平成30年11月理事長定例記者会見

理事長定例記者会見

山川理事長の定例記者会見のトピックスをお伝えします

日時:平成30年11月21日(水) 13:30-14:15

場所:JAXA東京事務所 B1F プレゼンテーションルーム

司会:広報部長 鈴木 明子

第25回アジア・太平洋地域宇宙機関会議(ARPSAF-25)の開催結果について

 11月6~9日に、第25回アジア・太平洋地域宇宙機関会議(ARPSAF-25)を、文部科学省およびシンガポール宇宙技術協会(SSTA)とともにシンガポールで開催し、私は今回初めて参加しました。
 今年は、29か国・地域における宇宙機関、関係省庁を始めとして、大学・研究機関、開発支援機関、スタートアップなどさまざまな機関から385名の参加がありました。アジア・太平洋地域の宇宙機関からは、機関長クラスが9名(うち5名は副機関長レベル)が参加しました。そのうちの3名、オーストラリア、カザフスタン、UAEからは初参加でした。
 全体テーマ「進化するニーズに応える革新的な宇宙技術」(Innovative Space Technology for Evolving Needs)のもとに、4つの分科会に始まる4日間の全体会合の結果をまとめ、社会実装に向けたユーザー機関等との連携強化や、「みちびき」のサービス開始による今後の有効活用への期待、地域の宇宙技術力向上への取組、「きぼう」などを活用した次世代人材育成活動を確認した共同ステートメントを発表しました。
 宇宙機関長セッションでは印象的だったのは、災害、気候変動等の社会課題解決のために宇宙技術・衛星データの利用をさらに進めていくために、政府のみならず多様な民間企業との連携や分担が不可欠であるという意見が多かったことです。
 宇宙政策セッションでは、宇宙産業の促進に向け、各国の宇宙活動のステータスに応じて、どのような政策を実施しているか、あるいは政策実施における課題について意見交換を行いました。日本からは経済産業省からS-Booster in AsiaやTellus等のビジネスマッチングやイノベーション支援プログラムが紹介されました。
 また、今年3月に日本で開催した第2回国際宇宙探査フォーラム(ISEF2)を受け、この地域でも国際宇宙探査への機運が高まったことは嬉しいことでした。アジア・太平洋地域の宇宙新興国における宇宙探査参画への関心を高めるためこの地域の宇宙機関、企業、大学が参加してパネルディスカッションを行い、この地域から宇宙探査に参画する国が増えるだろうという期待感を持ちました。
 共同ステートメントでも共有されておりますが、地域の宇宙技術能力の向上を目的として議論を進めてまいりました革新的小型衛星の共同開発に関して、今後は正式に参加機関を募って、共同開発を実現するための枠組み構築に向けた議論を促進することとなりました。3年程度の共同開発期間を経て実現する目標を掲げています。
 全体会合におきましては今後の要望として、スタートアップなどの産業界が参加した議論の場や、宇宙科学をテーマとした議論の場を設けることがあげられました。これらの意見を踏まえ、私のほうから、APRSAFというアジア太平洋地域というリージョナルな場で議論された地域の声が、例えば国連宇宙空間平和利用委員会のようなグローバルに展開されていく場を持つべきであるとの提案をいたしました。
 前回のインド、今回のシンガポールにおけるAPRSAFの議論を、来年11月後半~12月前半頃に予定しております日本での開催につなげてまいりたいと考えております。

