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日本電波工業株式会社(NDK)、JAXA
「宇宙用QCMセンサ刷新事業」に関する共創活動を開始
〜QCMセンサを刷新し世界のスタンダードに〜

2024年(令和6年)2月8日

国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
日本電波工業株式会社

 日本電波工業株式会社(代表取締役執行役員社長:加藤 啓美、以下「NDK」)※1、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(理事長: 山川 宏、以下「JAXA」)は、新たな発想の宇宙関連事業の創出を目指す「JAXA宇宙イノベーションパートナーシップ(以下、J-SPARC)」※2の枠組みのもと、2023年11月より「宇宙用QCM(Quartz Crystal Microbalance:水晶振動子式微小天秤)センサ※3刷新事業」に関する共創活動を開始しました。
 NDKとJAXAはすでに真空環境下において宇宙用材料等から放出されるガス(アウトガス※4)を計測するためのアウトガス分析システム「Twin-QCM」を共同で研究開発し、地上用途向けにNDKより販売しておりますが、本共創では「Twin-QCM」の宇宙用フライトモデルを開発し、軌道上実証を目指します。本共創により、海外品がデファクトスタンダードとなっている宇宙用QCMセンサ、およびその市場の刷新を目指すと共に、将来の宇宙探査での利用を見越して従来のアウトガス計測に留まらない新たな用途の開拓を目指します。

【共創活動の背景】

 宇宙空間においては、プラスチックや接着剤等の材料から放出されるアウトガスによるコンタミネーション(汚染)が問題となっています。地球観測衛星や天文観測衛星の望遠鏡レンズ表面等でコンタミネーションが生じると、光学性能や画質を低下させ、寿命が短くなります。このため、材料からのアウトガスの発生を可能な限り抑えられるよう、正確な計測結果に基づく部材選定が重要になります。
 NDKとJAXAが共同開発したTwin-QCMセンサは、1枚の水晶振動子センサ上に参照用電極と計測用電極を設けたTwinセンサ方式のため、従来品の課題であったセンサ間の特性差や温度差のバラつきの問題が解消されます。また、従来品は水晶振動子センサ交換の度に製造メーカーに送付する必要があり、ダウンタイムと高価な費用負担が発生していましたが、本Twin-QCMはユーザー自身で水晶センサの交換が可能であるため、短時間かつ安価に対応できます。
 この地上用Twin-QCMは、すでに国内外の宇宙機器開発ユーザー等への販売実績を多数有しています。本共創により、この精度とユーザビリティに優れた国産QCMセンサの宇宙用フライトモデルを応用開発し、軌道上実証を目指します。また、アウトガス計測だけではなく、宇宙特有の用途である原子状酸素(AO)等の軌道上環境計測技術の確立を目指します。

フライト用Twin-QCMシステム センサモジュールEM(手前)、コントローラEM(右)
(EM(Engineering Model):現在試作評価中の試作モデル) ©NDK
背景にあるのは水晶振動子の材料となる人工水晶

【共創活動の背景】

 NDKは、フライト用Twin-QCMの開発及び顧客開拓を行います。具体的には、ロケットによる打上げ環境、軌道上環境への対応設計、信頼性評価を行います。その他、軌道上での限られた通信環境に対応するため、ストレージ機能の追加実装などを実施します。並行して、宇宙用途としての新たな市場調査、顧客開拓を行います。

 JAXAは、新たな用途の開拓及び開発支援を行います。具体的には、コンタミネーション計測に限らない新たな宇宙用QCMセンサの用途を模索し、計測する技術の確立を目指します。また、軌道上実証のプラットフォームとして有力である国際宇宙ステーション(ISS)に搭載することを想定した安全要求への対応等の支援及び軌道上実証の機会獲得を目的とした実証先プラットフォームの調査・検討を行います。この取り組みにより、将来、探査での利用を見据えた宇宙用QCMセンサの新たな用途を開拓します。

 本共創により、2024年度に開発を完了し、2025年度の軌道上実証を目指します。その成果により、地上用・宇宙用ともに、国産QCMセンサを世界的なスタンダードに押し上げます。

※1 日本電波工業株式会社
 1948年設立以来、人工水晶の育成から水晶デバイス製造・販売を手掛ける企業です。カーエレクトロニククス分野で高いシェアをもつ水晶デバイスを宇宙分野にも展開しております。また、水晶をセンサとしたアウトガス分析システム「Twin-QCM」を2019年より地上用途向けに販売しており、今回の共創活動にて宇宙用フライトモデルへの展開を目指します。
https://www.ndk.com/jp/products/qcm/

※2 JAXA宇宙イノベーションパートナーシップ(J-SPARC)
 J-SPARC(JAXA Space Innovation through Partnership and Co-creation)は、宇宙ビジネスを目指す民間事業者等とJAXAとの対話から始まり、事業化に向けた双方のコミットメントを得て、共同で事業コンセプト検討や出口志向の技術開発・実証等を行い、新しい技術を獲得し、新しい事業を創出する共創型研究開発プログラムです。2018年5月から始動し、これまでに約40のプロジェクト・活動を進め、民間事業者による食、生活用品、教育、VR、エンタメ、アバター、通信、小型衛星コンステ事業の事業始動(商品化・サービスイン)にも貢献しています。事業コンセプト共創では、マーケットリサーチ、事業のコンセプトの検討などの活動を、事業共同実証では、事業化手前の共同フィージビリティスタディ、共同技術開発・実証などの活動を行います。
https://aerospacebiz.jaxa.jp/solution/j-sparc/

※3 QCMセンサ:高精度ガス計測センサ
 真空環境下において宇宙用材料等から放出されるガス(アウトガス)を計測するためのセンサ。水晶振動子の電極に物質が付着するとその質量に比例して周波数が低下する「質量付加効果」によるQCM法を原理とした計測法を用いている。2017年にNDKとJAXAの共同研究により開発し、国内外に販売されている。
プレスリリース「国産高精度ガス計測センサの開発」(平成29年3月10日)
プレスリリース「高精度ガス計測センサ(Twin-QCMセンサ)の海外販売について」(2019年7月12日)

※4 アウトガス
 真空環境下において有機材料等から放出される意図しないガスのこと。凝縮・付着によるコンタミネーション(汚染)源となるため宇宙用材料・機器からの発生は極力少ないことが望ましい。

<日本電波工業株式会社 技術本部 千歳テクニカルセンター 第二課 課長 木村弘樹 コメント>

 これまでのJAXAとの地上用アウトガス分析システム開発、宇宙探査イノベーションハブ 課題解決型を活用した宇宙用エンジニアリングモデル(EM)開発、および欧米各国宇宙機関への提案活動、ヒアリング情報に基づき、国産技術にて世界の宇宙活動、探査、利用、および宇宙ビジネスの拡大に貢献できるものと確信すると同時に、光栄だと感じております。広く活用いただけるよう、性能、機能の拡充、宇宙品質の確保に努めてまいります。

<JAXA 研究開発部門 第一研究ユニット 研究領域主幹 宮崎 英治 コメント>

 10年以上前から、コンタミネーション研究に携わってきました。この分野でのキー技術は計測デバイス、つまりQCMセンサです。宇宙分野で使用するQCMセンサは、長年にわたって、米国製品の独占状態が続いていました。しかし、米国製のセンサには様々な課題があり、それらを克服した新規QCMセンサを開発しなければ、という思いから、NDKと共にTwin-QCMを生み、育ててきました。これからは、Twin-QCMを用いた軌道上での計測実験を早期に実現させるため、努めてまいります。

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