地球から見てすぐ側にある天体で、夜道を歩いていて一番に見えるのはお月様です。やはり、一番近いところにある星がどうなっているの?というのを知りたい。お隣さんをのぞきたいという気分ですね。月がどうやってできたんだろう?と月の起源について興味を持つのは、誰もがもつ欲求ではないでしょうか。もちろん月がどうやって生まれたかということについては、世界中の学者が興味を持っていますし、私にとっても大変面白いことです。
いいえ。私はアポロの宇宙飛行士が持ち帰った岩石の分析をしていました。その研究によっていろいろな物事が分かってくると、月が一番面白いと感じるようになったのです。当時、日本では月の岩石の研究グループが4つあって、私はその内の1つで研究をしていました。ある意味では、アポロ計画が私の生涯を変えたといってもいいでしょう。アポロ以前は、地球の石を研究していて、地球の内部のことしか興味がありませんでした。しかし、月の石を研究しているうちに、月は生まれた時から今までのことを全部調べることができると思ったのです。地球の場合は、生まれた時の地球の様子を知ろうとしても無理ですよね。月が分かれば、地球が分かるというのは本当だと思います。だからこそ面白いのです。
また、アポロが月へ行った当時は、日本で惑星の研究をしている人がほとんどいなかったので、自分が先頭に立って研究し、惑星科学という学問を日本に広めたいという気持ちもありました。最近は各大学に地球惑星科学科といった学科ができましたが、以前はありませんでしたので、多少はこの面で貢献できたかもしれません。
もちろん、行ってみたいです。今でも行かせてくれるなら行きたいです。
月にはもっともっと調べたいことがあります。アポロ計画の欠点を1つ挙げるなら、月はもうみな分かってしまっただろうと、一般の方に思わせたことでしょう。アメリカが有人月探査に乗り出せなかったのはきっとそのせいだと思います。もうアポロでやったからこれ以上やることはないでしょう、とアメリカの議会でもなかなか月探査を認めてもらえなかったのだと思います。しかし、今でも月は謎を秘め、私たちの探求心を駆り立てます。
やはり、行きたいからです。そこに山があるからだと思います。高い山があるから登りたい、誰も知らない謎があるからそこへ行ってみたいというのと同じではないでしょうか。
私は、日本人にとって月というのは特別だと思います。日本最古の物語「竹取物語」があるように、日本人にとって月はとても身近にある存在です。日本人の中には、月はロマンだから科学的に調べるとロマンが壊されると思う人がいるかもしれませんが、私はそんなことはないと思います。月が科学的に分かったからといって、月の美しさが変わるわけではありません。ロマンはいつまでもロマンでありうると思いますし、科学的に月のことが分かると、もっと深いロマンになると私は思います。地球から見えるあの月面に、生物が地球に生まれる以前の太陽系のさまざまな歴史が記録されているのだと思うと、わくわくしてきませんか。