地球観測ミッションにおける国際貢献について

(1)地球観測に関する政府間会合(Group on Earth Observations: GEO)について

 10月31日から11月1日にかけて、第15回地球観測に関する政府間会合本会合が文部科学省の主催により京都にて開催されました。地球観測に関する政府間会合(Group on Earth Observations: GEO)は、衛星、海洋及び地上観測を統合した複数の観測システムからなる全球地球観測システム(GEOSS: Global Earth Observation System of Systems)を推進するための国際的な枠組として、2005年に設立されたもので、本会合は、年に1度開催されます。60か国34機関から約500名の政府関係者や研究者等が参加し、JAXA等15機関(気象庁、国立環境研究所、JAMSTEC、JICA、防災科学技術研究所、森林総研、極地研等が含まれております)、その他地球観測に関係する企業が参加しました。今回の本会合では、GEOが優先連携3分野として掲げる(1)持続可能な開発のための2030アジェンダ(SDGs)(2)パリ協定(3)仙台防災枠組2015-2030等の国際的な取組に焦点をあて、地球観測データの更なる活用等について、産学官の多様なステークホルダーの視点を交えて議論を行いました。
 JAXAからは、油井亀美也JAXA宇宙飛行士が2015年に国際宇宙ステーションに滞在中に見た地球の様子を紹介しながら、地球観測を進める国際協力の重要性及び期待を述べる開会挨拶を行い、私からは、10月29日に打上げられましたGOSAT-2の打上げ成功をご報告するとともに、JAXAの地球観測衛星が森林伐採監視や災害対応等で使われている成果についてご紹介しました。
 地球観測ミッションとして、JAXAは温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)および「いぶき2号」(GOSAT-2)、陸域観測技術衛星2号「だいち2号」(ALOS-2)、さらに日本とNASAを中心とした国際協力によって進める全球降水観測計画/二周波降水レーダ「GPM/DPR」によってGEOに貢献しております。
 本会合では、各国から地球観測データのさらなるオープン&フリーの推進、そしてこれらデータをビッグデータ解析技術により分析し、優先連携3分野をはじめとする地球規模課題に資する情報に変換、政策決定者に提供する役割をGEOにおいて協力推進することが提唱されました。JAXAは、気候変動や災害、SDGsなどの課題の解決を通じて国民生活の向上を図るべくGEOの活動に参加し、引き続き衛星観測やデータの提供、途上国との協力をすすめてまいりたいと考えております。

(2)国連気候変動枠組条約第24回締約国会議(COP24)について

 10月29日に打ち上げた温室効果ガス観測技術衛星2号「いぶき2号」は、現在は初期機能確認作業を順調に進めております。また、既にプレスリリースでお知らせしております通り、11月9日には、搭載されているセンサの1つである、「雲・エアロゾルセンサ2型(TANSO-CAI-2)」の初画像を公開しました。今後も引き続き、温室効果ガス観測センサ2型(TANSO-FTS-2)の機能確認を含む初期チェックアウト作業を今後、約2ヶ月かけて行う予定です。
 この「いぶき2号」は、世界中の温室効果ガスを高精度かつ均一に観測することで、第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で採択された温暖化対策に関する国際的な枠組みである「パリ協定」の実効性を高める役割が期待されています。
 12月2日からは、ポーランドのカトビッチェでCOP24が開催されます。JAXAは文部科学省や環境省とともに日本政府代表団の一員として参加し、「だいち2号」等の人工衛星観測による森林減少監視のための早期警戒システムに関するイベントや、環境省・国立環境研究所と共に、衛星による温室効果ガス観測にかかるイベントを、ジャパンパビリオンにおいて、12月5日に開催する予定です。

 また、12月6日の公式サイドイベントとして、欧州宇宙機関(ESA)等とともに“Transparent Forests -how the Global Forest Observations Initiative supports the REDD+(レッドプラス)process-”(透明性のある森林観REDD+に貢献する全球森林観測イニシアティブ-)も行います。REDD+とは、途上国における森林減少・劣化の抑制や持続可能な森林経営などによって温室効果ガス排出量を削減あるいは吸収量を増大させる努力にインセンティブを与える気候変動対策を指しております。更に、ドイツパビリオンにおいて、DLRの主催のサイドイベントに参加し、衛星による温室効果ガス観測とパリ協定への貢献について、登壇する予定です。これらのサイドイベントの開催や公式展示を通じて、JAXAの地球観測衛星が温室効果ガスの吸収と排出の把握において果たす役割を実例とともに紹介します。
 温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」による宇宙からの観測が、世界全体の温室効果ガスの排出削減状況の把握に貢献できるよう、JAXAも関係宇宙機関と協力してこの活動を進めております。

