ご覧いただいているページに掲載されている情報は、過去のものであり、最新のものとは異なる場合があります。
掲載年についてはインタビュー 一覧特集 一覧にてご確認いただけます。


地球温暖化問題の克服に向けて〜GEO炭素プロジェクトへの貢献〜
信頼性の高いデータで温室効果ガス削減を実現 気候変動に関する政府間パネル(IPCC) 議長 ラジェンドラ・パチャウリRajendra K. Pachauri

GEOの炭素循環データには大きな価値がある

Q. 現在、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)ではどのような取り組みを行っていますか?

IPCC第5次評価報告書の作成に取り組んでおり、2014年に完成する予定です。すでに執筆者の選定はすんでおり、831名の執筆者と審査編集者がこの報告書に取り組むことになっています。3000人程の第一線の科学者の名前が挙がり、その中から831人を選抜しましたが、その圧倒的な候補者の多さに喜びを感じました。 Q. 地球観測に関する政府間会合(GEO)の地球規模炭素観測分析システムについてどう思われますか? 炭素循環に関するデータは大きな価値があると思います。研究者は、このデータを基に気候に関する問題の研究発表を行い、そして、その研究発表がIPCCの評価報告書のベースになるからです。ですから、気候変動に関する研究がより多く発表されるためにも、このようなデータが必要不可欠だと考えます。GEOの地球規模炭素観測分析システムは、IPCCが行っている研究にとって重要な情報を提供してくれるものです。

Q. IPCCの報告書を作成する上で、どのような観測データが足りないと思われますか?

気候変動に関連する要素を分析する際には、さまざまな種類のデータを収集し、それをベースにするのですが、これには、地球全域のデータを集めることがとても重要です。しかし、世界には、気候変動に関する研究が十分でない地域があり、それらの地域の情報が不足しています。この空白を埋めるには、いろいろな種類の観測システムからデータを得て、情報が不足している地域の現状を把握していくことが大切です。これによって実際の気候変動を評価できますし、気候モデルを作って、将来の気候変動の予測を立てることもできます。ですから、現段階でデータが十分でない地域について、さらに多くの情報を得られるようになってほしいと思います。

データの一貫性が気候変動を適切に評価する

Q. 統合地球規模観測分析システムに、どのようなことを期待しますか?

世界のさまざまな地域の気候変動を適切に評価するためには、データベースの一貫性が不可欠です。しかし、各国が独自の方法でデータベースを開発してしまうと、データの一貫性が得られなくなる可能性があります。ですから標準化された地球規模のシステムが必要なのです。また、自国のみならず各国の状況も把握しておく必要もありますが、共通のシステムを使うことで情報を共有することができます。そういう意味でも、地球規模のシステムには大きな価値があると考えています。しかし何と言っても、収集データの一貫性に大きく期待をしています。 Q. 統合地球規模観測分析システムは、IPCCの活動にどのように貢献すると思われますか?世界の観測システムが統合されて、より洗練されたものになれば、さらに正確なデータを得ることができるようになります。それによって、世界のあらゆる地域で適切な観測と計測が可能になることを期待しています。また、データの品質管理を高い水準で維持してほしいと思います。このシステムは、地球規模の気候変動を評価するだけでなく、世界のある特定の地域の気候変動を評価する上でも、とても重要だと思います。

Q. IPCCとGEOはどのように協力していけばよいと思われますか?

IPCCとGEOは、互いに密接な関係を維持する必要があると考えています。GEOがIPCCの要求事項を認識していれば、気候変動の評価を行うための適切なデータを提供し、さらに力になってくれます。それと同時に、IPCCもGEOがどのようなデータを収集しているのかを把握していれば、それが多くの研究発表に結びつき、結果的にIPCCに貢献することになります。ですからGEOとIPCCが定期的に交流していくことは、お互いにとって有益なことだと思います。

温室効果ガスの現状を視覚的に見せる

Q. 近年、日本の衛星「いぶき」など、温室効果ガスを測定する専用衛星が活動を始めていますが、どのような期待がありますか?

温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」
温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」

