理事長定例記者会見
奥村理事長の定例記者会見のトピックスをお伝えします
日時:平成29年12月8日(金) 13:30-14:15
場所:JAXA東京事務所 B1F プレゼンテーションルーム
司会:広報部長 庄司 義和
金井宇宙飛行士の国際宇宙ステーションへの搭乗について
最初の案件は、金井宇宙飛行士についてです。12月6日(米国中部時間)にFRR(Flight Readiness Review)という多極間の打上げ前の最終審査会が行われました。無事に審査が終了し、ソユーズ宇宙船(53S/MS-07)の打上げが正式に12月17日と決まりました。金井宇宙飛行士はこれまでモスクワ郊外「星の街」のガガーリン宇宙飛行士訓練センターで訓練してきましたが、打上げ日の決定を受け、今週からバイコヌールへ移ります。ソユーズ搭乗に向けた最終確認やロシアセグメントの作業手順の確認、最終的なメディカルチェックを行います。
ISS到着後に計画している仕事としては、12月下旬頃になる可能性が高いのですが、まず日本の科学実験を手掛けます。アルツハイマー病の原因といわれている「アミロイド」の繊維状のたんぱく質の結晶成長実験で、このたんぱく質のメカニズムの解明につながるのではないかと期待されている、非常に重要な基礎実験です。
医師である金井宇宙飛行士のバックグラウンドにも関係しますが、このテーマを提案した研究者のもとへ搭乗前に訪ね、研究提案の背景や実験計画のレクチャーを受けるなど、大変意欲的に準備を進めております。今後の彼の活躍に、おおいに期待しています。
基幹ロケット等の打上げについて
続いて、これから年末年始にかけて実施するロケットの打上げについて、まとめてお話しします。
まず、12月23日に、種子島宇宙センターからH-IIAロケット37号機により気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C)と超低高度衛星技術試験機「つばめ」(SLATS)を打ち上げる予定です。
その後、12月28日にはSS-520の5号機打上げ実証実験を内之浦宇宙空間観測所にて実施する予定です。さらに、来月1月17日には、イプシロンロケット3号機による高性能小型レーダ衛星(ASNARO-2)の打上げを、同じく内之浦宇宙空間観測所から行う予定です。この1カ月の間に3つのロケット打ち上げがあり、大変あわただしいスケジュールですが、この業務を遺漏なく達成できるように、現在準備を進めているところです。
アジア・太平洋地域宇宙機関会議(APRSAF)の結果について
11月の定例記者会見でご案内したアジア・太平洋地域宇宙機関会議(APRSAF)が、11月14日から17日までインドのベンガルールで開催されました。今回から、各国宇宙機関の宇宙政策担当者に出席いただくセッションも設けて、局長クラスの方に多数ご出席いただきました。もうひとつ新しい仕組みとしては、我々宇宙機関長クラスが9か国集まり、この地域の各機関長の考え方をまとめたジョイントステートメントを発出しました。この地域の宇宙機関長の考えを域外の方々に明確に伝えるという効果を狙ったものです。
これまでAPRSAFは各宇宙機関の人たちが参加するものの、どちらかというと情報交換の場でありました。さらなる新しい試みとして、超小型衛星の共同開発について議題にのぼり、具体的に検討していくことについて各国が合意しました。
APRSAFも歴史を積み重ねてきておりますが、少しずつ中身を変えております。今会期の中で印象に残ったことをいくつか紹介します。
今回のAPRSAFはインドとの共催でしたが、そのインドでは、国内での衛星利用、特に社会課題解決に向けた利用が極めて積極的に行われていました。会合の場で伺った話では、インドではナレンドラ・ダモダルダス・モディ(Narendra Damodardas Modi)首相の指示のもとに、この3年間に58の省庁で160件の衛星利用プロジェクトが展開されているとのこと。その具体的な事業事例もご紹介いただきました。インド国内では宇宙機関や行政機関がよく連携し、情報展開がなされているということも強く感じました。同時に、このような連携の成果を、インドは周辺諸国にもよく展開しており、かつ周辺諸国とも協調して宇宙利用を社会課題解決のインフラとして進めていることが、私にとって大変印象に残りました。JAXAも同様の方向性でこれまで衛星利用の検討を進めてまいりました。そうした意味で、今回のインドでの衛星利用に関する考え方に共感したところです。
