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スペースシャトルと日本の有人宇宙活動の歩み

世界に信頼されるコマンダーを育てたい

Q. 宇宙飛行士を育成する際に、心がけていることは何でしょうか?

JAXAの3人の新しい宇宙飛行士。左から、大西、油井、金井宇宙飛行士
JAXAの3人の新しい宇宙飛行士。左から、大西、油井、金井宇宙飛行士

日本人宇宙飛行士には、世界各国の宇宙飛行士とチームを組んだ時に指揮をとれるような宇宙飛行士になってほしいと思っています。海外の宇宙飛行士からも信頼され、コマンダー(船長)となる日本人宇宙飛行士がどんどん出てきてほしいですね。そのためには技術的にも高くなければいけませんし、宇宙飛行士としての基本的な行動が伴わなければなりません。基本的な行動というのは、協調性やチームワーク、自己管理などです。
協調性には、自分の専門の仕事を率先して行うことはもちろん、専門外の仕事であっても他の宇宙飛行士を助けるというような行動が求められます。ただし、出しゃばりすぎてはいけません。相手の立場と気持ちを考えて一歩引いて行動するなどバランスが必要です。リーダーシップをとってチームをまとめる能力と、きちんとサポートできる能力の両方が求められます。また自己管理というのは、自分自身をいつもベストな状態に保つことです。体調を崩すと周りの皆に迷惑をかけますので、疲れている時はしっかり休み、自分の体力を回復させることが大事です。自分で自分を見つめられるようにならないといけません。
優秀な宇宙飛行士かどうかの差は「状況認識力」に現れます。状況認識というのは、今起こっていることを把握するだけでなく、次にどうなるかを予測できることです。そして、その予測した状況を解決するために速やかに対応をとることができる。そのような宇宙飛行士を育てたいと思います。

Q. コマンダー(船長)に求められることは何だと思われますか?

日本人初のISSコマンダーに任命された若田宇宙飛行士。スペースシャトルのミッドデッキにて(提供:NASA)
日本人初のISSコマンダーに任命された若田宇宙飛行士。スペースシャトルのミッドデッキにて(提供:NASA)

リーダーになった場合、仕事をやり遂げるという目的だけではチームを引っ張っていくことはできません。他の仲間がどのような状態にあるかをよく理解して、状況判断していく必要があります。人間ですから当然いろいろな葛藤がありますので、あえて問題提起をして、全員が納得できるまでとことん話し合うことも大事だと思います。リーダーとしてぐいぐい引っ張る時は引っ張っていく。そうでない時は、チームできちんと話し合って問題解決を行う。ただし、最後の責任はリーダーが取る。というのがコマンダーに求められることだと思います。
また、リーダーがずっと引っ張っていくと、みんながリーダーを常に頼るようになってしまいます。それでは他の人が育ちません。ですから時には、自分の責任を委譲して他の人に任せる。というだけの器量と度量もコマンダーには必要だと思います。

Q. 若田宇宙飛行士が日本人で初めてコマンダーに任命されたことについて、どう思われますか?

第10回NASA極限環境ミッション運用(NEEMO)訓練のクルー。若田宇宙飛行士はコマンダーを務めた(提供:NASA)
第10回NASA極限環境ミッション運用(NEEMO)訓練のクルー。若田宇宙飛行士はコマンダーを務めた(提供:NASA)

コマンダーはクルー全員の安全に対して責任を持っていますので、コマンダーが間違った判断をすると、仲間の宇宙飛行士を危険にさらしてしまいます。ですから、クルーはコマンダーに絶大なる信頼を寄せています。その重要な役目を日本人に任せてくれることはとても嬉しいですし、若田宇宙飛行士を誇りに思います。
若田宇宙飛行士はこれまで3回の宇宙飛行を経験していて、そのうちの1回はISSでの宇宙長期滞在を行っています。彼はミッション中にどんなことがあっても慌てることがなく、精神的にも常に安定しているため、彼ならリーダーを任せても大丈夫という認識はJAXA内にありました。でもISSは国際プロジェクトなので日本人だけがそう思っても駄目です。若田宇宙飛行士は、これまで野外や海底でのチームワークを養うNASAの訓練などで実力を発揮し、「若田ならコマンダーができる」ということを証明してきました。
ISSの参加国の責任者が集まる会議で若田宇宙飛行士をコマンダーに推薦すると、すべての国の人たちが「分かりました」「彼になら任せられます」と賛成してくれました。その時はほっとしましたね。コマンダーを育成したいという私の夢が実現した瞬間でした。彼ならきっといい仕事をしてくれると誰もが信頼しています。

