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固体材料の燃焼性試験方法に関する日本発の国際標準が発行される
―「きぼう」での宇宙火災安全テーマの地上研究成果を国際標準化―

2021年(令和3年)4月20日

国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
日本プラスチック工業連盟
国立大学法人北海道大学
国立大学法人岐阜大学

 国際宇宙ステーション(ISS)日本実験棟「きぼう」で行われる宇宙実験FLAREテーマ※1におけるこれまでの地上研究成果を基に、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が、日本プラスチック工業連盟、北海道大学、岐阜大学等と協力して開発を進めてきた固体材料の燃焼性試験方法に関する国際規格が、2021年4月6日、国際標準化機構(ISO)の国際標準規格ISO4589-4※2として正式に発行されました。

 ISO4589-4は、プラスチックなどの固体材料の燃焼特性を示す定量的指標の一つとして国内外で広く利用されている酸素指数(OI)※3を、高流速の酸素/窒素混合ガス中での値(HOI)※4として得るための試験方法として、世界で初めて国際標準化したものです。HOIを得るための試験方法のISO標準化は、FLAREテーマで開発を進めている、「微小重力環境における固体材料の燃焼性評価手法」において、今後、国際的に活用するために必要な基盤整備を実現したという点で、大きな意義を持ちます。

 現在、ISSプログラムにおける有人宇宙船では、船内火災に対する安全性確保のため、使用する材料について、米国航空宇宙局(NASA)の材料燃焼試験基準(NASA-STD-6001)が適用されます。しかし、これは1998年に制定された基準であり、今後の月面等への有人宇宙探査や、民間ベースでの有人宇宙船開発の拡大を見据えると、宇宙船内環境の多様化、新規材料の採用、低コスト化、開発効率化などへの対応が課題となっています。

 FLAREテーマでは、これらの課題への対処を図り、新たな評価手法確立に向けて、これまで地上研究、地上試験及び航空機の放物線飛行による低重力実験を通じて、予備的な検証を進めてきました。今後は、ISS長期滞在中の野口聡一宇宙飛行士により「きぼう」に設置された、固体燃焼実験装置(SCEM)による宇宙実験において、妥当性等の最終検証を進めていきます。併せて、NASAを含む国際間の調整を通じ、今後の有人宇宙探査を含む活動への適用を目指します。

 *2ページ目以降に詳細補足、用語解説を記載しています。ご参照ください。

<補足①>国際標準規格発行に至る取り組み(経緯) 及び関係者コメント

 ISO4589-4の原案は、2016年5月に経済産業省による「平成28年度戦略的国際標準化加速事業(政府戦略分野に係る国際標準開発活動)」での採択を受け、作成作業がスタートしました。JAXAは、日本プラスチック工業連盟等と連携して規格原案の作成を進め、2017年12月に国際標準原案(NP)をISO/TC61(プラスチック)/SC4(燃焼挙動)/WG8(着火性と火炎の拡大)に提案しました(プロジェクトリーダ:吉田公一氏(日本舶用品検定協会、JAXA客員))。その後、各国の専門家による審議および数段階の国際投票を経て、2021年4月6日に国際標準規格ISO4589-4として正式発行されました。

【関係者コメント】

●日本プラスチック工業連盟  日本がプロジェクトリーダを務めて、規格開発を行うことができたことから、ISO/TC61/SC4におけるプレゼンスを発揮することができ、今後とも日本が積極的に規格提案をしていくことにつなげることができた点が良かったと考えます。

●プロジェクトリーダ 吉田公一氏(日本舶用品検定協会、JAXA客員)
 日本が提案し、イタリアとの共同検証実験を実施し、フランス、米国、英国、インドなどISO/TC61/SC4(プラスチックの燃焼挙動)の多くのメンバーの支持と協力を得て、この規格は完成しました。今後は、宇宙開発の分野での世界的な利用を期待いたします。

<補足②>国際標準化の背景

 気密性を持った閉鎖空間である有人宇宙船内では、火災に対する高い安全性が求められます。ISSプログラムでは、使用する材料は米国航空宇宙局(NASA)の材料燃焼性試験基準(NASA-STD-6001)に合致する難燃性を有している必要がありますが、現行のNASA-STD-6001は1998年に制定された基準であり、その活用には課題が認識されています。

 一つ目として、試験法がPass(合格)/Fail(不合格)方式である点です。ISSのような特定の船内環境(特に酸素濃度)を想定し、最悪酸素濃度条件における材料の燃焼性は判定できますが、当該材料の使用可否を評価したい船内環境が変化すると、その度に試験を実施し直す必要があり、これは、大きな労力とコストを要します。仮に、材料の燃焼限界条件をOIのような定量的指標(インデックス)として与えることができれば、異なる船内環境の宇宙船に対しても、その材料の使用可否を容易に判定することが可能になります。

