に、環境問題はお互いに関連していますので、それを構成するさまざまな要素を総合的に理解する必要があります。従来は1つずつの問題に各々焦点を当て、それを解決するための対策が論じられてきました。しかし、例えば、農業生産の問題だけに取り組んだ結果、土壌の質低下や浸食、生物多様性など、別の問題が生まれてしまったのです。これまでは、さまざまな問題が別々に論じられてきましたが、今日、こうした諸問題は密接に結びついているということ、総合的に対応しなければいけないということが理解されるようになりました。GEOは、災害、健康、エネルギー、気候、水、気象、生態系、農業、生物多様性というさまざまな分野において、その観測を統合させる世界で唯一の機関です。統合した観測データを、環境問題を克服するために役立てます。

Q. GEOの炭素プロジェクトの目的は何でしょうか?

炭素プロジェクトの目的は、世界で標準化された方法で、地球規模の炭素観測を行うことです。植生、地表、大気、海洋のそれぞれが炭素を排出し、吸収していますが、それらの炭素排出量や吸収量を観測します。そして、地域ごとの炭素の循環を調べ、その観測データをみんなが使いやすいように情報公開します。
環境問題を考えるうえで、炭素が重要なテーマだということは議論の余地がありません。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の論ずるところによれば、地球の温暖化が進んでおり、こうした気候変動のおもな原因は、大気中の炭素の量です。工業地帯や森林破壊により、どれだけの量の炭素が大気中に排出されているか、また、森林や海洋にどれだけの量の炭素が吸収されているか、といったことは、各国政府が今後の政策を決定するうえで、とても重要な要素になってきます。
炭素プロジェクトは決して簡単なプロジェクトではありません。しかし、小さな課題を1つずつ乗り越えながら順調に計画を進めています。私たちに必要なのは、このまま着実に炭素プロジェクトを続けていくことです。国連気候変動枠組条約(UNFCCC)、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)とも常に連絡を取り、協力をしながら活動を続けていきたいと思います。私はGEOの10年実施計画で示した通り、2015年までに炭素プロジェクトを達成できると信じています。

温暖化から地球を守るために

Q. 2010年11月に北京でGEOの閣僚会議が行われましたが、炭素プロジェクトについて、どのような議論があり、今後の方向性はどう決まったのでしょうか?

2010年11月に北京で行われたGEO閣僚級会合(提供:GEO)
2010年11月に北京で行われたGEO閣僚級会合(提供:GEO)

北京で行われたGEOの閣僚会議では、政策決定にかかわる関係機関に、観測データへのアクセスを提供し続けることの重要性、観測の必要性が改めて確認されたほか、各プロジェクトや、要求性の高いことについて話し合われました。政府や官僚は、あらゆる要素に関して「観測」を必要としていますし、GEOが構築する「複数システムからなる全球地球観測システム(GEOSS: Global Earth Observation System of Systems)」の有用性を高く評価しました。そして、GEOを維持し、さらに長い期間活動を続けていくことで合意を得ました。
将来に関して決まったことの1つが、GEOの活動を、2015年以降も続けていくための法的な枠組みについて検討し始めることです。なぜなら、従来GEOは、2005年に制定された10年実施計画に基づいて進められていたからです。そのほか、データへの自由なアクセスを実現するため、GEOに提供された観測データをできる限り幅広く、数多く提供し、利用できるようにするシステムを設けるべきだとの合意が得られました。具体的には、データコア(DataCore)と呼ばれるシステムを使い、GEOの観測データをだれでも自由に無料で利用できるようにします。データのユーザーは、各国の政府や機関の政策を決めるうえで顧問を務める専門家や科学者です。
さらに、今後も新しいプロジェクトを発展させていくということで、閣僚たちの合意が得られました。例えば、炭素プロジェクトや森林炭素トラッキング、森林炭素の将来的な貯蔵量に関する研究、GEO-BON(The Groupe on Earth Observation Biodiversity Observation Network:地球観測グループ生物多様性観測ネットワーク)といったプロジェクトです。GEO-BONはGEOSSの下に組織されたもので、従来は地域単位でしか行われていなかった生物多様性に関する観測を、地球規模で把握することを目的にしています。

Q. 現在、京都議定書やポスト京都議定書の実現に向けて、政策担当者が必要としていることは何だと思われますか?また、GEOに期待されていることは何でしょうか?

政策担当者が必要としているのは、テクノロジーによって得られる情報、すなわち、炭素が排出されている原因や、炭素の吸収と削減にかかわるメカニズムに関する情報です。その情報を収集するための観測のツールや、分析、予測する技術が求められています。そこで、設定されたのが、先ほど申し上げた、炭素プロジェクトや森林炭素トラッキング、生物多様性に関するGEO-BONなのです。これらはすべて、政策担当者の要望に応えたものです。
また、2010年に名古屋で行われた国連の生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)では、生物多様性条約の目的を達成するためにも、GEO-BONの構築に必要な観測データを提供する必要があるという声が聞かれました。GEOが最近特に重点を置いている分野は、気候、生物多様性、災害ですが、それらの分野で、世界を牽引するようなプロジェクトを立ち上げ、推進していくことこそが、GEOに期待されていることだと思います。

JAXAによる国際社会への貢献に期待

Q. GEOの炭素プロジェクトに対するJAXAのこれまでの協力について、どう評価しますか?

陸域観測技術衛星「だいち」
陸域観測技術衛星「だいち」

JAXAは以前から、人工衛星を用いた地球観測において、素晴らしい活動をしてきました。その結果、現在、陸域観測技術衛星「だいち」によって、Lバンド合成開口レーダ(PALSAR)を使った森林の観測を、世界に先駆けて実現しています。これは、森林の面積や炭素量を算出するうえで、とても貴重なものです。
また温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」は、大気中の炭素の量を観測することを専門とした世界で唯一の人工衛星です。「いぶき」による観測データに加えて、欧州宇宙機関やNASAの地球観測衛星の観測データも利用されるわけですが、「いぶき」のデータはとても貴重です。本来は、NASAによる炭素観測衛星「OCO」の観測データも利用できるようになるはずだったのですが、残念なことに2009年の打ち上げに失敗し、OCO 2号機の打ち上げが行われない限り、「いぶき」の観測データは、現在、世界で最も貴重なものとなっています。 Q. 炭素プロジェクトに対して、今後JAXAに期待することは何でしょうか?JAXAがこれまで情熱を傾けてきた温室効果ガスの観測プロジェクトについては、それをさらに推進してほしいです。「いぶき」の観測データの分析を進め、炭素プロジェクトに利用できるようになればと思います。

ジョゼ・アシャシュ(José Achache)
地球観測に関する政府間会合(GEO)事務局長
パリ第6大学(ピエール・エ・マリー・キュリー大学)で地球物理学の博士号、パリ第5大学(ルネ・デカルト大学)で物理学の博士号を取得。1989年、パリ地球物理学研究所(IPGP)教授に就任。IPGPの地球科学大学院の大学院長を務めた後、1996年にフランス地質学鉱物学研究局の研究開発部副部長。1999年、フランス国立宇宙研究センター(CNES)の大統領顧問。2000年、CNES副理事長。2002年、欧州宇宙機関(ESA)の地球観測プログラムのディレクター。2004年、イタリアにあるESAの地球観測センター(ESRIN)のディレクターを兼任。2005年、GEO事務局長に就任し、現在に至る。

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