理事長定例記者会見
山川理事長の定例記者会見のトピックスをお伝えします
日時:平成30年7月13日(金) 13:30-14:30
場所:JAXA東京事務所 B1F プレゼンテーションルーム
司会:広報部長 庄司 義和
新たな組織の設置について
7月1日付けで、新しい組織を2つ設置しましたので、紹介します。
ひとつめは、国際宇宙探査の推進にあたり、All-JAXAの技術と英知を結集し本格的に進めていくための組織として設置した「国際宇宙探査センター」です。今年1月、月探査プログラム準備室を設置し、国際宇宙探査計画への参画に向けた準備を進めてきました。3月に東京で開催された閣僚級会合「第2回国際宇宙探査フォーラム(ISEF2)」での国際的な協調による宇宙探査の推進についての議論や、第4期中長期目標期間に宇宙探査活動がJAXA事業のひとつとして位置づけられたことを踏まえ、今般、組織の再編を行ったものです。
探査センターは、将来宇宙探査における国際的な日本のプレゼンスを最大限に発揮する役割を担います。国際宇宙探査のロードマップに合わせて、月・火星(火星衛星を含む)の探査を対象としています。このセンターは、探査計画の総合調整及び推進機能を担うほか、国際宇宙探査に関するシステムの研究開発及び火星衛星探査機(MMX)プリプロジェクトを推進します。東京事務所、筑波、相模原にその拠点を置きまして、個別の要素研究は、各部門と連携して行ってまいります。先週開催された宇宙開発戦略本部での総理指示を踏まえ、技術力、人材力をいかし、世界をリードし問題解決に取り組む所存です。オールジャパンの力を糾合し、日本の宇宙探査政策の実現、産業の発展に貢献していきたいと考えております。
2つめの新しい組織は、「X線分光撮像衛星(XRISM:X-Ray Imaging and Spectroscopy Mission)」、これはクリズムと読みますが、そのプロジェクトチームの設置です。X線天文衛星ASTRO-Hの代替機となるものですが、これまでプロジェクト準備チームで準備活動を実施してきました。先月開催されたX線天文衛星代替機のプロジェクト移行審査において、その実施体制、資金・人員計画、開発スケジュール、プロジェクトのリスク識別・対処方策の妥当性などとともに、ASTRO-Hの運用異常の再発防止の徹底について必要な対応がなされていることを確認しました。その結果として、正式なプロジェクトチームを7月1日付けで設置しました。
宇宙物理学におけるX線観測の重要性からASTRO-Hミッションの早期回復の希望をいただき、NASA、ESA、大学等の協力を得て確実にミッションを遂行する体制を構築しております。
UNISPACE+50について
6月18日の週、ウィーンで開催されたUNISPACE+50に参加してまいりました。
UNISPACEは、国際連合の常設委員会である宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)が、宇宙の平和利用を旨とする宇宙条約の発効に当たり、今後の宇宙利用のあり方について議論するために開催した会合です。今年は第1回会合から50周年にあたることから記念会合「UNISPACE+50」が開催され、宇宙の平和利用のための国際協力について議論がなされました。
その中のひとつのセッションであるハイレベル・セグメント会合において、3月のISEF2の成果や、宇宙機関とのリモートセンシングに係る協力、KiboCUBEをはじめとした能力開発の取り組みなど、日本の宇宙活動と国際協力を紹介するステートメントを日本代表として発信したほか、欧州を中心とした各国宇宙機関長と会談を行いました。このハイレベル・セグメントには、COPUOS加盟87か国だけでなく全国連加盟国をはじめ、宇宙に関係する国際機関や非政府主体から、閣僚級(14名)、宇宙機関の長(10名)を含む、70を超える国・機関等が参加しました。また会期中には、国連宇宙部とJAXAの協力枠組みである「KiboCUBE」プロジェクトについて、多数の応募の中から第3回選定国をモーリシャスに決定したことを公表したほか、国連宇宙部との間で、同プロジェクトの2021年3月までの延長に係るMOUを締結しました。大きな成果と考えております。
