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地球温暖化問題の克服に向けて〜GEO炭素プロジェクトへの貢献〜
世界初!高精細な地球規模の森林マップ JAXA陸域観測技術衛星「だいち」データ解析担当 島田政信Masanobu Shimada

クオリティが高いと評価された「だいち」のデータ

Q. JAXAの陸域観測技術衛星「だいち」は、地球観測に関する政府間会合(GEO)の炭素プロジェクトに対して、どのような衛星データを提供しているのでしょうか?

「だいち」のPALSARによる観測イメージ
「だいち」のPALSARによる観測イメージ
2009年版 全球森林マップ。緑色は森林を示す。©JAXA,METI analyzed by JAXA
2009年版 全球森林マップ。緑色は森林を示す。©JAXA,METI analyzed by JAXA写真拡大

「だいち」の合成開口レーダ(PALSAR)のデータが、森林炭素トラッキング(Forest Carbon Tracking)という、森林がどの場所でどのくらい減少しているか、あるいは増えているかを監視するプロジェクトに貢献しています。現在、発展途上国による森林伐採によっても、大気中の二酸化炭素の濃度が増加し、それが地球温暖化に影響を与えていると言われています。森林減少を防ぐには、時間的な変化を追うことができる人工衛星データを用いて全球規模の持続的な観測が必要なのです。
PALSARを用いれば、10mの分解能で全球の森林マップを作成することが可能です。これほど高い地上分解能で森林の全球データを提供したのは「だいち」が世界で初めてです。我々は2010年に、2009年の観測データをもとに森林マップを作りました。これは、森林が多いところは明るく、少ないところは暗いという濃淡画像です。「だいち」は70kmの観測幅を持っていますが、全球の森林マップは86000枚という膨大な画像で構成されます。しかし、画像のつなぎ目は見えません。その結果、JAXAのデータは、世界的にもクオリティがとても高いと評価されています。GEOの森林監視プロジェクトでは、森林監視にさまざまな衛星データを使用してその検出精度の比較検証を行う部会がありますが、その部会の定める世界の7試験箇所(ボルネオ、ブラジル、メキシコ、ギアナ、タンザニア、タスマニア、カメルーン)について、このように森林観測に適したPALSAR(L-band SAR)のデータを試験的に提供しています。 Q. 森林炭素トラッキングには「だいち」のほか、どのような衛星が参加しているのでしょうか? 高分解能のセンサが必要になりますが、それには合成開口レーダ(SAR)を積んだものと光学センサを積んだものがあります。「だいち」と同じようにSARを用いる衛星は、欧州宇宙機関の「ENVISAT」とドイツの「TerraSAR-X」、イタリアの「COSMO SkyMed」です。一方、光学センサを用いる衛星は、アメリカの「LANDSAT」とフランスの「SPOT」があります。これらの衛星が森林炭素トラッキングに参加していますが、各々のデータが正しいかどうかを検証するために、年に2回ほど、同時期に同じ場所(全世界の10箇所ほど)の試験サイトを観測し、データを比較します。また、どの衛星とどの衛星の組み合わせが良いといった検証も行っています。
衛星や観測機器に関わらず、取られたデータをある計算式に入れるだけで、世界のどこででも正しい森林情報が得られるというのが理想です。しかし実際には、SARと光学センサのデータでは、解析方法が異なりますのでそれは難しく、現在さまざまな検証を行っているところです。

世界中で使われる正確なデータの提供をめざして

Q. JAXAは、GEOの炭素プロジェクトのデータの標準化などにどう関わっているのでしょうか?また、その中で島田さんはどのような役割を担っているのでしょうか?

インドネシアのスマトラ島東部。緑色は森林、紫色は伐採地あるいは非森林を示す。©JAXA,METI analyzed by JAXA
インドネシアのスマトラ島東部。緑色は森林、紫色は伐採地あるいは非森林を示す。©JAXA,METI analyzed by JAXA