HTV7号機について

 H-IIBロケット7号機によって9月23日に打ち上げられ、28日にISSにドッキングした「こうのとり」7号機(HTV7)は、11月8日にISSから離れ、11月11日に大気圏に再突入しました。
 今回の「こうのとり」7号機では、JAXAが開発した小型回収カプセルを搭載しており、我が国として初めてとなるISSからの物資回収の実証実験を行いましたが、この中で2つの技術実証を行いました。
 ひとつ目が揚力誘導制御技術です。「はやぶさ」の帰還カプセルの弾道飛行での大気圏再突入とは異なり、スラスタを用いた揚力誘導(カプセルの姿勢を傾けることで揚力、つまりリフトを発生させ、これを制御することにより高度や進行方向を調整)による制御を行っています。これにより再突入時の衝撃を4G程度に抑え、目標地点への誘導を行っています。
 小型回収カプセルは、「こうのとり」の再突入マヌーバ(メインエンジンによる軌道離脱制御の最終回)の完了後、6時24分に「こうのとり」から分離し、大気圏に再突入しました。その後7時6分、南鳥島沖南南東約660kmの海上に着水が確認できたとのことです。詳細は解析中ですが、揚力誘導飛行はおおむね良好な結果だったと聞いています。
 もうひとつの技術が、再突入時の高温からカプセルを守る世界最高レベルの国産低密度アブレータによる軽量熱防護技術の実証です。回収された機体やサンプルを格納した収納容器の状況から、この国産低密度アブレータによる軽量熱防護についても、概ね良好と聞いています。なお、この熱防護された機体内部の環境の中で、ペイロード収納部に格納された真空断熱容器と保冷剤により容器内を4度前後(±2℃)に保ったままISSからの実験サンプルを回収する実証も行いました。
 13日に筑波宇宙センターに到着したタンパク質結晶のサンプルの状態を確認したところ、結晶や容器等に問題はなく、ISSでのカプセルへのサンプル搭載から回収船でのサンプル取り出しまでの温度環境は、4℃付近で安定して維持されていたとのこと。今後、個々のサンプルの研究チームで、それぞれ詳細な解析が実施される予定です。

2018年11月11日航空機から見た、着水した小型回収カプセルの様子と小型回収カプセル引き上げの様子(2分)

 ISSからサンプルを回収し無事帰還したカプセル本体は、南鳥島からは船舶で輸送され、17日に筑波宇宙センターに戻ってきております。現在、HTV搭載小型回収カプセル開発チームが評価を進めており、カプセル本体の公開とあわせ、27日の記者説明会の際に速報として皆様へご報告予定です。
 今回の回収では、南鳥島の場外離着陸場および港湾施設、茨城空港施設等の利用、航空と海上の安全確保等において、非常に多数の機関に多大なご協力をいただいて実現いたしました。改めまして関係者のみなさまに厚くお礼を申し上げます。

H3ロケットの開発状況について

 H3ロケットについては、今年度は製作・試験フェーズの作業を進めております。既に皆様にも種子島宇宙センターにて公開させていただきました新型の第1段エンジン「LE-9エンジン」の2シリーズ目の実機型エンジン燃焼試験では目標推力(150トン)、実飛行と同等の燃焼時間(約270秒)を達成しました。また、イプシロンケット第1段の開発を兼ねる固体ロケットブースター「SRB-3」の燃焼試験を8月に種子島宇宙センターにて実施し、計画通り、着火・燃焼等の特性のデータを取得しました。
 現在は、三菱重工田代試験場にて、第1段厚肉タンクステージ燃焼試験(BFT: Battleship Firing Test)の準備に取り掛かっております。こちらは、実機を模擬した厚肉のタンクと種子島での燃焼試験を経たLE-9エンジンを組み合わせた燃焼試験を行うことにより、推進系としての機能・性能データを取得し、設計に反映させるための試験です。

