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いよいよ始まる「きぼう」日本実験棟の組立て
無重力下で現れる流れの世界 東京理科大学 理工学部機械工学科 教授 河村洋
私は、無重力下の流体力学的な現象を研究しています。この研究を行う1つの理由は、新素材を開発することです。例えば、半導体は、携帯電話やコンピュータなどさまざまな電子機器に使われていますが、半導体を作る時には、原料を一旦温めて溶かし、その溶けた液を冷やしてもう一度結晶化します。その時に、どういう流れが起きるのか、この融液の流れを研究することによって、より性能のよい素材を開発することができます。

図1 (提供:東京理科大学)
図1 (提供:東京理科大学)

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地上では、重力の影響で浮力があります。その浮力が対流を生みます。対流は結晶を作る過程に影響を与えますので、重力のない宇宙では、対流に影響されない完全にきれいな結晶ができるのではと思われていました。そこで、宇宙で結晶を作る実験が行われましたが、結果は予想通りではありませんでした。宇宙へ行っても、浮力に起因しない別の対流が起き、それが結晶の成長に影響を及ぼしていることが分かりました。

液体には、表面張力があります。表面張力というのは、表面積をできるだけ小さくしようとする力です。例えば、寒い所にいるサルが集団で団子のように固まって小さくなっていますが、それと同じで、できるだけ集まって表面を小さくしようという性質です。表面張力は、温度や濃度によって変わるので,表面張力が強い方にむかって流れが起きます。ちょうど、綱引きをしているときに、力の強い方に引き寄せられるのと同じです。このようにして起きる流れを、1800年代に研究したイタリア人の名前に由来して「マランゴニ対流」といいます。(※図1)宇宙では、このマランゴニ対流が結晶の形成に影響を与えます。私たちが提案した「きぼう」日本実験棟での実験は、温度差によってできるマランゴニ対流が、結晶形成にどのような影響を及ぼすかを調べます。

図2 (提供:東京理科大学)
図2 (提供:東京理科大学)

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「きぼう」で行われる実験テーマは、1993年に採択されました。来年「きぼう」が完成した後、実験を行わせていただく予定なので、提案から約15年が経つことになります。しかし、この間、何もしないで待っていたわけではありません。私が心掛けてきたことは、地上でできることは可能な限りやるということです。そのおかげで、多くの新しい発見がありました。ヨーロッパの研究者と共同で行った、ロケットを使った微小重力実験では、マランゴニ対流によって粒子集合(PAS: Particle Accumulation Structures)といわれる現象が宇宙でも起きることを確認出来ました。(※図2)しかし、このようなロケットでは1回しか実験ができませんので、どのような条件でこういう現象が起きるかなど丹念に調べることはできませんでした。ですから、長時間の無重力環境の中で、ぜひ実験をしてみたいと思います。また、コンピュータが進歩したことによって、たくさんの解析ができましたので、現象をより確実に捕まえて、宇宙に行くことができます。

宇宙で行われる実験の波及効果は、新素材開発への貢献だけではありません。マイクロナノ技術や熱輸送技術への適用も期待されています。マイクロの世界では、表面張力の影響が非常に大きいため、微小重力下による対流の研究は、マイクロ流体技術へ貢献できます。また、ここで実験するマランゴニ効果をうまく使うことによって、現在はパソコンの冷却などに使われているヒートパイプの技術を改良して、地上または宇宙空間におけるより効率の高い熱輸送に寄与することもできます。

これまでの15年間、共同研究者や学生たち、装置を開発したメーカーの方々のご協力のお陰と、宇宙の無重力下ではどんな流れが起こるのだろうという強い興味に支えられて、研究を続けることができました。実験を行ってくださる宇宙飛行士たちともうまくコラボレーションし、いい実験をして、みなさんの生活に役立つ成果を得たいと思います。

河村洋(かわむらひろし)
東京理科大学 理工学部 教授 1970年、東京大学工学研究科博士課程修了後、日本原子力研究所研究員となる。1988年より現職。大学図書館長。ホリスティック計算科学研究センター長。
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