さらに拡がる日本人宇宙飛行士の活躍の場

Q. 将来の日本の宇宙飛行士に期待することは何でしょうか?

船外活動を行う野口宇宙飛行士(提供:NASA)
船外活動を行う野口宇宙飛行士(提供:NASA)

日本人宇宙飛行士のリーダー的な役割に期待します。野外のリーダーシップ訓練やサバイバル訓練に参加した日本人の宇宙飛行士を見ていると、チームのみんなとの「和」をとても大切にします。チームと溶け込もうとするのは日本人の特性だと思いますが、これからは、その「和」の心を持ちながらチームをまとめるようになってほしいと思います。やはり一番の期待はコマンダーになってくれることです。
また、日本人はロボティクス操作では教官を任せられるほどなのですが、船外活動でも活躍してほしいです。スペースシャトルミッションでは、土井宇宙飛行士と野口宇宙飛行士が船外活動を行っていますが、国際宇宙ステーションでの長期滞在では、これまで船外活動のチャンスは巡ってきませんでした。体力勝負なので身体が大きい方が有利なことは確かにありますが、これからは、動作が機敏で繊細な作業を行うことに長けている日本人にも、船外活動を任せると言われるようになってほしいと思います。
いずれは他国の宇宙船に乗せてもらう時代を卒業して、日本人宇宙飛行士が宇宙船を操縦するようになってほしいと思います。アメリカにしてもロシアにしても自国の宇宙船は自国の宇宙飛行士にしか操縦させませんので、日本人のパイロットが誕生するのにはどうしても日本独自の宇宙船が必要だと思います。

Q. 日本の宇宙船を開発したいという思いはありますか?

ISS下方10m地点に近づく「こうのとり」2号機(提供:JAXA/NASA)
ISS下方10m地点に近づく「こうのとり」2号機(提供:JAXA/NASA)

ぜひ日本の有人宇宙船を開発したいと思います。日本は、宇宙ステーション補給機「こうのとり」によるISSへの物資輸送を成功させ、現在、「こうのとり」を地上で回収できるような研究を進めています。この技術が確立できれば有人宇宙船をつくることも夢ではありません。もし独自の有人宇宙船ができれば、日本の技術力の高さを世界に示すことができますし、それにより国内の技術基盤がますます強固になることも期待できます。
しかし、有人宇宙船の開発には莫大な費用と人材が必要になってきますので、有人宇宙船の技術を持つことで日本がどのような利益を得るかということをきちんと説明し、国民に理解してもらう努力が必要だと思います。また、有人宇宙船の技術は、アメリカもロシアも宇宙飛行士の犠牲があって発展してきました。日本で有人宇宙船の開発が実現した場合、事故が起きないとは限りません。ですから、安全性確保への確固たる努力を行うのはもちろんですが、事故が起きた場合の対策に備える覚悟も必要だと思います。

Q. 日本の有人宇宙活動の展望をお聞かせください。

これまで以上に世界各国に信頼される宇宙飛行士を育てたいと思います。また、JAXAは独自に宇宙飛行士の選抜を行い、宇宙飛行士を訓練する技術も持っています。これまでJAXAが養成した宇宙飛行士は、皆とても優秀だという評価を他国からも得ていますので、アジア諸国からの要請があれば、その国の宇宙飛行士の選抜や育成に協力できると個人的には思います。
現在、ISSには古川聡宇宙飛行士が滞在し、さまざまな宇宙実験を行っています。古川宇宙飛行士は約6ヵ月滞在して、今年の11月22日に帰還する予定です。その後も、2012年初夏頃からは星出彰彦宇宙飛行士が、2013年の末頃からは若田宇宙飛行士が日本人初のコマンダーとして、それぞれ約6ヵ月間の予定でISSに滞在します。また、今年の7月には油井亀美也、大西卓哉、金井宣茂の3名が新しくISS搭乗宇宙飛行士として認定されました。日本人宇宙飛行士の活躍の場はこれからますます拡がっていくものと期待します。

山口孝夫(やまぐちたかお)

JAXA有人宇宙環境利用ミッション本部 有人宇宙技術部グループ長
1987年、宇宙開発事業団(現JAXA)に入社。入社以来、一貫して、国際宇宙ステーション計画に従事。「きぼう」日本実験棟の開発、運用、宇宙飛行士訓練などを担当。専門は人間工学と心理学。2006年より現職。博士(心理学)

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