
20世紀半ば以降、電波や赤外線、X線など、人間の目で捉えることのできる波長の光(可視光)以外の波長で、宇宙を見ることができるようになり、それまで星が見えず何もないと思われていた宇宙で、様々な現象が起きていることが分かってきました。
X線は主に数百万度から数億度という非常に温度の高い領域から出ている波長の光です。こうした領域では、超新星爆発、ブラックホール、活動銀河核、銀河間の高温のプラズマといった現象が星の生成や、銀河団や宇宙の大規模構造といった宇宙の構造や進化に大きな影響を与えています。このような領域は決して珍しいものではなく、逆に私たちが見ることのできる周期表にのっているような通常物質(バリオン)の90%以上がX線でなければ観測できないともいわれています。
しかしX線は大気に遮られ、地上にはほとんど届きません。日本は「X線天文学」の黎明期から「はくちょう」(CORSA-b)、「てんま」(ASTRO-B)、「ぎんが」(ASTRO-C)、「あすか」(ASTRO-D)、そして現在も活躍している「すざく」(ASTRO-EII)を打ち上げ、この分野で世界をリードしてきました。「ASTRO-H」はこれらに続くわが国6番目のX線天文衛星です。
ASTRO-Hは、数々の革新的な技術に支えられ、X線からガンマ線におよぶ非常に広い波長域において、かつてないほどの高い感度での観測を行います。軟X線分光検出器(SXS)には、50mKという極低温で動作する素子を使い、X線光子のエネルギーを熱に変えることで従来の10倍以上の精度でその値を測定します。硬X線望遠鏡(HXT)は、焦点面におかれた硬X線撮像検出器(HXI)と組み合わせることで、世界で初めて硬X線の集光撮像観測を実現します。軟X線撮像検出器(SXI)は日本で開発された大面積CCDを用い、広視野での高感度観測を行います。軟ガンマ線検出器(SGD)は、「狭視野半導体コンプトンカメラ」という名前の、この帯域での観測手法を一変させる技術で作られ、世界最高感度の軟ガンマ線観測を目指します。
こうした新技術への挑戦によって、ASTRO-Hは80億光年先までもの遠方(過去)を、これまでのX線天文衛星を遥かに凌駕する能力で観測します。そして、銀河団の中に渦巻く、X線でしか観測できない数千万度の高温ガスの激しい動きの直接測定や、今までは感度が足りなくて観測できなかった生まれたての銀河の中心にある巨大ブラックホールなどの観測を行い、宇宙がどのように進化して、今ある宇宙になったのかの謎に迫るのです。