
宇宙庭:地球の「自然観」を顧みることを目的にISSで植物を育成し庭を創作する実験を検討している。(提供:京都市立芸術大学 松井紫朗助教授「宇宙への芸術的アプローチ」共同研究成果より)

船内実験室に浮かぶ水の球。CGによる想像図。(提供:京都市立芸術大学 藤原隆男教授、野村仁教授、砥綿正之助教授)

建設中の国際宇宙ステーション(提供:NASA)
Q.「きぼう」では教育関係の利用も考えられていますが、具体的にはどのようなものでしょうか?
小学生から高校生まで多くの子供たちが参加できる教育プログラムとして、「サンプルリターン教育ミッション」を準備中です。これは、アサガオやミヤコグサの種子やミジンコ休眠卵などを「きぼう」に持っていき、しばらく置いてから回収し、地上で同期間保存したものと比較して、どういう違いがあるかを観察してもらいます。種子や卵は小さく、一度に大量のサンプルを持っていけますので、参加を希望する学校や科学館など多くの方に配布できると思います。
またJAXAでは、大学生や高校生を対象にした、航空機を使った無重力実験コンテストをこれまで5回実施しています。このコンテストでは、科学的な意義だけでなく、学生らしいユニークな試みを求めていて、芸術実験なども行われました。
航空機だけでなく、芸術的な視点から「きぼう」を利用しようという計画も進めています。芸術家から「きぼう」で行ってみたいことを募集したところ、例えば、墨の流し絵で模様を作る実験や、水玉を使って面白い形を作る実験など、微小重力ならではの面白いアイデアが多く提案されました。宇宙環境を使って芸術的に表現したらどうなるか、非常に楽しみです。
その他にも、多くの子供たちに宇宙実験に参加してもらう教育プログラムを企画していく予定です。教育プログラムを通して、子供たちが宇宙や科学、有人宇宙開発などに興味を持ってくれればと思います。
Q.宇宙環境利用センターでは、どのようなことを行っていますか?
宇宙環境利用センターでは、主に2つの業務を行っています。1つは、国際宇宙ステーション(ISS)で実験をしたい研究者をサポートし、その実現までの架け橋となる業務です。宇宙での実験というのは、電力や通信環境が限られていたり、安全面の制約があります。また、ロケットで打ち上げる時に実験試料が耐えられるか、微小重力の環境で問題なく実験が成立するかなど、さまざまなことを前もって確認しなければなりません。ですから、「きぼう」を使う利用者(研究者)が、実験を実現できるようにするためのさまざまなサポートが必要となるのです。それには、宇宙での実験に必要とされる実験装置などの技術開発も含まれます。
もう1つは、さまざまな分野でのISSの新しい利用を広げていく活動です。科学研究だけでなく、実際の産業に結びつくような利用や教育、芸術など、文化的な観点からも活用し、国民の方がもっと参加できる環境を作っていきたいと思います。また、数年前にISSのロシア居住棟を使って、日本の食品会社のコマーシャルが作られたことがありますが、そういった新しいビジネスの機会を提供していくことも重要な活動です。さまざまな利用の仕方のアイデアを提供することも含めて、日本が持つ宇宙での施設を、使いたい人に使ってもらえるようにすることが私たちの任務です。

「きぼう」の全景
Q.今後、「きぼう」を使って、どのようなことをしていきたいですか?
「きぼう」は、日本にとって初めての宇宙の拠点です。日本が自由に使える宇宙の空間に、日本人が行って、自分たちのために何かをできる、そういう初めての場所なのです。だからこそ、いろいろなことをやってみたいという気持ちで、さまざまな利用方法を考え、これまで準備をしてきました。みなさんが「やりたい」と思ったことを、いかにやりやすくするかを第一に考えています。あとは、「こんなことやりたい」「あんなことやりたい」とみなさんに言ってもらえるような環境を作っていくことが大切だと思います。そして「きぼう」を利用するだけでなく、運用していくことで、人類が今後宇宙へ進出し、活動の領域を拡大するためのトレーニングにもなると思います。
2008年の初めに「きぼう」の組立てが始まり、第1期の実験が一段落するのが2010年くらいです。先日、第2期利用に向けての科学分野の宇宙実験テーマの募集を終えたところですが、これからは、民間企業などが有償で利用できる仕組みも作りたいと思います。さらに、芸術活動での利用など、文化的なプロジェクトも数多く実施し、参加者の幅を広げていきたいです。ただ、今は「宇宙芸術」といわれてもピンときませんから、まずは事例を作って成果を出し、それから新しい募集をしていく予定です。JAXAが自ら責任をもって「きぼう」を活用するとともに、オープンな研究所として一般の方が使える機会も増やしていきたいと思います。
田中哲夫(たなかてつお)
JAXA有人宇宙環境利用プログラムグループ 宇宙環境利用センター長
1978年、東京大学工学部計数工学科卒業。同年、宇宙開発事業団(現JAXA)へ入社。1980年から地球観測衛星用光学センサの開発に従事。1994年から宇宙ステーション補給機(HTV)の開発に従事し、1999年にHTVプロジェクトマネージャとなる。2002年、企画部企画課長。2005年より現職。