日本人宇宙飛行士のリーダー的な役割に期待します。野外のリーダーシップ訓練やサバイバル訓練に参加した日本人の宇宙飛行士を見ていると、チームのみんなとの「和」をとても大切にします。チームと溶け込もうとするのは日本人の特性だと思いますが、これからは、その「和」の心を持ちながらチームをまとめるようになってほしいと思います。やはり一番の期待はコマンダーになってくれることです。
また、日本人はロボティクス操作では教官を任せられるほどなのですが、船外活動でも活躍してほしいです。スペースシャトルミッションでは、土井宇宙飛行士と野口宇宙飛行士が船外活動を行っていますが、国際宇宙ステーションでの長期滞在では、これまで船外活動のチャンスは巡ってきませんでした。体力勝負なので身体が大きい方が有利なことは確かにありますが、これからは、動作が機敏で繊細な作業を行うことに長けている日本人にも、船外活動を任せると言われるようになってほしいと思います。
いずれは他国の宇宙船に乗せてもらう時代を卒業して、日本人宇宙飛行士が宇宙船を操縦するようになってほしいと思います。アメリカにしてもロシアにしても自国の宇宙船は自国の宇宙飛行士にしか操縦させませんので、日本人のパイロットが誕生するのにはどうしても日本独自の宇宙船が必要だと思います。
ISS下方10m地点に近づく「こうのとり」2号機(提供:JAXA/NASA)
ぜひ日本の有人宇宙船を開発したいと思います。日本は、宇宙ステーション補給機「こうのとり」によるISSへの物資輸送を成功させ、現在、「こうのとり」を地上で回収できるような研究を進めています。この技術が確立できれば有人宇宙船をつくることも夢ではありません。もし独自の有人宇宙船ができれば、日本の技術力の高さを世界に示すことができますし、それにより国内の技術基盤がますます強固になることも期待できます。
しかし、有人宇宙船の開発には莫大な費用と人材が必要になってきますので、有人宇宙船の技術を持つことで日本がどのような利益を得るかということをきちんと説明し、国民に理解してもらう努力が必要だと思います。また、有人宇宙船の技術は、アメリカもロシアも宇宙飛行士の犠牲があって発展してきました。日本で有人宇宙船の開発が実現した場合、事故が起きないとは限りません。ですから、安全性確保への確固たる努力を行うのはもちろんですが、事故が起きた場合の対策に備える覚悟も必要だと思います。
これまで以上に世界各国に信頼される宇宙飛行士を育てたいと思います。また、JAXAは独自に宇宙飛行士の選抜を行い、宇宙飛行士を訓練する技術も持っています。これまでJAXAが養成した宇宙飛行士は、皆とても優秀だという評価を他国からも得ていますので、アジア諸国からの要請があれば、その国の宇宙飛行士の選抜や育成に協力できると個人的には思います。
現在、ISSには古川聡宇宙飛行士が滞在し、さまざまな宇宙実験を行っています。古川宇宙飛行士は約6ヵ月滞在して、今年の11月22日に帰還する予定です。その後も、2012年初夏頃からは星出彰彦宇宙飛行士が、2013年の末頃からは若田宇宙飛行士が日本人初のコマンダーとして、それぞれ約6ヵ月間の予定でISSに滞在します。また、今年の7月には油井亀美也、大西卓哉、金井宣茂の3名が新しくISS搭乗宇宙飛行士として認定されました。日本人宇宙飛行士の活躍の場はこれからますます拡がっていくものと期待します。
JAXA有人宇宙環境利用ミッション本部 有人宇宙技術部グループ長
1987年、宇宙開発事業団(現JAXA)に入社。入社以来、一貫して、国際宇宙ステーション計画に従事。「きぼう」日本実験棟の開発、運用、宇宙飛行士訓練などを担当。専門は人間工学と心理学。2006年より現職。博士(心理学)