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小惑星イトカワの真の姿を明らかに 〜「はやぶさ」サンプルの初期分析結果〜

誰もが知らなかったことを一番に知る

Q. アポロ計画やロシアの月探査、NASAのスターダスト計画によるこれまでの地球外サンプルと、「はやぶさ」が持ち帰ったサンプルの違いは何でしょうか?

イトカワ微粒子の電子顕微鏡写真
イトカワ微粒子の電子顕微鏡写真

アメリカや旧ソ連の月探査計画によって地球に持ち帰られた月のサンプルは、月や地球の進化に対する私たちの知見を書き換えるほどの情報をもたらしました。ただ月は、内部構造が核、マントル、地殻に分離し、すでに進化した天体(分化した天体)です。一方、小惑星には内部構造が分離する前の材料が残っており、太陽系ができた46億年前の状態のまま現在に至っています。ですから「はやぶさ」のサンプルには、月の地殻で採取された月サンプルとは全く別の、太陽系が誕生した頃の情報がたくさん詰まっているのです。
一方、彗星のチリを捕らえたスターダスト計画は、彗星の物質科学を進めるうえで重要な役割を果たしました。しかしスターダストのサンプルは、地球に帰還する時に大気にさらされ、酸素や水による影響を受けています。またエアロジェルという物質に彗星のチリの粒子を高速で突入させて捕獲するという方法をとりましたので、サンプルがバラバラになったり、溶けたり、エアロジェルと反応したりしています。それに比べて「はやぶさ」のサンプルは、帰還カプセルに守られて回収されたので、大気圏再突入の時に高い温度や衝撃にさらされることもなく、また地球の酸素や水などによる汚染もないうえ、いつ、どこで、どのようにサンプルが採取されたかも分かっているのです。
「はやぶさ」のサンプルは、初期分析をしただけでも隕石とは違う特徴があることが分かっており、これを糸口に惑星ができる前の状況を一部再現できると思います。46億年前の材料がせっかく手に入ったのですから、これまで誰もやってこなかった研究ができるはずです。貴重な情報がたくさん詰まったこのサンプルを、どう使ってどこまで理解するかは、私たち人類のこれからの挑戦だと思います。

Q. 宇宙探査の魅力は何だと思われますか?

キュレーション設備での作業風景
キュレーション設備での作業風景

科学研究の面白さは、今まで誰も知ることのなかった新しいことを初めて知ることができることです。そう思って論文を書いた後に「それは誰々がもう知っているよ」と言われてガッカリすることはありますが、発見した瞬間は、これを知っているのは自分だけだ!と思うのです。世の中にはこんなすごいことがあり、私が世界で最初にそれを見つけたんだ!と興奮します。それが科学の楽しみなのです。
これと同じことが宇宙探査にもいえます。誰もが行ったことのないところに探査機を飛ばして、誰もが知らなかったことを一番に知る。すごくワクワクしますよね。しかもそれを、ミッションに関わった人たちと共有化できるんです。それが最大の魅力です。そしてその誰も知らなかったことから新しい学問が生まれます。新しい学問が生まれれば、そこがスタートとなって、さらに科学的探究心が深まっていきます。例えば、月のサンプルが戻ってきた後、月の岩石学や地質構造学などの新しい分野ができ、それが火星や金星に波及して、比較惑星学が新たにできました。これと同じようなことが今度はイトカワのサンプルによって次々と進んでいくと思いますが、これも宇宙探査の魅力の1つです。

起源に迫る科学を切り開いてほしい

Q. 将来の小惑星探査にどのようなことを期待されますか?

小惑星探査機「はやぶさ2」(提供:池下章裕)
小惑星探査機「はやぶさ2」(提供:池下章裕)

「はやぶさ」で培った経験と知識をうまく生かし、今度は「はやぶさ2」で、生命の素となる有機物を含む可能性の高い炭素質のサンプルを採取する予定です。まずはこの「はやぶさ2」の成功を期待します。そしてその後も、我々はどこから、どうやって来たのかという生命の起源に関連する探査を進めてほしいと思います。地上では手に入れられない情報を得ることで、太陽系の起源、地球など惑星の起源、生命の起源、とすべての起源が分かるといいと思います。そういった起源に迫る科学をどんどん切り開いていってほしいと思います。

Q. キュレーション設備は今後の「はやぶさ2」などにも使用する予定ですか?

そうしなければならないと思っています。ただ、サンプルリターン計画は毎年行われるわけではありませんし、ミッションの間隔が長いので、分析装置などいろいろな装置類は更新が必要になってきます。また、今の設備はイトカワのような岩石質のS型小惑星に対応していますが、「はやぶさ2」で行く炭素質のC型小惑星の物質には十分に対応していません。C型小惑星の表面物質にはたくさんの有機物が含まれると期待できます。現在はキュレーション設備のクリーンルームに我々が入っていますが、人間も有機物ですし、いろいろな菌もたくさん持っていますので、せっかく有機物が含まれているかもしれない炭素質物質を持ち帰っても、人間に汚染されてしまいます。ですから極端な場合には人間を遮へいして作業を行えるようにするなど、有機物への対策を考えなければならないかもしれません。これまでの教訓を生かして「はやぶさ2」やその後の月や火星のサンプルリターンミッションに向けてキュレーション設備を充実させ、その可能性を広げていきたいと思います。

藤村彰夫(ふじむらあきお)
JAXA 月・惑星探査プログラムグループ 研究開発室 参与
JAXA 宇宙科学研究所 基盤技術グループ 参与。理学博士

1977年、名古屋大学大学院理学研究科博士課程修了。名古屋大学理学部地球科学科助手を経て、1988年より旧文部省宇宙科学研究所(現JAXA宇宙科学研究所)惑星研究系助手、助教授、教授として月探査計画に参加。2005年より惑星物質受入れ設備(キュレーション設備)を担当。国立大学法人 総合研究大学院大学(総研大)名誉教授。専門は惑星科学。

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