私は就任から3か月が経過しまして、4月にはアメリカ、5月にはロシア、6月にはヨーロッパと、国際会議への出席や各国宇宙機関との会談を行ってきました。NASAのブライデンスタイン長官、ロシアROSCOSMOSのロゴジン総裁など、新たに就任された重要パートナーのトップとも会談を持つことができ、我々の就任期間中に、さらに関係を強化していくという方針で一致しました。
第4期中長期計画には「主要な海外宇宙機関との継続的な戦略対話を通じて、トップマネジメント層間で関心を共有し、互恵的な関係での研究開発を推進することで、今後の国際宇宙探査や気候変動対策に係る取組等の事業の効率的かつ効果的な実施に貢献する」とあります。今年度第1四半期中に、現在各国と進めている共同プロジェクトの進捗を確認するとともに、宇宙探査をはじめとした将来の共同ミッションにむけての関心を共有するなど、一定の成果を収めることができたと考えています。
はやぶさ2の現状について
小惑星探査機はやぶさ2は、日本時間の6月27日午前9時35分、目的の天体である小惑星リュウグウに到着しました。前回の定例記者会見時点ではまだ点でしか観測できていませんでしたが、リュウグウはコマ型(top-shape)と呼ばれる形状をしており、表面には大小のクレータや多数の岩塊が確認されています。
はやぶさ2の状態は健全でありまして、7月6日には、「はやぶさ2」に搭載したドイツとフランスによる着陸機MASCOT(マスコット)からの信号を、ドイツ・ケルンにあるDLR(ドイツ航空宇宙センター)のMASCOT管制センターで受信確認しました。
はやぶさ2は、小惑星から約20km離れたホームポジションで搭載観測機器の機能確認を行い、各リモートセンシング機器により小惑星リュウグウ全面の様子の観測を行っております。そもそも運用は常に気を抜けないものではありますが、人類にとって未知の天体でのホバリング運用を開始したところであり、着陸地点選定のためには、多くの観測が必要で、予定されたように進めて行く必要があるため、現在も緊張を持った運用が続いています。
観測結果を元にリュウグウの形状模型の作成や様々な表面特性を調べているところであり、探査機および小型着陸機の着陸地点の選定を行います。8月末には、それぞれの着陸候補地点セットを複数選び、9月には最終的な着陸地点を決定します。今後、一時的に高度を下げる運用を行いまして、高度約5kmからの中高度観測などを実施する予定です。
7月19日には現在の運用と初期観測の状況を皆さまにご報告する説明会を実施致しますので、是非ご参集ください。
超低高度衛星技術試験機「つばめ(SLATS)」による地球低軌道環境における長期にわたる原子状酸素計測について
昨年12月に打ち上げた超低高度衛星技術試験機「つばめ(SLATS)」に搭載した原子状酸素モニタシステム(Atomic oxygen Monitor:AMO)の観測状況についてお話しします。「つばめ」に搭載した原子状酸素モニタシステム(AMO)では、世界で初めて、軌道上テレメトリデータからの半リアルタイム計測により、超低高度域での長期間にわたる原子状酸素の観測を行っています。
そもそもなぜ原子状酸素を観測しているかということを、ご説明したいと思います。低軌道環境では、太陽からの紫外線により解離した大気由来の「原子状酸素 (AO)」が多く存在し、宇宙機を構成する材料と高速衝突することによって、多層断熱材(MLI)に使われている有機材料やあるいは衛星に使われる熱制御フィルム等の劣化を引き起こします。原子状酸素の影響把握と対策は、今後の超低高度域の利用に欠かせないものです。
「つばめ」は現在、超低高度(300km以下)に向けて徐々に高度を降下させているところですが、いわゆる超低高度域よりもAO密度が相対的に少ない高度約450-550kmの飛行軌道においても計測することができ、測定感度が十分であることが検証できました。
