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次期X線天文衛星ASTRO-H 宇宙の謎への挑戦

高速で噴出するジェットの構造を解明

Q. X線天文衛星ASTRO-Hを用いてどのような研究をしたいですか?

チャンドラ衛星が撮影したペルセウス座銀河団。中心に超重量ブラックホールがあって周囲に影響を与えている。(提供:NASA/CXC/loA/A.Fabian et al.)
チャンドラ衛星が撮影したペルセウス座銀河団。中心に超重量ブラックホールがあって周囲に影響を与えている。(提供:NASA/CXC/loA/A.Fabian et al.)
「すざく」が観測したペルセウス座銀河団の中心から2方向のX線。赤はX線で明るく、青はX線で暗いガス。円形の波線は直径が1160万光年ある銀河団の端を示す。銀河団の外縁部では数百万度のガスがある。(提供:NASA/ISAS/DSS/A.Simionescu et al.)
「すざく」が観測したペルセウス座銀河団の中心から2方向のX線。赤はX線で明るく、青はX線で暗いガス。円形の波線は直径が1160万光年ある銀河団の端を示す。銀河団の外縁部では数百万度のガスがある。(提供:NASA/ISAS/DSS/A.Simionescu et al.)

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銀河団の中心にある大質量のブラックホールが、周囲のガスに熱を与えていることは観測的にも証拠が挙がってきました。例えばここに、アメリカのX線天文衛星「チャンドラ」が撮影したペルセウス座銀河団の中心領域の写真があります。銀河団の中心にはブラックホールがあり、周囲に何かしらの影響を及ぼしているように見えます。何か波のようなものが立ち、周囲のガスに熱を与えているのではないかと考えられています。しかしどのようにしてガスに熱を与えているのかは分かりません。ブラックホールから吹き出す高エネルギーのジェットが、周りのガスをかき混ぜながら温めているのでしょうか。ASTRO-Hでは、ブラックホール周辺のガスの速度を高精度に測定できますので、ガスの運動を詳しく調べ、その構造を明らかにしたいと思います。ブラックホールのジェットから周囲のガスにエネルギーが供給されるのかぜひ見てみたいです。
またASTRO-Hは、ブラックホールから放射されるX線がどのようなエネルギーをどれくらい放出しているかを、広帯域で精密に調べることができます。X線放射のメカニズムが分かれば、他の銀河にあるブラックホールの質量を求める計算式ができるかもしれません。ぜひそのような研究もしたいですね。
そして更には、宇宙の構造の進化を明らかにしていきたいです。巨大ブラックホールがいつ、どのようにしてできたのか。また、銀河の形成にどう影響しているのかといった、宇宙の歴史をひも解いていきたいと思います。

隠れて見えなかったブラックホールを発見

Q. これまでの日本のX線天文衛星の成果で特に印象に残っているものは何ですか?

ガスや塵に隠れて見えないブラックホールの想像図
ガスや塵に隠れて見えないブラックホールの想像図
松下先生

日本のX線天文衛星「すざく」とアメリカの天文衛星「スウィフト」の観測で、濃いガスや塵に隠されていた、活動的な超巨大ブラックホールを発見したことです。このブラックホールは一見、普通の銀河に見える天体の中心に埋もれていました。可視光で見ると他の銀河と区別がつきませんが、X線で見ると中にブラックホールがあることが分かったのです。
これまで知られているブラックホールは、ドーナツ状のガスや塵に囲まれていますが、このブラックホールは、ガスや塵が殻のようにブラックホール全体を覆っています。このようなブラックホールは、ブラックホールと銀河が一緒に大きくなる成長期の途中であると考えられています。誕生して間もない銀河やブラックホールは数多く存在すると言われていましたが、実際に見つけたのは初めてでした。
周囲のガスや塵が邪魔をするブラックホールも、ASTRO-Hならエネルギーの高いX線で観測することができます。隠されたブラックホールをたくさん発見することができれば、昔はどれくらいの巨大ブラックホールが存在していたのか、ブラックホールにどれくらい物が落ちているか、ブラックホールがどれだけ成長しているかといった、巨大ブラックホールの起源や進化を理解する手がかりになると思います。

Q. 先生にとって天文学の魅力は何でしょうか?

もともとは子供の頃に本を読んで「銀河など宇宙のことを知りたい」「面白そうだな」と思ったのがこの道に進んだきっかけです。自分が知りたいと思ったことを、今、実際に観測し、そのデータを解析しています。それによって何か自分で最初に見つけられる可能性がある。自分が一番先に新しい天文現象を見ることができるというのが、天文学の魅力ですね。

松下恭子(まつしたきょうこ)

東京理科大学 理学部 第一部物理学科 准教授。博士(理学)
1992年、東京大学理学部天文学科卒業。1997年、同大学大学院理学系研究科天文学専攻博士課程修了。2003年〜東京理科大学理学部第一部物理学科、准教授。専門はX線天文学。銀河や銀河団の暗黒物質の分布と宇宙の構造形成史、近傍銀河のブラックホール連星と星形成史などの研究を行う。

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