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世界が再び月へ!  〜今なぜ人類は月を目指すのか?〜

Q.月探査の魅力は何だと思いますか?



人類初の月面着陸を成功させたアポロ11号
(提供:NASA)

地球から見てすぐ側にある天体で、夜道を歩いていて一番に見えるのはお月様です。やはり、一番近いところにある星がどうなっているの?というのを知りたい。お隣さんをのぞきたいという気分ですね。月がどうやってできたんだろう?と月の起源について興味を持つのは、誰もがもつ欲求ではないでしょうか。もちろん月がどうやって生まれたかということについては、世界中の学者が興味を持っていますし、私にとっても大変面白いことです。

Q.小さい頃から月に興味があったんですか?

いいえ。私はアポロの宇宙飛行士が持ち帰った岩石の分析をしていました。その研究によっていろいろな物事が分かってくると、月が一番面白いと感じるようになったのです。当時、日本では月の岩石の研究グループが4つあって、私はその内の1つで研究をしていました。ある意味では、アポロ計画が私の生涯を変えたといってもいいでしょう。アポロ以前は、地球の石を研究していて、地球の内部のことしか興味がありませんでした。しかし、月の石を研究しているうちに、月は生まれた時から今までのことを全部調べることができると思ったのです。地球の場合は、生まれた時の地球の様子を知ろうとしても無理ですよね。月が分かれば、地球が分かるというのは本当だと思います。だからこそ面白いのです。
また、アポロが月へ行った当時は、日本で惑星の研究をしている人がほとんどいなかったので、自分が先頭に立って研究し、惑星科学という学問を日本に広めたいという気持ちもありました。最近は各大学に地球惑星科学科といった学科ができましたが、以前はありませんでしたので、多少はこの面で貢献できたかもしれません。

Q.月に行ってみたいですか?

もちろん、行ってみたいです。今でも行かせてくれるなら行きたいです。
月にはもっともっと調べたいことがあります。アポロ計画の欠点を1つ挙げるなら、月はもうみな分かってしまっただろうと、一般の方に思わせたことでしょう。アメリカが有人月探査に乗り出せなかったのはきっとそのせいだと思います。もうアポロでやったからこれ以上やることはないでしょう、とアメリカの議会でもなかなか月探査を認めてもらえなかったのだと思います。しかし、今でも月は謎を秘め、私たちの探求心を駆り立てます。

Q.今、なぜ人類は月を目指すのでしょうか?

やはり、行きたいからです。そこに山があるからだと思います。高い山があるから登りたい、誰も知らない謎があるからそこへ行ってみたいというのと同じではないでしょうか。
私は、日本人にとって月というのは特別だと思います。日本最古の物語「竹取物語」があるように、日本人にとって月はとても身近にある存在です。日本人の中には、月はロマンだから科学的に調べるとロマンが壊されると思う人がいるかもしれませんが、私はそんなことはないと思います。月が科学的に分かったからといって、月の美しさが変わるわけではありません。ロマンはいつまでもロマンでありうると思いますし、科学的に月のことが分かると、もっと深いロマンになると私は思います。地球から見えるあの月面に、生物が地球に生まれる以前の太陽系のさまざまな歴史が記録されているのだと思うと、わくわくしてきませんか。


水谷仁  Hitoshi Mizutani
科学雑誌Newton編集長
理学博士。宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究本部、名誉教授。東京大学物理学科卒業後、東京大学理学系大学院数物系修士課程修了。惑星物理学を専門とする。カリフォルニア工科大学、コロラド大学にて客員研究員を経て、名古屋大学理学部地球科学科教授、宇宙科学研究所(元JAXA宇宙科学研究本部)の教授、惑星研究系主幹。日本の月探査機「ルナーA」の科学主任として活躍。JAXAを退官後、2005年から日本を代表する科学雑誌Newtonの編集長を務める。

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