人工衛星の強力な技術を使えば、さまざまな季節の温室効果ガスの排出量と濃度のレベルを、地球規模で観測することができます。それにより世界のさまざまな地域における気候変動が、温室効果ガスの放出にどのような影響を及ぼすかを理解する手がかりを得られると思います。温室効果ガスの放出の要因や時期的な変化といったメカニズムを知る上で、重要な役割を果たしてくれるのです。とても価値ある情報ですから、研究者が温室効果ガス観測衛星のデータを大いに活用して、IPCCにも貢献する有用な研究発表をしてくれることを願っています。 Q. 京都議定書では、温室効果ガスを2008年までに5%削減することに合意したにもかかわらず、逆に26%も増加してしまっています。この状況に対して、どのように思われますか? 奇妙なことに、1992年に国連気候変動枠組条約(UNFCCC)が誕生したのにもかかわらず、世界規模で温室効果ガスの放出が増加し続けています。気候変動枠組条約は、温室効果ガス濃度の安定を要求していますが、国際社会がそれをきちんと実施できていないことは一目瞭然です。この条約は気候変動の影響への順応ではなく、放出を削減することを要求するものです。世界各国は、もっと効果的なメカニズムを構築して、国連気候変動枠組条約の規定を実施できるようにしていく必要があると思います。
IPCCの第4次評価報告書では、1970年から2004年の間に、温室効果ガスの放出が70%増加したことに明確に言及しました。この傾向を続けていくわけにはいきません。世界には放出の増加に拍車がかかっている地域も実際にあるのです。
また、IPCCの報告書は、排出量増加の問題を解決する効率性や非効率性を示し、世界のさまざまな地域の一般大衆や指導者に理解を深めてもらうためにも、価値ある情報になっていると思います。やはり、温室効果ガスの現状について視覚的に見せていくことがとても重要です。視覚に訴えることで、世界のさまざまな地域で何が起こっているのか、政策立案者にきちんと理解してもらえるようになるのです。ですから情報をどう見せるかということにも重点を置いて報告書を作成しています。

Q. 温室効果ガスの削減に向けて、最も障害になっていることは何だと思われますか?

IPCCの第4次評価報告書で述べていることですが、地球上のシステムの多くに見られる「惰性」が問題です。例えば、インフラは、特定パターンのエネルギー消費と、それによる温室効果ガスの排出によって生み出されたものであり、そこには「惰性」があります。また、組織にも「惰性」があります。組織は要求される変化に必ずしも迅速に反応できるとは限りません。そして、一般大衆の心にも「惰性」があると言えるでしょう。私は、まずは、一般大衆に地球温暖化の情報を提供し、みんなに現状と現在の傾向を理解してもらう必要があると思います。そうすることによって、要求される変化や、指導者あるいは一般大衆が求める変化にも対応できる術を、要するにこの「惰性」を乗り越える術を見つけることができると思うのです。

情報が持つ力を最大限に活かす必要がある

Q. 世界各国の大臣に訴えかけたいことはどのようなことですか?

大臣の方々へのメッセージは、「情報は力なり」ということです。情報はとても重要です。しかしこの情報を実際に活用しなければ意味がありません。ですから利用可能なデータをすべて研究分析し、政策決定に活かしていくべきだと思います。21世紀という時代では、洗練された素晴らしい方法を使って、情報を収集・統合していくことができますので、それを最大限に活用していかなくてはなりません。特に、GEOのように各国の大臣が一堂に会するような会合は、情報が持つ力とその政策決定への活かし方を理解していただく絶好の機会だと考えています。 Q. 日本政府やJAXAに対して、今後どのようなことを期待しますか? 私は日本社会を大いに尊敬しています。少なくても130回は日本を訪問したことがあり、日本の石油ショックへの反応を目の当たりにしたこともあります。しかし石油ショック以来、日本の産業はエネルギー効率を著しく高めてきました。日本の輸送技術はとてもエネルギー効率が高く、世界の手本となるところが多くありますので、この方面でリードしてくれることを願っています。また、とても素晴らしい環境技術を持っています。それらの自国の持つ優れた技術を使って、日本のみなさんにも京都議定書を遵守するべく、さらなる温室効果ガスの削減に務める目標を達成してほしいと思います。

ラジェンドラ・パチャウリ(Rajendra K. Pachauri)
気候変動に関する政府間パネル(IPCC) 議長
1972年、米国ノースカロライナ州立大学生産工学修士課程修了。生産工学、経済学の博士号を取得。2001年、インドエネルギー資源研究所(TERI)所長。2002年、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第3代議長に就任。2007年、IPCCは地球温暖化に関する知見の評価などによる功績で、元アメリカ副大統領アル・ゴア氏とともにノーベル平和賞を受賞。2008年、財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)理事。専門は環境・エネルギー問題。

コーナートップに戻る