どのようなデータを提供したらいいのか、どういう表現方法をとったら分かりやすいのかといった標準化は、2009年4月にキャンベラで初会合が開かれ、それ以降参加しています。世界中の研究者の方々が使いやすく、そして正確なデータを提供することが大切ですが、データには少なからず誤差があります。どのような補正をしたら、その誤差が小さくなるかといった、処理の変数を決めていくのも標準化の1つです。そういう意味では、先ほどお話した、各国の衛星が同時期に同じ場所を観測してデータを検証するというのは、標準化の一環になると思います。
私は合成開口レーダを使ったデータの標準化に関わっていますが、森林面積の変化だけでなく、バイオマス量の変化を、森林マップの濃淡画像から算出することができないかと研究をしています。バイオマスというのは生物由来の資源の量のことで、木質バイオマスとは、木の水分を充分乾燥させて残る部分で、炭素がそのうちの半分を占めています。この炭素というのは、もともと大気中の二酸化炭素が吸収されたものです。ですから森林に吸収された正確な炭素量が分かります。 Q. 炭素データの標準化の現在の状況と、今後の予定を教えてください。 最終的な目標はバイオマス量を正確に算出することですが、現在は、その目標のだいたい半分まできたという感じです。森林か森林でないか(後者を非森林といいます)といった大きな分類だけでなく、もう少し踏み込んで、自然林か、山岳地帯の森林か、アブラヤシ園か、等の森林分類や、森林が増えたのか減ったのか等の変化等は概ね分かるようになってきました。
また、森林の量(バイオマス量)とSAR画像の明るさは、あるところまで(100〜150トン/ヘクタール)は対応関係があることが分かってきましたのですが、それ以上のところでは対応しなくなることも分かってきました。それを打破するためには、森林の密度(木が密集しているのかまばらなのか)や木の高さが必要になりますが、現状では精度が足りません。そのために、バイオマス量の精度向上は今後の大きな課題です。
一方、衛星から得られた情報が正しいかどうかを検証する必要があり、そのために、現地に行って調べるか、現地の人から森林情報をいただいて比較することが必要になります。衛星データを提供する代わりに、現地機関から観測データを提供していただくという協力体制が必須になってくると思います。
バイオマス量を正確に測定することは、私たちだけでなく、世界中の研究者にとって大きな課題です。JAXAとしては、その最終目標に、3年以内で達成したいと考えています。そのためにも、ほかの機関との共同研究も必要になってくるかと思いますが、現在、国際協力機構(JICA)や日本の森林総合研究所と議論をしながら研究を進めています。また、「だいち」のデータをどう森林の監視に役立てていくかというプロジェクトがありますが、それには、NASAジェット推進研究所など海外の機関にも参加していただき、意見交換を行っています。

データの精度向上のためにも継続が大切

Q. 将来的に、炭素のデータをどのように進化させていきたいですか?

アマゾン・パラ州の1996年と2010年の比較。左側は衛星画像。右側は森林と非森林の分類。緑色は森林を示す。©JAXA,METI analyzed by JAXA
アマゾン・パラ州の1996年と2010年の比較。左側は衛星画像。右側は森林と非森林の分類。緑色は森林を示す。©JAXA,METI analyzed by JAXA

木は急に増えるわけではありませんので、10年単位のデータの比較で、森林面積やバイオマス量の変化が分かります。また、データの精度を向上させていくという意味でも、プロジェクトの継続が不可欠です。例えば森林監視についても、「だいち」で初めて行ったのではなく、1995年〜2003年に実施した、地球資源衛星1号(JERS-1)の合成開口レーダによる熱帯雨林、寒帯林マッピングプロジェクトという実績があり、それを発展させたものが「だいち」の合成開口レーダを用いた森林監視プロジェクト(京都炭素プロジェクトといいます)になっています。
現在JAXAは、「だいち」の後継機を3年後に打ち上げる予定にありますが、より分解能が高くなり、炭素量の全球分布を高精度に測定する予定です。「だいち」は打ち上げから約5年が経ちましたが、センサの性能劣化が全く見られません。残燃料から、あと7年くらいは観測できそうですので、2013年以降、2衛星で森林を継続して観測していくことになると思います。観測の継続で、炭素情報の信頼性向上に努めていきたいと考えています。 Q. 今後の展望はどのようなことでしょうか? 合成開口レーダによる森林のモニタリングに関して、SARの画像を初めて見たのは、たしか1992年でした。それは、アマゾン上空のデータでしたが、森の一部が暗くなっていて、森林伐採をしているのが一目瞭然でした。衛星の観測によって森林減少が分かるというのは、感動的でしたね。2006年に「だいち」で同じ場所を観測したら、暗い部分がだいぶ増えたので、森林の伐採が増えたのだと思います。そういった森林のモニタリングをするということは、今私たちが直面をしている地球の温暖化や、森林保全に関係しますので、社会に役立つ意味でとても意義があると思います。ですから、今後もできるかぎり社会貢献を続けていきたいと思います。
また今後は、インドネシアやブラジルなど、森林が多い国の機関と連携をし、衛星と地上が一体化した森林の監視システムをつくっていきたいと思います。そして、現地の人が無償で使えるようなデータをどんどん公開し、地球温暖化の問題に役立ててほしいと思います。

島田政信(しまだまさのぶ)
JAXA宇宙利用ミッション本部 地球観測研究センター 上席研究員 ALOS解析研究プロジェクト 工学博士
1979年、京都大学工学部航空工学科修士課程修了。同年、宇宙開発事業団(現JAXA)に入社。筑波宇宙センター・機器部品開発部でマイクロ波散乱計の開発、地球観測センターでJERS-1地上設備の開発とSARの研究、地球観測解析研究センター、地球観測利用研究センター、地球観測研究センターでSAR利用研究を行い、現在に至る。後方散乱係数を正確に測る理論研究を行い、1999年に学位取得(東京大学)。専門はマイクロ波リモートセンシング、合成開口レーダ処理、干渉SAR、多偏波SAR解析。IEEE FELLOW 2011。

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