全球降水観測計画主衛星(GPM主衛星)の初画像について
平成26年3月25日
宇宙航空研究開発機構
米国航空宇宙局
宇宙航空研究開発機構(JAXA)及び米国航空宇宙局(NASA)が共同開発し、平成26年2月28日に種子島宇宙センターから打ち上げられた全球降水観測計画主衛星(GPM主衛星)が、別紙のとおり初画像を取得いたしました。
全球降水観測計画(GPM計画)は、JAXA及びNASAが進める国際共同ミッションで、GPM主衛星と他の協力機関の副衛星群によって、一日に複数回、地球全体の降水(雨や雪)を観測するものです。GPM計画の要となるGPM主衛星は、JAXAが情報通信研究機構(NICT)と共同で開発した二周波降水レーダ(DPR)と、NASAが開発したGPMマイクロ波放射計(GMI)の二つのミッション機器を搭載しています。
DPRは3月9日より、GMIは3月5日より、それぞれ初期チェックアウトを開始しており、本チェックアウト中に取得したデータから試験的に処理を行い初画像として公開いたします。
初期チェックアウトに引き続き、今後ミッション機器の校正、観測データの精度確認を行った後、GPM主衛星が観測するデータを、打上げ約半年後から世界中の利用者へ提供いたします。
※日付はいずれも日本時間
別紙
概要
これらの図は、平成26年3月10日22時39分頃(日本時間)に、GPM主衛星が捉えた、日本の東海上(北緯40度、東経167度付近)にある発達した温帯低気圧による降水の強さの分布です。図1は、DPRによる降水の三次元分布、図2はGMIによる地表面付近の降水の強さです。また、図3は、同じ時刻の静止気象衛星の雲画像にGMIの観測範囲を重ねたもの(左)と、気象庁が発表した平成26年3月10日21時の実況天気図(右)です。図4はDPRを構成する2つの周波数それぞれによるレーダ反射因子の鉛直分布、図5はGMIの13周波数チャンネルによる輝度温度です。
DPRは、GMIに比べると観測幅が1/3程度しかありませんが、GMIが降水を平面的に観測するのに対して、雲の中の降水の構造を三次元で観測できる「雨雲スキャンレーダ」であるという利点があります。DPRとGMIの二つのミッション測器のそれぞれの長所を組み合わせることで、GPM主衛星では、熱帯から高緯度までの範囲のさまざまな降水システムの構造を観測することができるようになりました。
今回観測された温帯低気圧は、3月8日に沖縄近海で発生し、その後、3月9日から11日にかけて日本の南海上を北東方向に進みました。GPM主衛星が観測した3月10日夜頃には、中心気圧が976hPaと、台風に匹敵するほど発達していました。このときの気圧配置は、西高東低の典型的な冬型であり、この温帯低気圧の影響で、3月9日から10日にかけて、日本の広い範囲に非常に強い寒気が入り込んだために全国的に冷え込みが強まり、3月にも関わらず全国的に真冬並の寒さとなったほか、北海道にも大雪をもたらしました。
初画像の解説
図1~2は、平成26年3月10日22時39分頃(日本時間)に、GPM主衛星が捉えた、日本の東海上(北緯40度、東経167度付近)にある発達した温帯低気圧による降水の強さの分布です。
図1 二周波降水レーダ(DPR)による降水の三次元分布。画像クレジット:JAXA/NASA。
図2 GPMマイクロ波放射計(GMI)による降水の平面分布。画像クレジット:NASA/JAXA。
図1は、二周波降水レーダ(DPR)による降水の三次元分布です。DPRは、同時搭載のGPMマイクロ波放射計(GMI)の観測幅(図2)の中央1/3部分をほぼ同時に観測しています。DPRによる降水の鉛直方向の観測では、このときの降水の高さは約7kmでした。この図では、衛星直下付近の降水の高さ方向の構造が見えるように、衛星の進行方向に沿って、鉛直方向の断面を示しています。DPRの水平分解能は約5km、高さ方向のサンプリング間隔は125mであり、降水の空間構造を詳細に観測することができます。
図2はGMIによる地表面付近の降水の平面分布です。GMIは、DPRのように、詳細な降水の鉛直構造を観測することはできませんが、観測幅が広いため、低気圧の外観をとらえることができ、降水を全球的に観測することができます。GMIは5-15kmスケールと、既存のマイクロ波放射計の中でも高い空間分解能で、降水を含めた雲の特徴を検出することができます。GMIによる降水の分布では、観測幅の西端にある円形状の温帯低気圧の中心や、その真東に強い降水域が見られます。