 二つ目として、NASA-STD-6001が材料の燃焼性に与える重力の影響を考慮して設定された基準ではないという点です。これまでの研究により、材料の燃焼性は重力の影響を強く受け、微小重力環境の方が通常重力環境よりも燃えやすくなる場合もあることが分かっています。試験を実施可能な設備がNASAとJAXAに限定されていることは、民間による有人宇宙船の研究開発などが進む現状では、高い障壁となることが見出されています。

 FLAREテーマでは、上記のような課題への対処を図り、NASA-STD-6001とは異なる独自の材料燃焼性評価に関する新たな手法を開発しています。新手法では、微小重力環境における材料の燃焼限界条件を予測するために、材料の物性値や既存のISO国際標準で得られるOIに加え、高流速条件における酸素指数を用います。今後、新手法が国際的に広く活用されるためには、高流速条件における酸素指数を得るための世界共通の試験方法を、OIと同様に予め定義しておくことが重要です。

<補足③>FLAREテーマ新たな「微小重力環境における固体材料の燃焼性評価手法」の特徴

 新手法では、微小重力環境における材料の燃焼限界酸素濃度を、定量的なインデックスとして評価することができます。民間ベースの宇宙開発の拡大や今後の月面等への有人宇宙探査の展開において、宇宙船内環境は多様化することが予測されます。そのような環境であっても、地上での燃焼試験をやり直すことなく、材料の使用可否を判定できることは大きな利点です。
 また、材料燃焼性への重力の影響を考慮することに伴い、微小重力環境で地上より燃えやすくなるのか、逆に燃えにくくなる材料なのかの識別ができるようになることも重要な点です。さらに、新手法で必要となる地上での材料燃焼試験(OIおよびHOI試験)は、NASA-STD-6001試験に比べて簡易な設備、手順で実施できるため、低コスト化に繋がります。

 これまでは、NASA-STD-6001試験に要するコストや労力の観点から、新規材料の試験やNASAおよびJAXAが有するデータベースへの試験結果の登録が促進されず、結果として使用する材料が固定化しやすい傾向にありました。HOI試験は、OI試験と同様に、NASAやJAXAに限らず民間での活用も極めて容易なことから、新規材料への適用が促進されることが期待されます。その結果、優れた特性を持つ日本製材料の有人宇宙分野における活用の拡大と、国際競争力の強化に繋がることが期待できます。

【用語解説】

※1 FLAREテーマ(FLARE:Flammability Limits at Reduced Gravity Experiment)
2012年に「きぼう」利用テーマ重点課題区分として採択された、「火災安全性向上に向けた固体材料の燃焼現象に対する重力影響の評価」(代表研究者:藤田 修 教授(北海道大学))。本テーマには、JAXA、NASA、欧州宇宙機関(ESA)、フランス国立宇宙研究センター(CNES)、ドイツ航空宇宙センター(DLR)を含む4カ国、14機関が参画しています。
https://iss.jaxa.jp/kibouser/subject/science/70491.html

FLAREテーマでは、重力の影響を考慮した材料の新しい燃焼性評価手法(図1)を開発。OIや材料の特性値と共にISO4589-4で取得方法を規定するHOIをインプットデータとして用いることにより、微小重力環境における燃焼限界条件(酸素濃度と周囲流速条件)が予測できます。なお、「きぼう」では、固体燃焼実験装置(SCEM)を用いて、本評価手法の検証実験等を実施します。
https://iss.jaxa.jp/kiboexp/equipment/pm/mspr/scem/
図1 JAXAが開発中の新しい材料燃焼性評価手法(概念図)

図1 JAXAが開発中の新しい材料燃焼性評価手法(概念図) ©JAXA

 FLARE研究チームの一員である高橋 周平 教授(岐阜大学)の理論モデルをベースとし、地上の通常重力環境でのOI、HOI、および材料の物性値を用いることにより、微小重力環境で火炎燃え広がりが維持される最低の限界酸素濃度(OI_mg)を予測することができます。

※2 国際標準規格ISO4589-4(Plastics, — Determination of burning behaviour by oxygen index — Part 4: High gas velocity test)
※3 酸素指数(OI) 規定の条件下で、試料が有炎燃焼を維持するのに必要な23℃±2℃の酸素と窒素との混合ガスの最小酸素濃度%(体積分率)。ISO4589-2に試験方法が規定されている。
※4 高流速条件における酸素指数(HOI) OIと同様な酸素と窒素との混合ガスの最小酸素濃度%(体積分率)を、規定された流速条件において示すもの。
※5 HOI試験装置(図2) ガス制御装置と燃焼コラムユニットで構成される高流速条件における酸素指数(HOI)試験装置。比較的簡易な設備で実施できることが特徴の1つであり、宇宙機関のみならず広く民間での活用促進が期待されます。
図2 HOI試験装置の外観

図2 HOI試験装置の外観 ©JAXA

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