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次期X線天文衛星ASTRO-H 宇宙の謎への挑戦 日本のX線天文衛星が描く 新しい宇宙の姿に期待 イェール大学 物理学部長 メグ・ユーリィ (Meg Urry)

私の専門はブラックホールで、特に銀河の中心にある超大質量ブラックホールに関心があります。銀河と超大質量ブラックホールが一緒に成長したという説がありますが、いつ、どのようにブラックホールが形成されたのか、また、そこから放出されたエネルギーが周囲の銀河にどのような影響を与えたかを研究しています。

ブラックホールや銀河、中性子星など天体の周囲は、高エネルギーのX線で満たされていますが、それらは透過力が高く望遠鏡で反射するのが難しいため、これまで観測が困難でした。しかし、X線天文衛星「ASTRO-H」はそのような高エネルギーのX線も高精細に検出できますので、今までのX線天文衛星では見たこともないような新しい宇宙の姿を私たちに見せてくれるはずです。

ASTRO-Hは、ブラックホール周辺の物質の種類と温度、さらには運動の様子まで観測できるので、巨大ブラックホール形成の謎がかなり解明されると期待しています。また私は、分厚いガスなどの陰に隠れて見えないブラックホールにも興味があります。ASTRO-Hを使って新たなブラックホールを発見し、宇宙にいくつブラックホールがあるか数えてみたいです。

アメリカやヨーロッパなど他の国の衛星にはない優れた機能を持っているASTRO-H。私が特に注目しているのは、エネルギー分解能が極めて優れているだけでなく、かなり高いエネルギーのX線をとらえることができる新型のX線検出器を搭載することです。この最新鋭のX線検出器がこれまでにない新たな研究領域を切り開いてくれることでしょう。

私が初めて日本の科学者と共同研究をしたのは、1987年に打ち上げたX線天文衛星「ぎんが」の時です。その当時は日本のX線天文学のコミュニティはとても小さく、研究者の数も少なかったと思います。しかし、今や日本のX線天文衛星は、宇宙を深く理解する上で、世界中の天文学者が注目するほどとても重要な役割を果たすようになりました。日本のX線天文学のコミュニティは、おそらく世界で最も優れたグループになったのではないでしょうか。

私は学生の頃に、X線など異なった波長の光によって宇宙を理解できることを初めて知りました。幅広い波長で遠くの宇宙を見れば、遥か遠い昔に何が起こったのかが分かります。まるで考古学のようですごく面白いと思ったのです。そして今でも、新しいことを学んだり、誰にも分からなかったことを発見できる天文学は、私にとって本当に楽しいものです。
私たちの誰もが夜空を見上げて、「あそこには何があるのだろう」とか「あの向こうはどうなっているのだろう」と考えたことがあると思います。宇宙がどのように誕生して今日まで進化してきたかは、誰もがきっと興味を持つことですよね。ASTRO-Hは、私たちが興味を抱く、その宇宙の謎を解き明かしてくれることでしょう。

メグ・ユーリィ(Meg Urry)

イェール大学 物理学部長
アメリカのタフツ大学にて数学および物理学士号を最優等で取得。ジョンズ・ホプキンス大学にて物理学専攻博士課程を修了した後、NASAゴダード宇宙飛行センターにてX線や紫外線の研究を行う。マサチューセッツ工科大学の特別研究員を経て、NASAのハッブル宇宙望遠鏡の運用を行う宇宙望遠鏡科学研究所の特別研究員となる。2001年、イェール大学物理学部長に女性として初めて就任。専門は、活動銀河とその中心にある大質量ブラックホール、銀河とブラックホールの共進化についての研究。これまでに140以上の投稿論文を科学雑誌で発表。アメリカ芸術科学アカデミー、アメリカ物理学会の特別会員。1990年、アメリカ天文学会が天文学の分野で功績のあった女性に贈るアニー・ジャンプ・キャノン賞を受賞。

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