理事長定例記者会見
奥村理事長の定例記者会見のトピックスをお伝えします
日時:平成28年9月8日(木) 11:00-11:30
場所:JAXA東京事務所 B1F プレゼンテーションルーム
司会:広報部長 庄司 義和
平成29年度概算要求について
平成29年度概算要求について、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)は文部科学省から1,731億円の要求をさせていただきました。特に、今回大きな増額項目としましては、H3ロケットが本格的な開発フェーズ、実験等を行うフェーズに入りますので、今年度135億円でしたが、ほぼ倍増の258億円を要求させていただきました。新しい項目としましては、ASTRO-Hを失ったことも関連した、X線天文衛星代替機として39億円をお願いしています。また、調査検討ではありますが、次期マイクロ波放射計の相乗り搭載性の基本的な検討を行うということで0.5億円ほどを要求しています。今後国会審議に付託されますが、我々としては実施機関として、予算の意義を充分租借した上で、効果的、効率的に使わせていただくように、進めたいと思っております。
大西宇宙飛行士の国際宇宙ステーション(ISS)滞在
ISSに搭乗している大西宇宙飛行士ですが、早いもので彼がISSに搭乗して2ヶ月が経ちました。日々の仕事の様子はGoogle+で詳細に報告しております。私も拝見していますが、活き活きとした生の状況が分かると思います。現在までに、医学データの取得や、小動物を使った研究ミッションの環境整備を行っています。今回実施した小動物長期飼育ミッションでは、世界で初めて、軌道上においてマウスに人工的に1Gを負荷し、もう一つは0Gにすることにより、同じ環境のもとで重力差だけをコントロールして35日間飼育することに成功しました。無事に生きて帰ってきていると聞いております。現在研究者に引き渡されているようですので、今後の成果を大いに期待しています。一つの新しい実験の手法が、ISSで実施されたと私は評価しています。大西飛行士は今後更に、タンパク質の結晶育成、あるいはISS全体のメンテナンスなどの作業に携わる予定になっています。また、9月20日(火)には、「"天空"未来プロジェクト」で、ISSと東京・札幌・福岡を3会場を結んで交信イベントを行う予定です。非常に元気で活躍しているので、私も大変誇りに思っております。
「こうのとり」6号機(HTV6)の打ち上げ延期について
「こうのとり」6号機(HTV6)について、当初10月1日の打ち上げを予定していましたが、気密性試験において漏洩個所が見つかり、その修理のために打ち上げが延期されました。現在、漏洩個所の特定、原因究明を終え、またその処置も完了しております。この9月末までに改めて再組み立てを行って、試験を行うと聞いています。今後も慎重な作業を進めて、万全を期して打ち上げに臨みたいと考えております。打ち上げ時期については、年内の打ち上げを目標に作業をしようとしておりますが、関係各署と調整をしております。決定次第、お知らせいたします。
打ち上げ前のイプシロンロケット及びジオスペース探査衛星(ERG)の特別点検
X線天文衛星(ASTRO-H)の事故が起こった後に、私共で総点検、あるいは特別点検を行うということを皆様にはお伝えしておりましたが、直近で軌道上に行く予定のあるジオスペース探査衛星(ERG)、およびそれを運ぶイプシロンロケット、この2つについては、射点に運ぶ前に総点検を行い、その結果を取りまとめる作業を進めております。2件についての特別チームを作り、ERG衛星については、第一宇宙技術部門でプロマネを経験した人物をリーダとするチームを構成し、ERG衛星の総点検を行っています。イプシロンロケットにつきましても、筑波に本拠地を置く人物をチームリーダにして、点検を行っています。先日両チームから報告があり、射点に移動する上で障害になる事象は見つかっていないとの報告を受けております。しかしながら、ASTRO-Hの件で改善事項を4つ提示しておりますが、例えば記録文書の整理など、そういったことについてはまだまだ準備不足というところもあり、改善指示を出しております。そういった結果を受けて、イプシロンロケットとERGは最終的な開発完了審査会を9月中に予定しており、最終決定を行う段取りにしております。打ち上げ日については、関係各署と調整し、年度内には打ち上がるように調整を進めたいと思っております。
アフリカ開発会議(TICAD)で熱帯林早期警戒システム(JJ-FAST)を紹介
先般、アフリカでアフリカ開発会議(TICAD)が開かれました。その際に、私共は国際協力機構(JICA)と共同で進めております「熱帯林早期警戒システム(JJ-FAST)」 を、TICADのサイドイベントで発表させていただきました。陸域観測技術衛星2号「だいち2号」(ALOS-2)を使っておりますので、昼夜問わずかつ、天候に拘らず森林の伐採状況を把握することができます。比較的短期、1.5か月で情報の更新もできます。また現地の方は大げさな受信設備が無くても、携帯電話等、モバイル端末でその情報を見ることができます。今回紹介した中で、コンゴ民主共和国の森林インベントリー・整備局長からは、「JJ-FASTを活用し、同国が抱える熱帯雨林減少に関する課題に対応していく」旨表明がなされました。JICAとJAXAで開発したこの仕組みは、コンゴに限らず、アフリカの他の国々、また同じ赤道直下にある南米にも広げるということで、2017年度末までにアジアを含めて50か国ぐらいに配信システムを作っていく計画です。ALOS-2が新興国の資産、あるいは地球上にとって重要な熱帯林の保護に役に立つということであれば、大変大きなな意義だろうと考えております。JICAのご尽力に大変感謝しております。
国際宇宙ステーション(ISS)日本実験棟「きぼう」からの超小型衛星放出
ケニアの大学が開発した超小型衛星を、国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」から放出することになりました。これは、国連とJAXAが共同で進めている事業で、発展途上国等の宇宙関連技術向上への貢献等を目指した「きぼう」からの超小型衛星放出の利用機会を提供しておりますが、今回はケニアのナイロビ大学の超小型衛星が選定されました。因みに、ケニアでは初めての人工衛星とのことです。順調にいけば、放出は29年度の予定です。
宇宙ベンチャーとの連携
「HAKUTO」を運営している株式会社ispaceと共同研究契約を締結することになりました。宇宙放射線計測用超小型リアルタイム線量計を「HAKUTO」に搭載していただき、月面での放射線の測定データを地球へダウンリンクすることを計画しております。将来、月に人類がどういう形で行くかはいろいろと議論されておりますが、月面の宇宙放射線の実測データは少ないので、こういったことで実測データを取得できるということであれば、我々にとっても大きなメリットがあります。線量計という切り口で申し上げますと、米国航空宇宙局(NASA)のSLS初号機に相乗りミッションで参加する我々の「OMOTENASHI」にも線量計を載せて月に行きます。2つのルートで、JAXAの開発している機器を月で使う機会がありそうです。
山口県及び国立大学法人山口大学との協定締結について
この度JAXAは、山口県及び国立大学法人山口大学と、防災分野等における衛星リモートセンシング技術の利用を推進することを目的とした協定を締結し、人工衛星による衛星データの応用研究並びにその利用促進に関して相互に協力して取り組むことで合意しました。この協力は、災害対応時の衛星データの現場への迅速かつ効率的な情報共有に資するものとして期待がもたれており、私共もそういう方向性を求めておりました。現実に一部の都道府県では実施しています。
締結式は9月14日に山口県庁で行われる予定で、私も現地で署名します。