図3 左:平成26年3月10日22時の静止気象衛星の雲画像(グレースケール)にGMIの36.5GHz水平偏波チャンネルの輝度温度観測を重ねたもの。画像クレジットはNASA/JAXA(雲画像データはJMA/NOAA提供)。右:同日21時の実況天気図(気象庁提供の原図に着色・編集)。日本の東側にある発達した温帯低気圧をGPM主衛星が捉えた。
図3は、平成26年3月10日22時の静止気象衛星「ひまわり」および「GOES」の赤外雲画像にGMIの観測を重ねたもの(左)と、気象庁が発表した平成26年3月10日21時の実況天気図(右)です。図2のGMIで、温帯低気圧の中心の東側に見られる強い降水域は、図3の天気図と合わせてみると、暖かい空気が流入して寒気に乗り上げる、温暖前線付近で起きています。同じ強い降水域は、DPRでも観測されています。また、GMIは広い観測幅を持っているため、寒冷前線の付近の降水も捉えています。
図4 DPRの二つの周波数による観測の違い。左:DPRによる地表面の降水の強さの分布。右:左図の黒線ABに沿った、Ku帯(13.6GHz)によるレーダ反射因子の鉛直断面図(上)とKa帯(35.5GHz)によるレーダ反射因子の鉛直断面図(下)。横軸は左図中のA点からの距離、縦軸は高度(km)。画像クレジット:JAXA/NASA。
図4は、DPRを構成する二つの周波数による観測の違いを示したもので、左図の黒線ABに沿った断面について、右図では、DPRの2つの周波数から観測したそれぞれのレーダ反射因子(*1)の高さ方向の断面を示しています。DPRは、「二周波降水レーダ」の名称のとおり、Ku帯(13.6GHz)とKa帯(35.5GHz)の2つの異なる周波数のレーダから構成されています。Ku帯は熱帯~中緯度に多い強い雨を観測するのに適しており、逆にKa帯は中高緯度の弱い雨や雪を観測できるのが特徴です。それぞれの周波数帯のレーダによる観測からも図4のように降水の強さを算出できますが、2つの周波数による観測を組み合わせたアルゴリズムにより、図1のように強い雨から雪までをカバーした降水の三次元分布を得ることができます。図4の右図では、低気圧の北西(左)から南東(右)にかけて、ブライトバンド(*2)が明瞭に見えます。低気圧の北西側ではブライトバンドが海面に接しており、この周辺では雨から雪に推移しています。
また、Ka帯はKu帯と比べて、降水減衰の影響を強く受けるため、下層でレーダ反射因子が小さくなる特徴があります。DPRでは、このKu帯とKa帯のレーダ反射因子の降水減衰の特徴の違いから降水粒子の情報を得て、より正確な降水の強さを推定します。
図5 GMIの13周波数チャンネルによる輝度温度。画像クレジット:JAXA/NASA。
図5はGMIが持つマイクロ波の受動型13周波数チャンネルによる輝度温度を示しています。左から、10.6GHz鉛直偏波(V)、10.6GHz水平偏波(H)、18.7GHz V、18.7GHz H、23.8GHz V、36.5GHz V、36.5GHz H、89GHz V、89GHz H、166GHz V、166GHz H、183±3GHz V、183±7GHz Vのチャンネルです。10.6~23.8GHzチャンネルは水滴の雨に感度があり、36.5~89GHzチャンネルは液体と固体降水の両方に感度がある一方、高周波は固体降水(雪)に感度があります。GMIは、協力機関の副衛星群による一貫した世界中の降水を提供できるように高機能な校正能力を有しています。さらに、GMIは雲の構造を詳細な解像度で示すことができます。
注釈
*1 レーダ反射因子:
レーダから照射した電波が、雨粒により散乱される度合を示す値。単位体積に入っている雨粒の直径の6乗の総和値で、レーダによる受信電力と、レーダの特性値およびレーダと雨粒との距離とから計算できる。レーダ反射因子には、Zという記号を用いることが多く、通常Zをmm6m-3という単位で表し、その常用対数表現の10倍(デシベル)値、dBZ=10log10 Zで表現する。
*2 ブライトバンド:
降雪粒子が融け始める気温0℃の高さから下の厚さ数100メートルの層内では、降水レーダの電波が強く反射されて明るい帯のように見えるため、ブライトバンドと呼ばれる。これは溶け始めの降雪粒子はその上下の高さに存在する粒子よりも降水レーダの電波をより強く反射するためである。