また、データの解析も進めており、今後の超低高度域の活用につながる貴重な成果が得られることを期待しています。取得データと、超低高度衛星の設計時に使用する「AO予測モデル」との比較検証を継続的に実施しており、今後の超低高度衛星に使う材料の選定や設計基準の見直し、軌道上でのナノグラム単位計測技術の獲得に生かしてまいります。
今後、超低高度域に入ってからが観測本番となります。引き続き観測を継続してまいります。
金井飛行士の活動近況について
先月帰還した金井宇宙飛行士は順調にリハビリを進めており、リハビリプログラムを筑波宇宙センターで公開し、元気な姿を見せました。現在はNASAジョンソン宇宙センターにてリハビリを実施するとともに、ISS長期滞在ミッションを地上の担当者と振り返り、将来のミッションに向けた提言などをまとめています。
今月後半には、国際宇宙ステーション(ISS)第54次/第55次長期滞在クルーとして、ISSに168日間の宇宙滞在のミッション報告のため、金井飛行士が一時帰国を行います。すでにホームページ等でご案内をしておりますが、昭和女子大学 人見記念講堂にて、7月26日(木)の午後、ミッション帰国報告会を開催します。報告会は昼の部と夜の部の2部構成で、ミッション期間中、地上から支援をつづけた地上管制や実験チームメンバーとともに、視聴者の疑問に答えながら、わかりやすく説明いたします。また、夜の部の最後のトークセッションでは、「これからの有人宇宙活動」をテーマに、地球低軌道の利用や月探査など、これからの有人宇宙活動について、金井飛行士の宇宙に滞在した視点を生かして、その可能性も話し合います。
30日には、東京事務所で記者会見を予定しております。また、個別取材機会のご提供も予定しております。詳細は、本日お知らせにてご案内しますので、是非ともご参集いただければと思います。
打上げ予定の衛星等の機体公開について
今年度打上げ予定の基幹ロケットとしては、種子島宇宙センターから残り2機、内之浦宇宙空間観測所から1機の打上げを予定しております。
種子島宇宙センターからの打上げにつきまして、宇宙ステーション補給機「こうのとり」7号機(HTV7)を搭載したH-IIBロケット7号機の打上げ予定が平成30年9月11日(火)に確定しましたので、プレスリリースにて、皆様にお知らせいたしました。打ち上げ時刻などの詳細については、そのプレスリリースをご参照ください。
HTV7号機には、NASAやESAの実験用大型ラックや小型回収カプセルなどのほか、ISSに搭乗する宇宙飛行士の生活に欠かせない生活用品や、8月上旬に搭載品目が決まる予定の日本の生鮮食品などを含め、過去最重量となる約6.2トンを搭載する予定です。
HTV7号機に搭載する小型回収カプセルは、日本としては初めてとなるISSからのサンプル回収技術の獲得のための技術実証試験となり、揚力により小型回収カプセルの加速度、結果的には回収するサンプルにかかる加速度を抑えながら目標範囲に誘導する「揚力誘導制御技術」を実証も目的としています。揚力とは、機体方向に垂直にかかる空気力のことです。
この「揚力誘導制御技術」、さらには世界水準の国産低密度アブレータを使用して大気圏再突入時の高温環境から機体を防護する「軽量熱防護技術」の技術実証とともに、我が国独自のISSからのサンプル回収手段の獲得も目指しております。
これらの搭載を完了したHTV7の機体を、報道関係の皆様に、平成30年7月28日(土)に、種子島宇宙センターにて公開いたします。「こうのとり」7号機を地上でご覧いただけるのは、今回が最後の機会となります。
また、次に打ち上げを予定している、H-IIAロケット40号機に搭載する温室効果ガス観測技術衛星2号「いぶき」(GOSAT-2)について、プレスの皆様向け説明会を、7月下旬に東京事務所にて開催予定であります。また、機体公開については、筑波宇宙センターにて8月上旬に、種子島宇宙センターにて8月下旬に予定しております。
詳細は改めてご案内します。ぜひご参加ください。