商業デブリ除去実証フェーズI における軌道上のスペースデブリ画像を公開
2024年(令和6年)4月26日
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
宇宙航空研究開発機構(以下、JAXA)は、持続的な宇宙活動の実現のためにスペースデブリ(宇宙ゴミ)除去を新規宇宙事業として拓くことを目的として「商業デブリ除去実証(CRD2)(※1)フェーズI」を進めております。このたびのCRD2フェーズIの実証衛星ADRAS-J(※2)が、非協力的ターゲット(※3)であるスペースデブリへの接近中に撮影した画像を、株式会社アストロスケールが公開しました。
図:ADRAS-J可視光カメラによるCRD2のターゲットスペースデブリの画像
(2009年に温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)を打上げたH-IIAロケット上段,
H-2A R/B, International designator: 2009-002J, Catalog Number: 33500))
この画像はデブリの後方約数百mの距離まで近接し撮影されたものです。CRD2フェーズIは、「世界的にも情報の少ない、軌道上に長期間存在するデブリの運動や損傷・劣化がわかる映像を取得する」ことを目的の一つとしており、この画像は、その最初の成果のうちの一枚となります。
これまでJAXAでは、このターゲットデブリの姿勢運動について、理論的な研究により、重力傾斜トルク(※4)の作用によって、地心方向を中心とした振り子運動か、もしくはその極端なケースとして、地心方向に沿った直立姿勢をしていると推測していました。また、地上からの光学望遠鏡の観測データからは、直立姿勢の可能性が高いとの推測を得ていました。今回撮影された画像により、これらの推測が裏付けられ、実際に地心方向に沿った直立姿勢であることを直接確認しました。姿勢運動状態やその力学的状況の把握は、今後のCRD2フェーズIIで捕獲を行うにあたり重要な知見です。
また、JAXAでは、ロケットの表面に使われている断熱材について、筑波宇宙センターの紫外線照射設備を用いて加速試験的にサンプルの長期照射試験を行い、打上げ直後はオレンジ色の断熱材が、10年以上の期間を経て軌道上の強い紫外線により濃い茶色に変色し、光の反射特性もそれに応じて変化していると推測していました。今回撮影された画像により、濃い茶色への変色を確認し、この推測の妥当性についても確認しました。このような表面材料の劣化状況は、ランデブや近傍運用を行うための搭載光学センサの測定可能距離等に影響するため、姿勢運動と同様に、CRD2フェーズIIを行うにあたり重要な知見です。
株式会社アストロスケールはADRAS-Jの運用を続け、今後、より近い距離での定点観測・周回観測が実施される見込みです。JAXAはこれまで、軌道上ランデブにかかる知見を中心に非常に多くの技術アドバイス・試験設備供用・研究成果知財提供を行い、ADRAS-Jの開発・運用を支援してきました。今後も、ADRAS-Jの運用を技術的に支援するとともに、CRD2フェーズIで得られた画像の詳細な分析を進める予定です。
※1 : 商業デブリ除去実証(CRD2)
商業デブリ除去実証は、深刻化するデブリ問題を改善するデブリ除去技術の獲得と、日本企業の商業的活躍の後押しの二つを目的とする JAXAの新しい取り組みです。株式会社アストロスケールは、商業デブリ除去実証フェーズIの契約相手方として選定されました。本事業において、JAXAは技術アドバイス・試験設備供用・研究成果知財提供を行い、選定企業を技術的に支援しています。
商業デブリ除去実証ウェブサイト:https://www.kenkai.jaxa.jp/crd2/project
※2 : ADRAS-J
株式会社アストロスケールが開発・所有・運用する、CRD2フェーズIの実証衛星。
※3: 非協力的ターゲット
他の宇宙機による接近や捕獲を支援するための機能(姿勢制御機能、通信機能等)や装置(GPS受信機、レーザー反射器、画像処理マーカ、ドッキングメカニズム等)を具備していないターゲット物体のこと。これらを具備した物体(例:国際宇宙ステーション)と比較して接近や捕獲の技術的難易度が高い。
※4: 重力傾斜トルク
軌道上の物体に働く外力トルクの一つ。物体を構成する各質点と中心質量天体の距離が僅かに異なることによる重力の差によって発生し、長細い物体を地心方向に向けるようなトルクとして作用する。