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次期X線天文衛星ASTRO-H 宇宙の謎への挑戦 異分野に展開されるASTRO-Hの技術〜私たちの生活への応用に期待〜

ASTRO-Hには日本の最先端技術を結集した観測装置が搭載されます。これらの機器の技術は、宇宙からのX線やガンマ線をとらえるのに使われるばかりではなく、今後、われわれの日常生活に大きく役に立つものに発展すると期待されています。宇宙で使われる技術は、極めて高い信頼性や小型で消費電力を低くおさめること、宇宙線(宇宙からの放射線)に対する高い耐久性が要求されます。
放射線には宇宙や大地などから発する自然放射線と、レントゲンなどの医療や原子力発電などで発生する人工放射線があり、その波長や性質によってX線やガンマ線などの種類に分かれます。ASTRO-Hは宇宙からのX線やガンマ線を検出しますが、それらからダメージを受けないよう放射線に耐えうる構造にしなければなりません。
このようなことから、ASTRO-Hの技術は、宇宙だけでなく、地上の私たちの生活にすぐにでも役に立つ技術として、応用が期待されています。

Si/CdTeコンプトンカメラの試作機
Si/CdTeコンプトンカメラの試作機
コンプトンカメラを使った重粒子線ガン治療のイメージ
コンプトンカメラを使った重粒子線ガン治療のイメージ
マイクロカロリメーター
マイクロカロリメーター

まず紹介するのは、ASTRO-Hの軟ガンマ線検出器です。この検出器には、日本独自で開発した「Si/CdTe半導体コンプトンカメラ」と呼ばれる装置が使われます。これは、X線よりも高いエネルギーのガンマ線光(光の粒子)がどこから飛来してくるのか、その方向と光子のエネルギー(波長)を同時に測定することができます。光子のエネルギー毎に色分けしたカラー写真が実現すれば、どこにどれだけのガンマ線エネルギーがあるか一目で分かるようになるでしょう。X線はレントゲンのようにフィルムに撮像して可視化できるようになりましたが、ガンマ線はまだ可視化の技術ができていません。コンプトンカメラはガンマ線を可視化できる次世代技術なのです。

ASTRO-Hのコンプトンカメラは、例えば、従来に比べて桁違いに小型な革新的医療機器として、医療分野への応用が考えられます。この技術を使えば、これまで発見しにくかった小さなガンを発見したり、ガンだけに集中してビームをあて、ガンを焼き切る重粒子線治療などの放射線医学を発展させることができます。
また、屋内外での放射線モニターカメラとしても展開が期待されます。コンプトンカメラの技術があれば、数m〜数十m先のどこにどれだけ放射線源が存在するかを可視化することができます。また、強い放射能は電子機器を破壊してしまうこともありますが、宇宙にある強い放射線が飛び交う環境でも信頼性高く動作する宇宙機器は、地上の極限環境でも活躍できます。
さらに、放射線を吸収した植物内部の栄養素や有害物質を定量的に検査できる装置などへの応用も期待されます。

次に紹介するのは、X線の検出器に使われるマイクロカロリメーターです。その極めて優れたエネルギー分解能を活かして、従来の電子顕微鏡を革新的に向上させる応用研究が行われています。電子顕微鏡はナノテクノロジー・材料やバイオテクノロジーなどの幅広い研究分野で基盤技術として用いられています。ASTRO-Hの技術をさらに発展させた新型のマイクロカロリメーターを応用することで、電子顕微鏡を用いるさまざまな分野での組成分析精度が大幅に向上するでしょう。例えば、大容量のデータが入るほど集積度が高いメモリがありますが、その中の半導体チップに極微量の不純物があると不具合の原因となります。不純物があまりにも微量なので、現在は判別するのが難しいのですが、マイクロカロリメーターの技術があれば判別が可能になります。

ASTRO-Hには他にもさまざまな最先端技術が搭載されますが、宇宙だけでなく地上での私たちの生活にも応用できる技術として期待され、現在その研究も進められています。

※ プレスリリース:宇宙エックス線・ガンマ線検出テクノロジーの異分野への展開

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