更にこの機会を活用し、ベトナム国家宇宙センター(VNSC)との間でベトナムの宇宙展示館の運営に関する協力協定を、また、インドネシア宇宙航空研究所(LAPAN)との間でALOS-2の衛星データ利用に関する協定を締結しました。シンガポール宇宙技術協会(SSTA)との間では、「きぼう」からの超小型衛星の放出に関する有償契約を締結しました。
インド宇宙機関(ISRO)との月極域探査の検討に関する実施取り決めの締結について
APRSAFの機会を捉え、インド宇宙機関(ISRO)と月極域探査の検討に関する取り決めを締結しました。
インドとの宇宙協力につきましては、昨年11月に、モディ首相と安倍総理にご臨席いただいて、首相官邸にてJAXAとISROとの間での宇宙分野の協力促進に関する協力協定を結んだところです。この協定をベースに、宇宙利用、宇宙探査、宇宙科学という個別の内容について検討を重ねてまいりました。月極域探査の検討についても、これらの検討の一環として行われてきたものです。
ご存じのとおり、ISROは月探査について先駆け的な検討を行っており、月周回ミッションChandrayaan-1号や来年着陸を目指すChandrayaan-2号などを積極的に進めています。一方JAXAは、月周回衛星「かぐや」による月表面の詳細観測データを有し、最近では月に巨大な洞窟が存在することを発表するなど、月に関する極めて新しい知見を持っております。
月の知見を持つISROとJAXAが、月極域の水の存在有無や量について具体的に検討を進めることで将来の月探査にきわめて重要な役割を果たすのではないかと意見が一致し、今回の取り決めにいたっております。今後さらに詳細に検討を行い、2020年代前半頃には、この月極域探査ミッションを実現させたいと考えています。
なお、本日と明日、月極域探査に関するワークショップを東京駅至近の東京コンベンションホールにて開催しております。ご関心があれば、是非そちらにご出席していただければと思います。
温室効果ガス及び関連リモートセンシングミッションに係る協力協定の締結
COP21でパリ協定で結ばれてから2年目を迎える今年、フランス政府の主催により「One Planet Summit」という政府間会合が開催されます。世界共通の課題である地球温暖化問題に関して政府間で検討がなされると聞いています。
この機会に、フランス国立宇宙研究センター(CNES)のルガル総裁の音頭により宇宙機関長会議が設定され、私も参加する予定です。地球温暖化防止に向けた協力や具体的な対策について、宇宙機関長間で意見交換をする予定です。One Planet Summitの開催は、来週12月12日です。
また、同日パリで、JAXAと国立環境研究所が、ドイツ航空宇宙センター(DLR)、欧州宇宙機関(ESA)、CNESの3つの機関とそれぞれ個別に協定を締結する予定です。これらの協定の狙いは、各機関の衛星データの相互比較です。各国の衛星による観測値の相違は、衛星データの信頼性にかかわります。相互比較、あるいはデータ校正のあり方についての検証が必要な所以です。各国の衛星による温室効果ガス観測値が、インベントリデータから算出されるガス量と合致し、衛星データによって温室効果ガスの管理ができることを目指しております。
ジオスペース探査衛星「あらせ」(ERG)の科学成果について
昨年12月20日にジオスペース探査機「あらせ(ERG)」を打ち上げ、今年3月から定常運用に入っております。「あらせ」はたいへん厳しい放射線環境を飛行していますが、現在正常に機能しています。
「あらせ」は現在、近地点高度 約400km、遠地点高度 約32,000kmの非常に大きな楕円軌道で放射線帯の中をくぐり抜けるように飛行し、高エネルギー電子の観測を続けています。ヴァン・アレン放射線帯の高エネルギー電子の生成・消失は非常に基本的な科学課題であり、「あらせ」の観測結果はこれらの解明につながるのではと期待されています。本年3月末の観測運用開始以来、科学的観測結果データを蓄積してきましたが、来週12月11~15日に開催される米国地球物理連合の講演会でその成果を初めて発表します。さらに、これまでの「あらせ」の観測結果を取りまとめ、国際的な学術雑誌「Geophysical Research Letters(GRL)」に特集号が組まれる予定です。かなりの研究成果が期待できるのではないかと、私も楽しみにしています。
これらの科学成果に加え、「あらせ」の24時間連続観測データ、ほぼリアルタイムでの高エネルギー電子や磁場計測結果は、速報データとして関係機関に広く配信され、国内ではNICTにて「宇宙天気予報」の精度向上にむけた研究に利用されています。「あらせ」のデータにより情報量が格段に多くなり、より実利用ができる宇宙天気予報が実現しつつあります。このような実利用の成果についても、いずれまとめてお話しさせていただきたいと思います。