
ロボットアームの先端に乗って作業する宇宙飛行士(提供:NASA)
Q.宇宙での活動は人間でなくてもロボットができるのではないかという考えもありますが、それについてどう思われますか?
宇宙では、ロボットと宇宙飛行士がお互いに良い点を出し合い、一緒に生活や仕事をして共存していくことが重要だと思います。特に、宇宙ステーションは巨大で複雑な構造物なので、すべてのメインテナンスを人間だけでやろうとすると、限界があります。うまくロボット的な自動化を進める必要があるのです。その一方で、実験を行って新しい発見がある時に、人間がその場にいることで、ロボットではできない非常にきめ細かな対応ができます。地上の専門家と意見を交換しながら柔軟に対応できるのは、やはり宇宙飛行士であると思います。
また、宇宙ステーションの大きな目的として、今後、人類が宇宙でどこまで活動できるか、生活圏を拡大できるのかということがあります。そのためにも、宇宙に滞在することによる人体への影響を研究することはとても重要だと思います。

訓練中の土井宇宙飛行士(提供:NASA)
Q.「きぼう」は、日本の宇宙開発にとってどのような意義があると思いますか? 土井宇宙飛行士が、「きぼう」に期待することは何でしょうか?
「きぼう」は日本にとって初めての恒久的な宇宙施設です。それは、日本で初めてロケットや人工衛星を打ち上げたことに匹敵するような、日本の宇宙開発史上で非常に大きな一歩になると思います。それにかかわることができ、とても光栄です。
「きぼう」の開発に長年かかわってきましたが、実験装置やシステムなど全体的に見て、使いやすく安定したものになってきたと思います。「きぼう」は日本人宇宙飛行士だけでなく、アメリカやヨーロッパ、ロシアなど各国の宇宙飛行士も使います。日本で「きぼう」の訓練を受けた外国の宇宙飛行士に聞くと、「きぼう」はハードウエア的にもソフトウエア的にもとても評判がいいです。「きぼう」は日本の工業技術の成果でもあり、ネジ1本にしても作りが丁寧で、「とても美しい実験棟だ」と言われることが多いです。その評判どおりに、宇宙でも「きぼう」がきちんと動いてすばらしい成果をあげることを願っています。
一方で、「きぼう」をどう利用していくかは、今後の大きな課題でもあります。「きぼう」で行われる第一次実験テーマが決まったのは、約15年前です。その間に、科学技術は大きく進歩し、地上でできる実験の幅が広がりました。ですから、日本が「きぼう」を活用していくためには、今までにない考えで新しい実験装置を作り、宇宙へどんどん持っていき、科学技術的な新発見をするという点に着目するべきではないかと思います。また、将来は実験の提案者や科学者が実際に宇宙へ行って実験をするという機会があってもいいのではないかと思います。もちろん、企業が費用を出して「きぼう」の実験装置を使って研究することもいいですし、さまざまな形で「きぼう」が有効利用されるようなシステムを作ることも重要だと思います。

HTV(宇宙ステーション補給器)
Q.打ち上げを目前にひかえた今のお気持ちはいかがでしょうか? 土井宇宙飛行士の今後の目標は何でしょうか?
1985年に宇宙飛行士に選定され、この20年間の夢の実現が今回のミッションだと思っています。なんとしても、「きぼう」の組立てミッションを成功させたいです。これから「きぼう」の運用が本格的に始まるわけですが、まずはISSへの取り付けを無事に終わらせること、そして、「きぼう」を使って、いい成果を出すことが私の目標です。
一方、宇宙空間に日本の恒久施設ができても、そこへ行くための独自の手段が日本にはありません。JAXAはHTV(H-II Transfer Vehicle)という宇宙ステーション補給機を開発していますが、これは、食料や衣料、各種実験装置などの物資をISSに補給する、無人の輸送船です。これも、大きな前進だと思いますが、やはり、人間が実際に乗って宇宙へ行けるロケット(宇宙船)がほしいと思います。日本の宇宙開発史は無人ロケットから始まり、宇宙ステーションに来て、その次の段階に進めるかどうかが、今後、大きな挑戦になってくると思います。「きぼう」組立てミッションが終わった後、日本が宇宙への展開を次にどう進めていくかが重要になってきますが、これからもいろいろな形で貢献していきたいと思います。
土井隆雄(どいたかお)
JAXA有人宇宙環境利用プログラムグループ 有人宇宙技術部 宇宙飛行士
1954年、東京都生まれ。1978年3月、東京大学工学部航空学科卒業。1983年、同大学大学院博士課程修了(宇宙工学)。1985年3月、文部省(現文部科学省)宇宙科学研究所研究生修了。1985年8月、NASDA(現JAXA)より第1次材料実験(FMPT/STS-47、NASAミッション名「スペースラブ-J」)のペイロードスペシャリスト(PS:搭乗科学技術者)として毛利衛、向井千秋とともに選定される。1985年11月、NASDA(現JAXA)に入社。1987年5月〜1988年12月、米国コロラド大学ボルダー校、大気理論及び解析センターにて微小重力流体科学の研究に従事。1990年4月、第1次材料実験のバックアップ搭乗科学技術者(PS)に任命され、主にNASA施設で訓練を開始する。1996年5月、NASDA(現JAXA)およびNASAからミッションスペシャリスト(MS:搭乗運用技術者)として認定される。1997年、スペースシャトル・コロンビア号によるSTS-87ミッションに搭乗。16日間のミッション中に国際宇宙ステーション(ISS)の組立てに用いる機器や作業手順の検証試験に加え、予定外の衛星のマニュアル回収を行うために、日本人宇宙飛行士としてはじめての船外活動を行う。2001年10月より、ISS参加機関の国際協力のもとに実施されるISS長期滞在のためのアドバンスト訓練に参加。2004年、ライス大学大学院博士課程修了(天文物理学)。2006年5月、「きぼう」日本実験棟の打ち上げ3便のうち、1便目(船内保管室打ち上げ)のスペースシャトル搭乗が決定。