新型コロナウイルス感染症にかかる 地球観測衛星データを利用したハッカソン
ーEO DASHBOARD HACKATHONーの開催結果について
2021年(令和3年)8月6日
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)と米国航空宇宙局(NASA)、欧州宇宙機関(ESA)は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関するバーチャルハッカソン「EO DASHBOARD HACKATHON※1」を今年6月に開催し、優勝6チーム、JAXA ALOS-2データ賞、ESA ESRIN賞を選定しました。
「EO DASHBOARD HACKATHON」は6月23日から29日にわたり実施され、132か国から4300人以上の参加がありました。参加者は、JAXA、NASA、ESA等が提供するさまざまな地球観測データを利用して、新型コロナウイルス感染症に起因すると考えられる地球環境や経済活動等の変化の分析を行いました。そして、その中から、新型コロナウイルス感染症がもたらす課題に対して236件の解決策(プロジェクト)が提出があり、7月から8月にかけて行った2段階審査において、第一次審査でファイナリスト32チームを選出、最終審査を経て優勝6チームとJAXA ALOS-2賞、ESA ESRIN賞を選定いたしました。
JAXAは今回のハッカソンへの協力として、「JAXA地球観測衛星データの情報を提供」、「提出されたプロジェクトの審査」などを実施。JAXAの地球観測衛星データを、衛星データを利用する分野の方々だけでなく、普段は同データを利用する機会が少ない分野の方々(例:プログラマー、デザイナー、芸術家、大学生など)も含め、世界に広く知ってもらう機会となりました。これを契機に、JAXA衛星データが、さらなる利用拡大と社会課題の解決に寄与できるように取り組んでまいります。また、JAXAでは、COVID-19による地球環境等の変化を継続して解析し、社会科学等の多様な分野における専門家と今後も協力、連携していきます。
1. バーチャルハッカソン「EO DASHBOARD HACKATHON」の開催実績
- 日時:2021年6月23日~29日
- 参加者:4300人以上(132か国)
- 提出されたプロジェクト数236件
2. 優勝6チーム、JAXA ALOS-2賞、ESA ESRIN賞のプロジェクト概要
賞/チーム名(地域) | プロジェクト概要 |
Open Science Award
(透過性・再現性などオープンサイエンスの重要性を表す賞) ・TRACER(東アジア・太平洋) ・CleverChart(ヨーロッパ) |
TRACER:船舶を追跡し、航路に近い地域のNO2汚染を測定することを目的とした統合衛星データポータルで、TROPOMI NO2データ、米国のAISデータ、天気情報の組み合わせている。
CleverChart:EODashboardの水質マップを使用する際に不必要な操作を除いたCHLA/TSM(クロロフィルa濃度/懸濁物質濃度)の静止画像をアニメーションできるソフトの開発。 |
---|---|
Outreach Award
(本ダッシュボードについて最もクリエイティブな方法でストーリーテリングできた賞) ・Alliance for Action(北アメリカ) |
パイソンとエクセルを利用し、ダッシュボードおよび外部ソースの生データを扱い、アメリカ(LA)の社会的弱者のコミュニティにおけるCOVID-19 の影響を分析する。コミュニティの社会経済的地位とCOVID-19の影響に関する指数間の相関関係を導出。 |
Data Award
(地球観測データを最大限活用し独自のアプリケーションに活用した賞) ・Hackvengers(ヨーロッパ) |
カリフォルニア州のベイエリアを対象に、COVID-19パンデミックやテレワーク環境の人々の移動への影響理解のため、衛星から得られた夜間光データの分析を実施。在宅勤務と都市封鎖の影響で密集した都市部からどのように人が流出したのかを分析。 |
Technology Award
(革新的技術アプローチを開発し、ダッシュボード統合に貢献した賞) ・World MAQI(東アジア・太平洋) |
Googleモビリティ統計とNO2の衛星データを融合した、大気質に関するモビリティの指標(MAQI)を通じたデータの可視化を通じ、COVID-19によるモビリティの低下が大気質の改善につながったという仮説を検証。 |
Impact Award