第1段厚肉タンクステージ燃焼試験の準備状況写真

第1段厚肉タンクステージ燃焼試験の準備状況写真

 試験機初号機の実機製作にも着手しており、開発がまさに佳境に差し掛かってきているところです。
 このH3ロケットは、ロケットシステムだけではなく、地上施設設備システム、打上安全監理システムの3つからなる、ロケットの総合システムとして、利用者の声を実現することを第一に考え、柔軟性・高信頼性・低価格を特徴とするロケットとして開発を進めています。
 地上施設設備システムでは、今年度建屋が完成する竹崎発射管棟(LCC)や移動発射台(ML)、運搬車といった開発も進んでおります。

H3主要設備

H3主要設備

 これまで皆様にはロケットシステム関係の試験を公開させていただきましたが、このたび12月5日に地上施設設備システムのひとつであるML(移動発射台)運搬台車の走行試験を愛知県半田市の日本車輛製造株式会社殿の衣浦製作所で公開します。

H3地上設備 竹崎地区

H3地上設備 竹崎地区

 ML運搬台車は、ロケットを組み立てる整備組立棟(VAB)から射点にロケットを打ち上げる発射台を移動させる重要な役割を担っている車両です。これまでの車両から信頼性の向上、維持費の低減や運用性の向上を図っており、また、デザインもこれまでのデザインから変更しております。運搬台車をご覧いただける貴重な機会になりますので是非ご覧いただければと思います。

種子島宇宙センター打上げ50周年記念について

 先ほどご紹介したH3ロケットですが、H3ロケット試験機初号機を、2020年度に種子島宇宙センターから打ち上げる予定です。この種子島宇宙センターで、初めてロケットが打ち上げられてから今年で50年を迎えました。昭和43年(1968年)9月17日に南種子町の茎長地区、竹崎に設けられた竹崎射場より初めて「高層気象観測用固体ロケットSB-IIA9号機」ほか計3機の小型ロケットが打ち上げられてから50年、この50年間の間に、宇宙開発は大変進歩しました。とりわけ日本の宇宙開発は著しく進歩し、世界の中でも宇宙大国の一角を占めるポジションにまで来たと認識しております。
 小惑星「リュウグウ」に小型ローバを着陸させ、いよいよタッチダウンに向けた準備を行っている「はやぶさ2」も、この種子島宇宙センターから飛び立ちました。気象観測衛星や測位衛星もすべてこの種子島宇宙センターが始まりの場所、子供達に夢を届ける使命も担っている場所でもあります。50年前に打ち上げられたロケットからは想像もできないほど高性能化・大型化したロケットが日常的に打ち上げられるまでになりましたが、日本の大型ロケットの発射場として、種子島宇宙センターは非常に重要な役割を果たし続けてきており、今後も必要不可欠な場所です。
 これからもロケットの打上げや新型のH3ロケットの開発について、引き続きご理解、ご支援をお願いしたいと思っております。
 すでに皆様にはお知らせしておりますが、種子島の地元の皆さまや関係機関の皆様に支えられて50年歩んできた種子島宇宙センターが、さらに未来に向かって皆様と共に歩むことを目指し、種子島宇宙センター打上げ50周年を記念した記念式典を11月24日に、特別公開を25日に実施したします。式典は、JAXAのロケット開発の歴史を支えていただいた方々も集まっていただく貴重な機会となる予定です。また、特別公開は普段は一般には公開されていない場所をご覧頂くスペシャルツアーや50周年の記念イベントも準備していますので、ぜひ足をお運びいただければと思います。

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