(地球観測データを用いてパンデミックの影響に関する知識を向上させることができる賞) ・Wings of the West(ヨーロッパ) |
人類の活動が鳥類にどのような影響を与えたか、鳥の個体数データと大気汚染物質の時系列プロット、および汚染物質が個体群密度にどのように影響するかを視覚化。
2019年3月から2021年6月までの米国西部の5つの州(カリフォルニア、アリゾナ、ハワイ、オレゴン、ワシントン)の大気汚染物質の衛星画像を視覚化し、鳥類の個体数の変化と比較。 |
JAXA ALOS-2 Dara Award
(JAXAのALOS-2データを目標達成のため最も効率的に利用できた賞) ・the developers(アフリカと中東) |
COVID-19の影響と経済・社会的要素に関する情報を提供するウェブサイトを構築。コロナウイルス、天候が米の収穫におよぼす影響、アジアの米収穫監視システム(INAHOR)、メコン川などのテーマ別にデータを収集し、コロナ下の啓蒙活動に役立てる。 |
ESA ESRIN Award
(ESAのデータを目標達成のため最も効率的に利用できた賞) ・CleverChart(ヨーロッパ) |
EODashboardの水質マップを使用する際に不必要な操作を除いたCHLA/TSM(クロロフィルa濃度/懸濁物質濃度)の静止画像をアニメーションするソフトを開発し、水質の高低変化の時期やその要因を見ることを容易にした。 |
※優勝6チームの情報:
https://www.eodashboardhackathon.org/awards/外部リンク
※ファイナリスト32チームの情報:https://www.eodashboardhackathon.org/awards/global-finalists/外部リンク
なお、優勝6チームに対する特典として、NASAより宇宙センターへの打上げ見学の招待(旅費は自己負担)、
JAXA ALOS-2データ賞には、ALOS-2データ(限定域)の提供、
ESA ESRIN賞には、ESAの地球観測センターであるESRIN(フラスカティ、ローマ、イタリア)への訪問招待(旅費はESA負担)が提供される予定。
本ハッカソンの最終審査にあたってJAXA審査委員からのコメント
JAXA 落合治(第一宇宙技術部門衛星利用運用センター、技術領域主幹)
今回のハッカソンでは、長期化するCOVID-19により地球上の環境や社会がどう影響を受けているかの分析や可視化に関する取組が多かった印象です。地球の変化を知るために地球観測データへの期待が益々高まっている事を感じました。
JAXA 村上浩(第一宇宙技術部門地球観測研究センター、研究領域主幹)
データや社会の課題に対する世界の皆さんの多様な観点からの解析方法や提案があり、将来への可能性を感じさせてくれる機会になったのではないかと思います。
JAXA 祖父江真一(第一宇宙技術部門ALOS-2プロジェクトマネージャ)
the developersの提案は、JAXAのALOS-2などを用いて作成したメコン流域の稲作作付け情報とCOVID-19の蔓延状況や社会経済状況に関する情報を重ね合わせて、インターネット上で共有することを目指したものです。
社会経済的な視点、あるいは社会実装という視点でJAXAが目指す衛星データから得られる情報を広く世界に発信する機会の提供に対し有用な内容と評価し、JAXA ALOS-2データ賞に選定しました。
※1:EO DASHBOARD HACKATHON: Earth Observing Dashboard Hackathon
JAXAは、COVID-19がもたらす影響を宇宙から把握するためにNASA、ESAと協力して、地球観測衛星データによる地球環境や社会経済活動などの変化を解析しています。この協力における衛星データの共同解析結果を、3機関共同Webサイト「Earth Observing Dashboard」上で2020年6月25日に公開しました。本件は、公開から約1年経過したことを記念して、本Webサイトを活用したハッカソンを3機関共同で開催したものです。ハッカソンとはエンジニアなどがチームを作り、共通の課題に対してアプリケーションやサービス開発し成果を競う開発イベントです。
【参考】JAXA | NASAとESAとの共同開催 新型コロナウイルス感染症にかかる地球観測衛星データを利用したハッカソン『EO DASHBOARD HACKATHON』について
https://www.jaxa.jp/press/2021/05/20210521-1_j.html